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DRI テレコムウォッチャー from USA |
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| Viacomの分割がテレビ放送送信料に与える影響 (ブロードキャスティングレビューシリーズ No.23) |
2006年1月25日号
今月Viacomは,会社をViacomとCBSの2社に分割した。狙いはViacomグループ内の成長が穏やかになっている部門と成長が続いている部門を分けることで株価を安定させ,さらには上昇させることである。成長が穏やかな(悪く言えば成長は期待出来ない)部門とは,地上波TVネットワークのCBSとUPN,出版部門のSimon & Simon & Schuster,ラジオ局グループのInfinity Broadcasting等で,これらはCBS社名になる。成長が期待される方はViacomの社名を引き継ぎ,MTV, Nickelodeon, Comedy Central等のケーブルTVネットワークを持つMTV Networks,映画会社のParamount等で構成される。会長はどちらもレッドストーン氏である。
この戦略の成功を疑問視するアナリストが多い。通信会社のSprintもAT&Tも,一時は携帯電話事業等の成長している部門と成熟している長距離電話事業を2つの会社に分割していたが,成功はしなかった。しかし,このコラムではその事を語るのではなく,この分割がテレビ放送の送信料金に与える影響を検討する。
米国では地上波再送信を行う多チャンネル事業者(ケーブル,DBS,IPTV等)にはサービス地域の全部の地上波局を再送信しなければならない規制(Must Carry)がある。放送局はこのMust Carry権を辞退する事も出来る。Must Carry規制下で再送信をしてもらう局には,多チャンネル事業者に対して送信ライセンス料を求めるなどの交渉の権限は無い。Must Carryを辞退した局はライセンス料を含めた送信条件を表示出来るが,多チャンネル事業者はこれを拒否し,再送信を行わないことも出来る。
Must Carryを選ぶか選ばないかは,多チャンネル事業者との力関係である。視聴者が十分にあり,多チャンネル事業者が再送信を望んでいると思う局はMust Carryを辞退し,条件を交渉する。Must Carry規制が無ければ再送信はしてくれないと思う局は,Must Carryを選択する。
大手ネットワーク系の局はMust Carryを辞退している。しかし,彼らはこれまでケーブルTV事業者には送信料金は請求してこなかったが,代わりに同系列のケーブルTVネットワークを良い条件で送信する事を求めてきた。例えば,FOXネットワークを持つFOX Broadcastingであれば,地上波のFOX局の再送信の条件にそのケーブルTVチャンネルであるFox News,Fox Sports,FX等を送信する事を求めてきた。地上波ネットワークに勢力があり,ケーブルネットワークが立ち上がって来た時代,この戦略により地上波ネットワーク系列のケーブルネットワークが成功を収めた。
衛星事業者は,2000年前後に地上波再送信を始めた。衛星事業者は新しいサービスとして地上波再送信を提供し,ケーブルTV事業者のような力は無く,地上波局は再送信料を求めた。地上波局はDBS事業者に対して,1視聴者あたり,月10セントから20セントの送信料金を請求している。しかし,これは最大で月2ドル(ESPNの場合)と言われるケーブルネットワークが求める料金よりは安い。地上波局の送信料を安くする代わりに,ケーブルネットワークには高めの料金を支払ってもらう構造であった。
しかし,現在は地上波ネットワークとケーブルTVネットワークの力関係は逆転している。地上波ネットワークの視聴率は低下しており,「成長の期待出来ない」グループになっている。これを肴に成長が続いているケーブルTVネットワークを援助するのはおかしな話である。
変化は起き始めている。ケーブルTVネットワークなどの大きな交換条件を持たない地上波局会社は,再送信料の請求を始めている。2004年末にテキサス,アーカンソー,ルイジアナの数都市でCBS系とNBC系の放送局を持つNexstarは,それら地域のケーブルTV事業者CoxとCable Oneに対して,再送信料金を請求した。Cox,Cable Oneは共にこれを拒否し,Nexstarの持つ放送局の再送信を中止した。この争いは2005年末まで続いた。
また最近,DBS事業者のEchoStarは,12のABC局,10のNBC局等を持つHearst-Argyleに対して,その地上波局の送信料金を20セント程度から一挙50セントに値上げする条件を提示した。Hearst-Argyleがこれに応じた時点で,EchoStarは別途交渉中であったHearst-Argyleの親会社のHearstが50%の株を持つLifetimeとLifetime Movie(Disneyが他の50%を持つ)の2つのネットワークの値上げを拒否し,すぐさまにこの2つのネットワークの送信を停止してしまった。EchoStarはHearst-Argyleの局に対して正当な価値の送信料を払っているので,今後Lifetimeに割高な料金を払う必要は無くなったと主張し,逆に値下げを求めている。LifetimeはEchoStar全加入者の1200万が視聴対象であるのに対して,Hearst-Argyle局がカバーしている地域のEchoStar加入者数は180万である。180万世帯に対して30セント多く支払う方が,1200万世帯に対して5セントの値上げを求められるより安い。EchoStarは,地上波局の安い再送信料金を理由に割高なケーブルTVネットワークの支払いが求められる構造を崩そうとしている。
Viacomの分割はこれに拍車をかける。CBSは同社が持つCBS系とUPN系の局の再送信を引き続き無料(あるいは割安)に提供して,別会社となったViacomのMTV部門を儲けさせる必要はない。今後は,正当な金額の再送信料を求めるであろう。そして,Viacomは今後,地上波局の再送信権を盾にそのケーブルTVネットワークに対して高価な送信料金を求める事は不可能になる。この事で,Viacomの分離はこれまで不透明であったテレビ放送の送信契約を明確にして行くことに貢献するであろう。
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