DRI テレコムウォッチャー  from USA

このシリーズは毎月20日に掲載!!

NSI Research社の
「The Compass」 と 「アメリカのデジタル・ブロードバンド放送産業」(年間情報サービス)
 放送/メディア会社、通信事業者・機器ベンダーを対象としています。


CablevisonのネットワークベースのDVRサービスの持つ意味
 (ブロードキャスティングレビューシリーズ No.24)
2006年3月25日号

 米国のケーブルTV事業者のCablevisionは今年の第2四半期からカリフォルニア州ロングアイランドの同社のシステムで,ネットワークベースのDVRのサービスを約1000世帯を対象に行うことを発表した。ネットワークベースのDVRサービスに関してはこれが著作権上,番組提供者の許可無しで行えるかが不明瞭である。ケーブルTV事業者が送信する番組を録画し,それを無許可で再放送する事は違法であり,これまで番組提供者(TVネットワーク)はケーブルTV事業者のネットワークベースのDVRを許さない姿勢を明らかにしてきた。

 Time Warner Cable(TWC)は一時,Mystroと呼ばれるネットワークベースのDRVサービスを計画したが,番組提供者の猛反対でスタートはしなかった。TWCは現在,Universal/NBCの許可を得て,Start Overと呼ばれる,番組が放送されている時間に限定されたネットワークDVRサービスをテストしている。Start Overでは視聴者は番組を放送中であれば,いつでもその番組を最初から見る事が出来る。9時からスタートの1時間番組であれば,10時までであれば,初めから再スタートする事が出来る。広告スキップ等の機能は無い。

 Cablevisionはそれぞれの加入者に対して,独立した80 GBの容量をヘッドエンドのサーバーに確保し,加入者がそれに自由に録画をする事を可能にする。Cablevisionは同社が番組の録画を行い,再放送をするのではなく,既存のDRVと同様に加入者が独自に録画し,再生しているのであり,そのハードディスクがどこにあるのかは問題では無く,個人コピーの範囲であるとしている。加入者が設定した番組の録画はそれぞれのディスクスペースに行われる。もし,100人の加入者が同じ番組を設定した場合,100のコピーが作られる。ネットワークがそのサーバーの全部の番組を録画する方が遙かに効率的であるが,これは著作権上の問題がある。Cablevisionは現在,そのSTBベースのDVRは月額9.95ドルで提供しているが,ネットワークDVRはそれより安い値段で提供すると発表している。

 どの程度の反対が番組提供者から出てくるかは分からないが,Cablevisionは多くのコンテンツ事業者と話し,理解を得ていると発表している。これまでネットワークDVRには絶対反対であった番組事業者の考えは変わり始めている。まず始めにDVRに対する考えの変化がある。DVRは広告をスキップし,放送番組の価値を減らすとして,反対してきた。しかし,早送りが出来ても,見る広告は見ており,またDVRのタイムシフトにより,番組を見る人が増えることはTVネットワークに取りプラス要因である。DVRは普及し始めており,これをストップする事は不可能であろう。番組事業者はDVRに戦うより,いかにこれを有効に使うかを考え始めている。

 DVRの視聴者をその合計視聴率に加えることはTVネットワークに取り,重要である。スタンドアロン,あるいはSTB内蔵のDVRより,ケーブルTV事業者のサーバーにある方が視聴者データは確実に集めやすい。また,DVRの場合,録画された番組が不正にコピーされるリスクが高いが,ネットワークDVRではそのリスクは大きくと減少出来る。ネットワークDVRの方が管理されたタイムシフト環境を提供可能であり,番組事業者にメリットのあるサービスにして行くことが出来る。

 ケーブルTV事業者に取り,このCablevisionのテストは重要な物になる。もし,番組提供者の合意を得る事が出来,利用者の評判も高ければ,これはケーブルTV事業者の大きな武器になる。これにより,DVRサービスの価格を下げ,衛星TV事業者に対して優位に立つ事が出来,さらにアナログケーブルTV加入者をデジタルサービスにアップグレードさせるキラーアプリケーションになるかも知れない。

 また,このテストが成功すれば,ケーブルTV事業者に対するサービスとハードウェア(STB)のアンバンドル規制に対する大きなマイナス要因を無くす方向に進む事が出来る。ケーブルTV事業者は現在,インタラクティブサービス,DVR等,STBを高機能化する事で新サービスを実現し,料金を増やしてきた。もし,STBがアンバンドルされ,市販になると,新サービスの追加が容易に出来なくなる。STBが高機能になり,それを家電ベンダーが直接提供し始めると,ケーブルTV事業者に競合するサービスを家電ベンダー自体が加え始め,ケーブルTV事業者への収入が減ることも考えられる。もし,ネットワークDVRのサービスが成功するば,加入者のSTBはThin Client化させ,機能は全てヘッドエンド側に持たせることも現実的になる。STBを数十ドルのシンプルなボックスに出来れば,これをアンバンドルするデメリットは無くなり,ケーブル事業者に対するリスクは大きく減る。

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