DRI テレコムウォッチャー  from USA

このシリーズは毎月20日に掲載!!

NSI Research社の
「The Compass」 と 「アメリカのデジタル・ブロードバンド放送産業」(年間情報サービス)
 放送/メディア会社、通信事業者・機器ベンダーを対象としています。


ABCがインターネットでTV番組を無料で提供
 (ブロードキャスティングレビューシリーズ No.25)
2006年4月25日号

 音楽業界はインターネットを使ったビジネスモデルへの移行で失敗を犯した。CDの販売ルートにこだわり,業界はNapstarを敵視した。インターネットによる音楽の流通を生かすのでは無く,逆にCDのリッピングを難しくする等,ユーザをも敵にする動きに出た。その結果,CDの売上げは落ち,結局はAppleのiPod/iTunesに救われ,インターネットで儲け始める事が出来た。音楽業界がもっとうまく動けていたら,自分たちでインターネットを使ったビジネスモデルが出来,Apple等にマージンを取られることは無かったであろう。

 この失敗を見ているビデオコンテンツ業界は,積極的にインターネットを利用したビジネスモデルを試している。映画をインターネットで提供しているMovielinkはハリウッド映画会社のジョイントベンチャーである。最近では,ケーブルTV上でのTV番組のVOD,さらにはインターネットでのTV番組の提供も始まっている。

 VOD,あるいはインターネットによるコンテンツの提供をする場合,既存のルートにマイナス影響を与えないように気遣う必要がある。特にTV番組の場合,放送局の利益を守る必要がある。アメリカではABC等のネットワークが全米の局を保有する事は禁じられている。1つの会社が保有可能なTV局の範囲は人口の39%であり,残りの61%へのリーチは独立した放送局会社に頼る必要がある。ネットワークとしてこれらの会社を怒らせることはマイナスである。NBCがComcastのケーブルTV上でその番組をVODしているが,サービスを提供しているのはNBCが直接保有している局がある地域のみで,Gannett等の別社がNBC局を持っている地域ではこのVOCサービスは提供していない。

 放送局を持つ会社は,TV番組がVOD,インターネット等で流通する事は視聴者を減らし,広告収入が減る可能性があると反対しており,また,TV番組がiTunes等で$1.99で売れるのは自分たちが放送し,ポピュラーにしているからであり,自分たちにもコミッションが入るべきだと考えている。放送局会社,ケーブルTV事業者等の既存ルートを敵にする事はリスキーであり,ビデオコンテンツ事業者は新しいルートを開発しながら,既存ルートも保護すると言うバランスを保とうとしている。

 しかし,Disneyは独自にコンテンツの提供を行い,既存ルートに競合する積極的な動きに出ている。最初は,iTunesでの番組の販売である。ネットワークの中で番組を販売し始めたのはABCが最初であり,放送局会社の批判を集めた。次にDisneyはMovieBeamを復活させた。MovieBeamは地上波放送のデータ放送を使い,専用のSTBに映画を蓄積し,オンデマンドで提供するサービスである。MovieBeamはケーブルTV事業者のVODに競合するだけでなく,公開日はDVDのリリースと同じであり,DVD販売,あるいはレンタル事業にも競合する。MovieBeamはDisney自体が提供し,ケーブルTV,ISP等の事業者には頼っていない事でも注目されている。

 そして,今度は5月から2ヶ月間の間,Lost,Desperate Housewives等の新作のヒットTV番組を無料で,ABCのウェブサイトから提供する事を発表した。これは,iTunesで番組を売る以上に,放送局会社の視聴率には影響を与える。ABCは広告を売り,収入を得るが,放送局会社にはメリットは無い。2ヶ月間のテストであるが,放送局会社はそのインパクトを心配している。また,インターネットでの番組の無料提供はiTunesでの販売にも影響をあたえるであろう。

 何よりも,業界にショックを与えたのはABCがこの発表をケーブルTV事業者の集まりであるNational Cable Telecommunications Association(NCTA)のThe National Showで行った事である。Comcast,Time Warner Cable等のエクゼキュティブが集まっている席で,ケーブルTVのビジネスモデルを全く無視した,インターネットでのコンテンツの無料提供のアナウンスを行うのはすごい事である。ケーブルTV業界ではABCに自分たちの集まりをハイジャックされたとの批判も出ている。ABCはMSOを無視するほど自分のコンテンツの持つ強さを信じているのであろうが,この様な自信がある会社があることは楽しいことである。

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