ケーブルTV事業者は電話事業者に対するプレッシャーを強めた。ケーブルTV事業者はコンシューマ向けブロードバンドのシェアでは電話会社を上回っている。その差は狭まっているが,性能上ではケーブルモデムがリードをしており,電話会社のADSLは値下げでローエンド市場でシェアを伸ばしているのが実情である。ケーブル電話事業者はVoIP技術を使った固定電話を売り始めており,Comcastは100万,Time Warnerは160万と加入世帯数を伸ばしている。これに対して電話事業者はネットワークのアップグレードでブロードバンドの速度を速め,さらにビデオサービスの提供を始めた。しかし,ビデオを1年前に始めたVerizonでも加入世帯数は12万程度であり,AT&Tはまだサービスを始めたばかりである。
電話会社の強みは携帯電話であったが,ついにケーブルTV事業者も携帯電話事業に乗り出した。Comcast,Time Warner Cable,Cox,Advance/Newhouseの4社は2005年末にSprintとジョイントベンチャーを作り,ケーブルTVと携帯電話のサービスを融合するサービスを開発しているが,ComcastとTime Warner Cableはこの11月にSprintのネットワークを使ったMVNOのサービスを正式に開始させた。Comcastはボストンとオレゴン州のポートランドで,Time Warner Cableはノースカロライナ州ラリーとテキサス州オースチンでサービスを開始した。CoxとAdvance/Newhouseは現在テストを行っており,2007年初め頃にサービスを開始する予定である。
Comcastの携帯電話の料金は200時間の通話料を含み,33ドルとなっている。Comcastは現在,固定電話,ブロードバンド,ビデオをパッケージで月額99ドルで販売しているが,携帯電話を含めた,クアダプルプレーのパッケージはまだ発表されていない。端末はLGのFusicを含め,4つのモデルが提供されている。
Sprintの200時間通話を含めた月額料金は$29.99で,Comcastの方が若干高い。しかし,Comcastのサービスには300のテキストメッセージ(これはSprintでは$5のオプション)が含まれているのに加え,自宅のComcastの固定回線電話間の通話は無料であり,またモバイル電話からComcastのビデオサービスのEPG(番組表)へのアクセスがある。
ケーブルTVと携帯電話のサービスの融合と言えるのは携帯電話からEPGが見える程度であり,SprintとMSOのジョイントベンチャーが設立した時に約束した携帯電話と固定電話のボイスメールの統合,携帯電話とケーブルモデムの電子メールの統合,TV,PC,携帯電話への共通したEPGの提供,携帯電話からのDVRの録画予約,携帯電話へのビデオコンテンツの提供等とはほど遠く,現時点では,単純なMNVOでしかない。
これらアプリケーションはまだ開発中である。携帯電話から自宅のDVRの予約をするサービスに関しては,セキュリティー上,MSOはSTB(DVR)への直接のアクセスを禁じており,これを可能にするにはMSOのヘッドエンドに携帯電話との通信ゲートウェイを設置する必要があり,そのセキュリティー技術の開発に時間がかかっていると発表されている。
融合サービスとしてはまだ大した事ではないが,MSOが携帯電話サービスを始めた事自体がVerizonとAT&Tには大きなプレッシャーになる。彼らも,モバイルと固定サービスの融合を進めていく必要がある。MSOの場合はSprintとのジョイントベンチャーであり,電話事業者の方が有利に見える。しかし,Verizonの場合,その携帯電話事業はVodafoneとのジョイントベンチャー,AT&TはBellSouthとのジョイントベンチャーであり,思うように出来ない。だが,MSOが簡単に携帯電話市場に参入する事を許したのでは,電話事業者が光ファイバーに投資をしてビデオサービスを立ち上げる前に,勝敗が決してしまう可能性もあり,絶対に守らなければならない市場である。