高まるモバイルビデオサービスへの関心　(ブロードキャスティングレビューシリーズ No.26)

　5月に開催されたNAB（全米放送協会）の展示会でもQUALCOMMのMediaFLO，NokiaのDBV-Hの展示があり，モバイルビデオサービスへの動きが活発になっている。携帯電話事業者のトップ3社の内，Sprint，Verizonは3Gに先行し，ストリーミングによるビデオサービスを始めていたが，最近Cingularも加わった。米国の携帯電話の普及率は2005年末で人口の70%を越え，加入者数の増加が鈍化することが予想される。また，着メロ，ゲーム等のダウンロードで，ARPU（ユーザあたりの平均利用料金）の低下は押さえられてきたが，減少傾向が見えており，新しく収入源となるサービスとしてビデオへの期待が大きい。

　また，Disney，NBC Universal，Fox等のコンテンツ分野の大手もモバイルビデオには強い関心を示し，携帯電話事業者が提供しているビデオサービス向けにコンテンツの提供に力を入れ始めている。映画，テレビ放送の収入は頭打ちになっており，コンテンツ事業者はそのコンテンツを提供する新しいメディア（媒体）を求めている。インターネットによるコンテンツの提供は，映画，TV収入を脅かす可能性もあり，注意が必要であるが，モバイル向けサービスにはその可能性が低い。逆にモバイル向けのコンテンツとしてはTV番組，映画で使わなかったシーンを流したりし，映画，TVの視聴を高める効果も期待されている。

　しかし，モバイルビデオ市場が携帯電話事業者のリードで進んでいくとは限らない。3Gネットワークでのユニキャストのストリーミングサービスではネットワークへの負担が高い。米国の放送業界はデジタル放送にマルチパスに弱いVSB変調を採用したため，地上波局がモバイル環境向けの放送をする事は困難である。このため，別途帯域を使ったモバイル向けの放送網が企画されている。その1つはCDMA，BREW等の技術を提供しているQUALCOMMのMediaFLOである。MediaFLOはすでに手に入れているUHFの帯域を使った，モバイル放送サービスを今年秋から提供する予定で，Verizonがこれを利用することを発表している。この他，携帯電話の地上局を運営するCrown Castleが，MODEO，それにケーブルTV会社の元エクゼキュティブ達が投資しているAloha PartnersがHiwireと呼ばれるサービスを発表している。MODEOもHiwireもDVB-H方式で放送される。

　さらに，これまでビデオサービスで収入を得ている多チャンネルサービス事業者のケーブルTV会社，それにデジタル衛星（DBS）事業者が黙って新しいビデオサービスの登場を見ている訳ではない。DBS事業者のEchoStar（DISH Network）とDirecTVは共にそれぞれが提供するDVRに録画されてコンテンツを外出先で見るためのモバイルビデオプレーヤを販売し始めている。さらにDirecTVはモバイルビデオプレーヤ等に直接にコンテンツを提供する方法としてWiMAX網の構築に10億ドルの投資をする計画を発表している。ケーブルTV事業者の大手，Comcast，Time Warner Cable，Cox，Advance／Newhouseの4社は携帯電話事業者のSprintとモバイル通信とビデオサービスを融合させたサービスを提供するジョイントベンチャーを2005年末に立ち上げている。携帯電話からDVRへの録画指定をする，DVRから携帯電話にコンテンツをコピーする等の既存のネットワークを使ったサービスだけでなく，Sprintが持つMMDSの2.5 GHz帯を使った無線ブロードバンドネットワークによるコンテンツ提供も企画されている。

　モバイルビデオに目を向けているのは携帯電話，多チャンネル等のサービス事業者だけではない。DVRサービスのTiVoはすでにノートPC，PocketPC向けにTiVoのコンテンツをコピーし，外出先で見ることを可能にするTiVo 2 Goと呼ばれるサービスを提供している。インターネットを使い，自宅のTV，DRV等のビデオデバイスのコンテンツを外出先でPCからストリーミングして視聴する事を可能にするSlingBoxを販売しているSling Mediaは視聴に使えるデバイスとしてスマートフォンをすでに加えており，携帯電話会社の提供するビデオサービスを使わずにもTV放送を屋外でも見る事を可能にしている。

　テレビ，PCに続くコンシューマ向けの媒体として携帯電話のディスプレイを狙う会社は多く，モバイルビデオ市場は早くも複雑化している。

データリソースは2006年6月に「アメリカにおけるモバイル向けビデオサービス」を出版しました。 　詳細は、データリソースまでお問合せください。（電話：03-3582-2531、Eメール：info@dri.co.jp）