DRI テレコムウォッチャー


2006年次第3四半期におけるAT&TとVerizonの財務状況

2006年11月15日号

 AT&TとVerizonの2006年次第3四半期決算は、予想以上に良好であった。両社ともに、携帯部門の大幅な収入・利益増に支えられて、前年同期に比し増収増益を計上した。特に、AT&Tの業績向上が著しい。しかし、その業績を部門別に見ていくと、両社ともに利益を少しでも多く計上しようとする会計上の操作に並々ならぬ努力をしているさまも伺われる。今後、競争の一層の激化、需要の低下とともに、携帯部門の利益に依存するにも限度があると考えられるし、また、両社ともに社運を賭して推進しているブロードバンドによるビデオサービスの提供のための投資も大きく財務を圧迫する要因となる。しかも、中間選挙により両社に極めて好意的であった共和党が下院、上院で過半数を割り、規制環境も厳しくなる。両社の今後の事業運営は多難であろう。
 本文では、2006年次第3四半期の決算資料に基づき、AT&TとVerizonの収入、利益の数値を比較した。端的に結論をいうと、AT&Tは、大型の他企業統合(固定通信分野での旧AT&T、および携帯分野ではAT&TWirelessの統合)を成功裏に実施しており、シナジー効果を発揮しているのに対し、VerizonはMCIの統合効果をまだ十分に生み出せていない模様である。さらに、Verizonの場合には、光ファイバー構築およびこれを使用してのビデオサービスの提供(FiOSサービス)の投資金額が高い点も、AT&Tに比してのハンディとなっている。
 本号ではまた、AT&T、Verizon両社のブロードバンド提供状況についても触れる。ブロードバンドでは、両社とも、ビデオサービスが離陸(Verizon)あるいはサービス開始するなど、新段階に入った。ただし、DSLの架設数増加率は逓減しており、MSO(Comcastを始めとする大手ケーブル会社)との差がさほど縮んでいない模様である。

 ところで、DRIテレコムウォッチャーの前号で、FCCによるAT&TのBellSouth統合の承認の遅れについて紹介した(注1)。これに関連し、2006年11月7日の中間選挙による民主党勝利の影響が早くも現れている点を付記しておきたい。2007年1月からの米国新国会で下院のエネルギー・商業委員会の委員長になることが予定されているJohn Dingell下院議員(1996年電気通信法制定にも深くかかわった電気通信規制についてのベテラン議員)は、中間選挙後早々に、FCCによるAT&T/BellSouthの承認は、2007年の国会開会までは行わないよう希望するとの意見を表明しているという(注2)。
 このような状況から、AT&Tの悲願であるBellSouth統合の2006年内実施は、見込み薄である。


AT&TとVerizonの収入・利益比較(注3)

 まず両社の携帯、固定双方を含めた総収入と純利益、営業利益を表1に示す。

表1 2006年第3四半期におけるAT&TおよびVerizonの総収入・利益の比較
(単位:億ドル、括弧内は2005年第3四半期対比の増減率)
項目
AT&T
Verizon
総収入
*1 248.32(+28.4%)
232.5(+25.8%)
営業利益
43.33(+65.4%)
39.24(+12.2%)
営業利益率(%)
17.4(+26.4%)
16.9(-20.3%)
純利益
*1 21.65(+73.8%)
*2 14.46(+4.0%)
純利益率(%)
8.7(+31.0)
6.2(+10.3%)
*1AT&Tの総収入には、携帯部門、Cingular Wirelessの総収入が含まれている。しかし純利益には、持分に応じ、Cingular Wireless利益の60%が含まれている。
*2Verizonは公式に純収入を発表していない。ただ、固定部門、携帯部門、電話帳部門の3部門について部門別純利益が表示されているので、表1にはその総和をVerizonの純利率だと推定して計上した。

 表1によると、AT&TとVerizonの両社は、一見、きわめて似通った財務構造を示しているように見受けられる。
 第1に、それぞれ大型のM&Aを実施(AT&Tは、長距離電話会社のAT&TおよびBellSouthと共同で携帯電話会社のAT&TWirelessを、またVerizonは長距離電話会社のMCIを統合)したことにより、総収入はほぼ似通ったものとなった。また、利益、利益率が前年同期に比し、向上している点も同様である。ただ利益率の点では、VerizonはAT&Tに遅れを取っている。
 数年前まで、その規模といい、利益額、利益率といい、Verizonが地域電話会社(RHC)、長距離電話会社のなかでは、もっとも優れていた。しかし、表1で見る限り、強引とも言える他社の吸収と巧みなコスト削減政策で業績を伸ばしてきたAT&Tに追い抜かれた感がある。
 さらに、携帯、固定部門別に両社の収入、利益を検討していくと、AT&Tの優位、Verizonの劣勢の理由が明かになる。

AT&T、Verizonの携帯部門の財務比較

 表2に、AT&Tの携帯部門(AT&TWireless)とVerizonの携帯部門(Cingular Wireless)の収入、利益の比較を示す。

表2 2006年次第3四半期におけるAT&TおよびVerizonの携帯部門の収入・利益の比較(単位:億ドル)
項目
*AT&T携帯部門
*Verizon携帯部門
収入
95.53(+9.2%)
98.69(+18.2%)
営業利益
14.16(+214%)
25.87(42.2%)
営業利益率(%)
14.8(+197%)
30.5(+52.5%)
純利益
8.5(+387%)
8.04(+40%)
純利益率(%)
8.9
9.5
 (括弧内は、2005年第3四半期対比増減率)
AT&T携帯部門はすなわち、Cingular Wirelessであって、AT&TとBellSouthがそれぞれ60%、40%の持分を所有している。もっとも、この表2では、CingularWirelessのすべての収入、利益を計上した。また、Verizonの携帯部門はVerizon Wirelessであって、英国携帯電話会社Vodafoneが同社に45%の資本を有している。

 表2から、Cingular Wireless、Verizon Wirelessともに、前年同期に比して成長が著しく、次項、表3で明らかな両社固定部門の停滞をカバーしていることが読み取れる。
 ここ1年間における両社の成長には、次のような特色がある。

  • CingularWirelessは、1年ほど前、当時、米国第4番目の携帯電話会社、AT&TWirelessを買収し、一気に加入者数において米国最大の携帯電話会社へと飛躍した。その後、同社は、両社のGSMネットワークの統合を鋭意進めてきたが、今回の決算報告でようやく、ネットワーク統合を実現したと発表した。表2における好調な収入の伸びと利益の拡大は、同社のネットワーク統合の努力が実っていることを意味する。
  • VerizonWirelessの場合は、他社合併に頼らず、内発的な成長の成果が実っている。同社は、収入、品質の点で業界トップの携帯電話会社であり、最近では、3Gネットの普及においても、業界一位の地位を占めている。
  • しかし、加入者数では、2006年9月末現在、CingularWireless5866万、VerizonWireless5674万と190万ほどの差でCingular Wirelesssが首位の座を守っている。ただ、ここ1年間の加入者の純増は、Cingular Wirelessの約136万に対し、VerizonWireless約190万であり、両社の差は縮まりつつある。

 今後、米国でも欧州、日本の場合同様、携帯電話の需要は、急速に飽和すると考えられるので、両社によるトップを目指しての競争は益々激化するだろう。


固定電話部門において不調のVerizon、健闘するAT&T

利益減が著しく、好調な携帯部門に辛うじて支えられるVerizon

表3 2006年第3四半期におけるVerizon固定部門の収入・利益(単位:100万ドル)
項目
固定通信部門
電話帳部門
収入
12,797(+35.5%)
804(-6.2%)
13,601(+32.0%)
営業利益
1,123(-13.6%)
373(-15.4%)
1496(-14.1%)
営業利益率(%)
8.8(-35.8%)
46.4%(+9.7%)
12.8(-24.8%)
純利益
393(-26.8%)
249(-10.8%)
642(-21.6%)
純利益率
3.1(-45.7%)
31.0(-4.7%)
4.7%(-21.7%)

 表4のAT&Tの固定部門と比較して表3で特徴的であるのは、Verizonの固定部門の利益額、利益率がきわめて低いことである。固定通信部門の8.8%という営業利益比率の低さの主原因は、同社が巨額のサービス・販売経費を費やしている点に求められる。この金額は、6205百万ドルと収入の約50%に及んでいる(表3には計上せず)。
 これは、主として、Verizonが光ファイバー敷設およびデオ・サービスの推進に多額の投資を行っている事実の財務面への反映だと見ることができる。
 ともかく、Verizonは好調な携帯電話部門からの利益を投入して、ブロードバンド推進政策を推進している結果、固定電話加入者の喪失の大きさ(同社は、2006年9月末までの1年間に120万もの固定電話加入者数を失っている)と相まって、固定通信部門の利益率は低減傾向にある。
 なお、Verizonは表3に示した電話帳部門をスピン・オフし、近々、新会社、"Idearc"として、株式を上場する。その理由として、電話・インターネット・携帯を中核のビジネスとするVerizonにとって、この事業が付帯的なものであるという点が挙げられている(注4)。
 ついでながら、VerizonのCEOのSeidenberg氏は、Verizonのインターネット網による統合サービスの提供に執念を燃やしており、この目的のためならば、他の分野に力を注ぐことを避ける傾向がある。つまり、企業の拡大それ自体には関心がないようである。この点、あくなき事業の拡大を追及しているかに見えるAT&TのCEO、Whitcre氏と路線を異にする。

固定通信部門も利益増の傾向にあるAT&T

 AT&Tの固定通信の収入・利益の状況を表4の通りである。

表4 2006年次第3四半期におけるAT&TおよびVerizonの携帯部門の収入・利益の比較(単位:100万ドル)
項目
固定通信部門
電話帳部門
関連会社等
総収入
14,586(+58.6%)
921(-1.2%)
204(+12.1%)
営業利益
2,454(+48.7%)
481(-4.9%)
-17(+57.5%)
営業利益率
16.8(-3.7%)
52.2(-3.7%)
-8.3(+260%)
純利益
*1 1,052
479(-5.3%)
*2 651(+299%)
純利益率
*1  7.2
52.0(-0.4%)
*2 634(+354%)
*1AT&Tは、固定通信部門の純利益を発表していない。ここで計上した数値は、同社の総利益から、携帯部門、電話帳部門、海外子会社等の純利益を差し引いた推計値である。当らずとも、遠からずという程度の数字と理解していただきたい。
*2ここでは、総収入を大きく上回る純利益が計上されている。これはCingular Wirelessの利益の40%等関連会社からの利益を計上したことによる。

 表3のVerizonの固定通信部門の数値と比較すると、AT&Tの業績が格段に良い。収入も10%程度、Verizonより多いが、それにしても営業利益、純利益においてそれぞれ、AT&Tの2倍、3倍の数値を示している。
 また、AT&T、Verizonの両社について言えることであるが、年々、減収を続けているとはいえ、電話帳部門の収益率が高く、大きく、両社の利益に寄与している点が際立つ。


Comcastに遅れを取るAT&T、Verizonのブロードバンド、期待されるVerizonのFiOSサービス

 表5、6に、AT&T、Verizon両社のブロードバンド加入者数および、AT&T、VerizonとComcast(米国最大のケーブルテレビ会社)の加入者数比較を示す。

表5 AT&T、Verizonのブロードバンド数(単位:万)
ブロードバンドの種別
AT&T
Verizon
DSL
820
580
FiOS Internet
-
54.2
FiOS TV
-
11.8
U-Verse
0.3
-
820.3
657


表6 AT&T/VerizonとComcastのブロードバンド加入者数比較(単位:万)
事業者名
2006年9月末現在
2007年12月末現在
増加率(%)
AT&T
820
690
18.8
Verizon
657
510
28.8
Comcast
1100
810
35.8

 表5、6からおおよそ次のことが読み取れる。

  • ブロードバンド加入者数において、AT&TはVerizonに大きく差を付けている。これは、一つには、AT&TがVerizon以上に、マーケッティングに力を入れた成果が実った(例えば、月額10ドルで低速DSLアクセスの提供等)ためと考えられる。
  • 他面、Verizonが2005年夏以来、鋭意、サービスエリアの拡大に努力してきた光ファイバーブロードバンドは、今期、ようやく相当数の加入者獲得を公表した。インターネット、ビデオ双方を含めて、72万加入者の実績は、まだファイバー敷設が初期段階にあると考えられる現在、相当に重みがある数値である。FiOSは、ようやく離陸段階に入ったといえよう。
  • AT&Tは、U-VerseとHomezone(いわゆるIPTVサービスに衛星サービス等も加え、U-Verseで提供できないエリアへのサービス提供、パッケージサービスをも模索している)の提供を宣言しているが、表5に示したとおり、現在のところ、決算報告で示されたのは、U-Verseの3000加入だけである。要は、両サービスともに、試行段階にあるといった方がよいようである(注5)。
  • 表5から、Verizo、AT&Tのブロードバンドは、加入者数の絶対値からしても、その増加率からいっても、MSO(大手ケーブル会社)の雄、Comcastの数値の前では、色褪せてしまう。


(注1)2006年11月1日付けDRIテレコムウォッチャー「難航するFCCによるAT&T/BellSouth合併の承認要件 - Net Neutralityの取り扱いが焦点に」
(注2)2006.11.10付けForbes, "Dingell: FCC Should Delay AT&T Vote"
(注3)表1から表3は、すべて2006年10月23日、10月30日に発表されたAT&TおよびVerizonの2006年第3四半期の決算資料から作成した。
(注4)2006.10.19付けhttp://www.mysun.com, "Verizon Approves Directories Spinoff"
(注5)AT&Tのビデオサービス提供計画(それ以降、ほとんど進展なし)については、DRIテレコムウォッチャー2006年6月1日号「難航するAT&Tのビデオ提供サービス」
さらに、2006年10月23日付けCBS NEWS, "AT&T Earns $2.17B in 5Q to Surpass Views" も、AT&Tがいかにビデオサービスの品質の安定化に苦慮しているかを記している。

テレコムウォッチャーのバックナンバーはこちらから



<< HOME  <<< BACK  ▲TOP
COPYRIGHT(C) 2006 DATA RESOURCES, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.