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NSI Research社の 
年間情報サービス「The Compass」  と「デジタル放送とブロードバンドTVの情報サービス」

放送/メディア会社、通信事業者・機器ベンダを対象としています。


インターネットをテレビ放送に使う価値 (ブロードキャスティングレビューシリーズ No.28)
2006年9月25日号

IPTVとインターネットTVが同じような意味で使われる事があるが,全く異なる物である。IPTVとはFTTH,VDSL等の閉鎖されたネットワークで提供されるケーブルTV同等のサービスであり,伝送にIPが使われている。ケーブルTVでも伝送にQAMではなく,IPを使うことも可能である。これに対してインターネットTVは公衆のインターネットサービスを使った「テレビ」サービスであり,サービス事業者はラストマイルの回線には関わっていなく,その提供は第三者任せになる。

インターネットを使ったビデオの提供は大きく普及している。しかし,インターネットをリニアなテレビ番組の放送に使うことは果たしてメリットがあるのか? インターネットの最大の特徴はそのインタラクティブ性であり,オンデマンドなビデオプログラミングの提供であれば,その特徴を生かした物である。だが,リニアに流されているテレビ放送を送る媒体に,基本的にOne to Manyの媒体ではないインターネットを使うメリットは何か?

特に,ケーブルTVが全世帯の98%に通過し,2つのデジタル衛星事業者(DBS)があり,さらには電話事業者もケーブルTV(同等)のサービスに参入し始めている米国で,これら事業者が提供するのと同じテレビ放送をわざわざ画質の落ちるインターネットで提供する必要性は存在しないように思える。しかし,インターネットを使ったテレビ放送を提供する事業者がすでに3つ登場している。

1つはVDC.comで,月額12ドルで20程のケーブルTVチャンネルをストリーミング放送するサービスを行っている。ShopNBC,QVC,FashionTV,NASA TV等のチャンネルが,ケーブルTV,あるいはDBSで放送されるのと同じスケジュールでストリームされている。 しかし,CNN,ESPN,MTV等のポピュラーなチャンネルはなく,チャンネルはホームショッピングとほぼ無名なネットワークである。VDCはTime Warnerを含めた大手と交渉中であると発表しているが,なぜ,インターネットで放送をするのかの理由は見えてこない。

9月にAT&TはMobiTVとの共同でブロードバンドによるTV番組の提供を発表した。MobiTVは携帯電話向けのビデオサービスを行っている会社で,Cingular,Sprint等がMobiTVを提供している。MobiTVはすでにテレビネットワークとの関係があり,提供する番組はVDC.comよりポピュラーな物で,現在Fox News,The Weather Channel,Bloomberg TV等が放送されている。AT&T Broadband TVと呼ばれるサービスは,AT&T DSLユーザに限らず,他のブロードバンドサービスの加入者でも利用出来る。料金は月額20ドルになる。AT&Tは,その計画は3つの画面 - TV,携帯電話,PCに対して同じコンテンツを提供するサービスを実現する事と語っている。この考えはリーゾナブルである。ケーブルTVで有料放送のHBOに加入しているのなら,TVが無い部屋でも,外出中でもHBOの番組を見たいと思うのは当然である。しかし,家の中であれば,STBとPC間で番組を送ることの出来るサービスを提供してくれれば良く,外出中は携帯電話でも,PCでも,他のモバイル端末でも受信可能なモバイル放送の方がインターネットによる放送より便利で,効率的である。

3つめのサービスはTV Anywhereで,同社はMPEG-4を使い,高画質のビデオストリーミングサービスを2007年から行う予定を発表している。TV Anywhereは最初は,ビデオをオンデマンドで提供するサービスで立ち上げるが,本当の計画はアメリカで放送されているテレビ番組を海外に住む,1200万のアメリカ人に提供する事だと発表している。これは,インターネットでテレビを放送する理由としては納得出来る。ソニーのロケーションフリー等を使って,日本の番組を海外で見ている日本人も少なくなく,外国に住んでも,自国の番組を見たい要望は強い。

しかし,これを実現する事は非常に困難である。放送として提供する場合,世界的な放送権を得ることはほぼ不可能である。放送権は地域的な物であり,アメリカで放送権があっても,日本に住むアメリカ人に向けにその番組を放送する事は出来ない。放送としてでは無く,番組を録画し,オンデマンドで提供する方法もあるが,これはさらに複雑な問題になる。CablevisionはネットワークベースのDVRを始めようとした事で,コンテンツ事業者との訴訟になっている。アメリカ国内であり,利用者はCablevisionの加入者と限定出来る状態でも,事業者が番組を録画し,オンデマンドで提供する事に問題があるのに,利用者は全世界であり,限定が難しいインターネットでのサービスにコンテンツ事業者が賛成するはずは無い。インターネットを使った放送しての目的は良いが,実現性は低い。



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