DRI テレコムウォッチャー


大きく利益を増やしたAT&T、されど同社に厳しい批判

2006年8月15日号

 AT&Tは、2006年次第2四半期の決算で前年同期に比し88%増と大幅に利益をのばした。旧AT&T統合後のシナジー効果が予想以上に進み、コストが飛躍的に節減された成果が実ったものである。これに対し、AT&Tの最大のライバルVerizonは、前年同期に比し24%も利益を減らした。このため決算面では、2006年次第1四半期に引き続き、AT&TとVerizonの利益面での格差は大きく開いた。
 しかし、AT&TとVerizonの収入、利益を前年同期との対比ではなく、前期と対照してみると、意外に両社共通の悩みが浮き彫りにされてくる。
 すなわち、2006年次第2四半期には、AT&T、Verizonは共に、前期に比し、それぞれ2.9%、2.3%ずつ収入を減らしている。また、確かにAT&Tは前期に比し38.4%と大幅に利益を伸ばしていたが、前年同期対比の88%といった劇的な向上は示していない。また、Verizonの利益減は、前期対比だと1.3%に留まっている。つまり、Verizonの利益減少の傾向はすでに前年同期から持続的に継続しており、今期はむしろ減収の度合いは鈍っているのである。

 今回は、両社の最大の強敵として立ち現れているケーブルテレビ会社側の資料を紹介しなかったが、明らかに東部メトロポリタン地域を抱えているVerizonは大きく、またAT&Tはやや軽度にケーブルテレビ会社からの攻撃(特に最近勢いを付けてきたVoIP加入者の大幅な獲得)の影響を受け、それが両社の固定電話加入者を侵食し、ひいては収入減をもたらしている(Verizonは2006年第2四半期に、これまでで最高の100万の固定加入者を失った。この期間、同社のブロードバンド加入者獲得数は44万であって、とても固定電話加入者喪失をカバーできない)。AT&Tは、この収入源を旧AT&T統合のシナジー効果によりコスト節減努力で増益に成功している。しかしVerizonの場合、MCI統合の効果がAT&Tの場合ほど実っていないばかりか、加入者宅にじかに光ファイバーを引き込むFTTH方式によるFiOSプロジェクト遂行のための投資が嵩み、これが同社の利益を大きく削いでいる。
 さらに、AT&Tにも(AT&TほどではないにせよVerizonにも)、最近ジャーナリズム、消費者団体からの批判が強い。このほか、これまでも紹介してきたところであるが、両社に有利な法案の審議が米国議会において円滑に進行していない問題、これに加えて、通信の機密資料を米国政府機関に提供していたとの疑惑に関する訴訟問題等がAT&T、Verizonを悩ませている。
 本論では、上記の点についてさらに詳しく論じる。

AT&T、2006年次第2四半期決算でVerizonに大きく水を空ける

 まず、AT&Tの最新の決算資料から、収入、純利益の数値を表1に示す(注1)。
 さらに表2にVerizonの同じ資料を示す(注2)。

表1 2006年次第2四半期におけるAT&Tの収入・純利益(単位:100万ドル)
項目
2006年次第2四半期
2006年次第1四半期
純利益
非携帯部門
携帯部門
24,105(-2.9%)
15,810(-0.02%)
8,295(-7.7%)
24,815
15,835
8,980
純利益
非携帯部門
携帯部門
2,490(+38.4%)
1,808(+25.1%)
682(+92.6%)
1,799
1,445
354
(2006年次第2四半期の括弧内の%は、2006年次第1四半期に対する増減比を示したものである。)

表2 2006年次第2四半期におけるVerizonの収入・純利益(単位:100万ドル)
項目
2006年次第2四半期
2006年次第1四半期
純利益
非携帯部門
携帯部門
22,678(-2.3%)
13,416(-4.7%)
9,360(+6.2%)
22,743
13,930
8,813
純利益
非携帯部門
携帯部門
1,611(-1.3%)
982(-0.9%)
729(+15.5%)
1,632
1,001
631
(2006年次第2四半期の括弧内の%は、2006年次第1四半期に対する増減比を示したものである。)

旧AT&T、SBC統合のシナジー効果で大幅な利益増を実現したAT&T
 AT&Tは、同社の非携帯部門の純利益が2005年第2四半期の10億ドルから18.08億ドルへと80%も上昇した事実を強調した。同社のWhitacre会長兼CEOは、「この成果は、われわれが本年次後半期、さらにはBellSouthの統合を展望している時期にあたり、強い弾みを与えることになろう」と胸を張っている。表1に見るように、前期の2006年第1四半期に比しても、非携帯、携帯両部門で大きく利益を伸ばしている。短期間にこれだけの利益を伸ばした例は、最近の電気通信業界において珍しい事例であり、AT&Tの努力は大きく評価すべきであろう。
 AT&Tのコスト節減は、SBCと旧AT&T統合のシナジー効果によるところが大きく、2006年中に生じる節減予想額は当初予想を1.5億ドル上回り、7億ドルから9億ドルに達すると見られている。また、Lightospeed実施の遅れも投資額の節減に貢献することとなった(注3)。
 表1で注目すべきことは、2006年次第2四半期のAT&Tの利益の大幅な上昇にもかかわらず、収入が非携帯でも(微減)、携帯でも(7.7%と大きく)減少していることである。この事実からすると、AT&Tはリストラ、経費節減により利益を捻り出すに過ぎない会社ではないかとの疑惑すら生じかねず、本稿後半で紹介するように、すでにこのような趣旨の批判がなされている。
 例えば、AT&Tがもっとも力を入れているブロードバンドの推進にしたところで、2006年次第2四半期のDSL加入者数の増数は、前期の51.1万から34.2万へと大きく減少した。ブロードバンドをめぐってのRHC対ケーブルテレビ会社の死闘は、マーケティングの場(このほか、規制を巡る競争の場がある)では、RHC側に有利に働いてはいないようである。
 AT&Tは決算書類のなかで、FTTC(ファイバー・ツー・ザ・カーブ)によるビデオサービス、Lightspeedをテキサス州、サンアントニオ市で2006年7月に開始したことを発表した。2006年末までに、13州において15から20の市場でサービスを開始する予定である。また同社は、7月19日、インターネットと衛星テレビを併用した新ビデオサービス、Homezoneをオハイオ州とサンアントニオ市で開始したが、不思議なことに決算書類ではHomezoneに触れていない(注4)。

Fiosプロジェクトに入れ揚げて利益を減らしているVerizon
 Verizonは。AT&Tの場合と同様、前年同期と比較した毎期の収入、純利益を発表している。Verizonは、今期の収入はMCIの統合に伴って26%増加したが、純利益は前年同期の22.7億ドルから24%減少して、16.1億ドルになったと発表した。
 しかし、前期(2006次第1四半期)と比較するとまた異なったVerizonの業績が浮かんでくる。表2によれば、携帯部門はともかくとして、非携帯部門の収入は大きく落ち込んでおり、総収入は2.3%減少している。(今回は本文での紹介を省いたが、実のところ収入、利益ともにバランスの取れた成果を収めており、AT&T、Verizonより業績がよいのは、年内にAT&Tに統合されることがほぼ確実になっているBellSouthである(注5)。同社は、2006年第1四半期に比し0.1%とほんのわずかだけ収入を落としているに留まり、ほぼ収入が横ばいであったといえる)。
 ところで、すでに5月15日号のDRIテレコムウォッチャー「明暗が分かれたAT&T、Verizon両社の業績」でやや詳しい分析をしているので、ここでは説明を省くが、VerizonがAT&Tに比し利益を低下させざるを得ない最大の原因は、販売経費等の投資資金を光ファイバーのFiOSプロジェクト推進に注ぎ込み過ぎて、これが利益を圧迫しているためである。従って今後、相当期間にわたって、Verizonの収益向上は見込めまい。
 今回の決算でVerizonは、初めてFiOSの加入者数を発表した。これによれば、2006年第1四半期、2006年第2四半期末のFiOS加入者数はそれぞれ26.4万、37.5万である。第2四半期にVerizonは、計44万のブロードバンドの加入者を増やし、そのうち、11.1万(約4分の1弱)がFiOS加入者というわけである。ちなみに、前期Verizonのブロードバンド加入者の増数は54万加入であったのであり、VerizonもDSLに加えて、FiOS販売の利点を有しているにもかかわらず、ブロードバンド加入増の比率を鈍らせてしまった。周知のように、トリプルプレイではComcast、TimeWarner等のMSO(大手ケーブル会社)の方がAT&T、Verizonより進んでいる当面、AT&T、Verizon両社は、トリプルプレイ競争においてMSOに敗退しつつある模様である。

高まるAT&Tへの批判

 ここでは、いずれもAT&T(ひいてはVerizon)への批判が底流になっている3点のトピックスの進展状況を紹介する。
 (1)は、BusinessWeekの論説の紹介である。この記事は、多分ほかにもさらに詳しく取り上げる人がいると考えるので、ここではその骨子の紹介にとどめた。ネットニュートラリティーの導入是か非かの論争が高まるにつれて、AT&T、Verisonに対する批判が高まり、この趣旨の論説は他にも多く見られる。また、(1)、(2)も両社に対する批判が大きな底流になって生じている展開である点をご理解願いたい。
 (3)は、電気通信法案審議の状況についての中間報告である。電気通信法案成立の可否は、9月の米国議会再開以降のStevens委員長の取り組みにより、明かになるはずであるので、2006年9月15日あるいは10月1日付けのDRIテレコムウォッチャーでさらに詳しく取り上げる予定である。
 (3)も中間報告であるが、長期の案件であるので、今後、大きな進展があった時点でさらに紹介する。

(1)AT&Tマーケティング重視、R&D軽視への批判−ビジネスウィークの報道
 最近、AT&T、Verizon両社のマーケティングに偏した経営スタンスを批判する報道が米国ジャーナリズムでは幾点か見られる。ここではその代表的なものとして、BusinessWeekが2006年6月末に掲載したMark Gimein氏の所論の一端を紹介する(注6)。
 Gimein氏は、SBCが衣替えし新たにAT&Tブランドの名を冠した会社と独占時代のAT&Tとの大きな相違点は、旧AT&Tが世界最大級の研究所、Bell Laboratoryを有し、数々の新技術を生み出してきたのに対し、新AT&Tは研究開発をほとんど行わず、他社からの研究を利用するマーケティング主導の会社になってしまったことだと嘆く。
 これは、研究開発に力を入れている大手IT企業との大きな相違点である。例えば、2005年次、AT&Tが研究開発に投じた資金は1.3億ドルに過ぎなかったのに対し、IntelCorpは51億ドルもの資金を費やしたという。
 AT&T、Verizon両社は、盛んに "イノベーション" の推進を謳っているが、その中身はマーケティング、"経営の改革" に過ぎず、技術のイノベーションは含まれていない。従って、新サービスのすべてが他社の技術を導入した借り物(例えばLightspeed)となってしまっており、これでは他社の模倣こそできるが、市場で主導権を取ることは長期的にはできない。
 従ってAT&T、Verizonは、新技術で勝負する代わりに自社のネットワークをリースする事業者への課金をして利益を得ようとするようにもなる。しかし、このやり方は王道とはいえまい。

(2)1996年電気通信法改正法案の可決は今国会、見込み薄
 1996年電気通信法案の審議が下院、上院において活発に行われ、夏休み明けの上院で最終的な表決の段階に入ることとなる(注7)。
 しかし、多くの米国のジャーナリズムは、中間選挙を11月に控えた本年、残り少ない9月の審議日数で上院でのStevens法案の可決、下院で成立したBarton法案とのすり合わせを経ての統一法案の成立にまで持ち込むのは難しいとの見通しが強い。
 AT&T、Verizon両社が法案に賭けた最大の狙いは、現在、地方自治体単位で申請しているビデオ免許の申請を全国1本に集中し、免許申請事務を簡素化すると同時に、好みの加入者に対してだけビデオサービスを提供することができるようになるということであった。ところがGoogle、Yahoo!等インターネットコンテンツ業者、消費者団体からのネットワークニュートラリティー遵守を法案に盛り込むべきだとの熾烈な要求、ロビーング活動が強まっており、上院議員もこの動きを無視することができない。Stevens氏も法案の本会議における表決で勝利できるか否か、票が読めなくなっているのが現状のようである。
 仮に、今国会において電気通信法案改正が流れれば、その主たる原因はこれら業者、消費者団体からの強硬なネットワークニュートラリティー要求(その核心は、RHCによるインターネットリースへの二層料金設定への反対要求)の強さをRHC及び、議会の法案推進者たちが軽視していたと言う点にある。

(3)AT&Tを悩ます通話記録漏洩についての訴訟
 この件については、2006年7月にかなり詳しく報道した(注8)。ここでは、その後の進展の概要を紹介するに留める。要は、この問題はブッシュ政権が国家機密保持の特権(National Securities Secret Privilege)を盾にして、専断的に原告側を泣き寝入りさせることは難しく、最終的には最高裁の判決あるいは議会での審議により、解決されるべき案件である。解決は長期的なものとなろう。
 まずシカゴの連邦地裁に対し、ACLUがAT&Tを相手取って提起していた訴訟については、担当判事がこれを却下した。Kenelly判事はその理由として、AT&Tに対し、政府の情報機関(NSA)に通話記録を提出したか否かの回答を迫ること自体が、国際テロリストたちを利することになると、司法省(米国政府を代弁して)の主張を鸚鵡のように主張し、同省の圧力に屈した。
 次に、2006年にEFFが同じくAT&Tを相手取って提起した訴訟であるが、これについては、この案件を担当したカリフォルニア連邦地裁のWalker判事は政府勧告を蹴り、7月20日、審理を継続するとの結論を出した。
 他方、AT&Tだけでなく、Verizon、BellSouthに対するものも含め、現在17件の同種の訴えが提起されている。複数の訴訟についての裁判の所管を担当する連邦控訴裁判所のセクション(Judicial Panel on Multidistrict Litigation) は、8月10日、これらの裁判をすべてサンフランシスコのWalker判事の下で統合審議するようにとの判決を下した。
 また、一部の州公益事業委員会では、AT&T、Verizon、BellSouthが果たして通信記録をNSAに提出したか否かの真相を調査したいとの動きも生じている。司法省はこの動きに対し、例によって政府機密特権を振りかざし、これら州公益事業院会に警告を発している。
 この案件で特に激しく政府と抗争しているのは、ミズーリ州公益事業委員会である。

(注1)表1は、2006年7月25日にAT&Tが発表した一連の決算資料を用いて作成した。また、2006年次第1四半期の数値は、2006年5月15日付けDRIテレコムウォッチャー「明暗が分かれたAT&T、Verizon両社の業績」の表1から転記した。
(注2)表2は、2006年8月1日にVerizonが発表した一連の決算資料を用いて作成した。
(注3)この部分は、AT&Tの決算報告になく、2006年7月25日付のChron.com, "AT&T2Q Profit Rises 81Percent"によった。
(注4)LightspeedとHomezoneの両サービスと両社の関連については、2006年6月1日付けDRIテレコムウォッチャー「難航するAT&Tのビデオ提供サービス」
(注5)BellSouthは、2006年7月24日に、同年第2四半期の決算を発表した。これによれば、総収入は約46.5億ドルで前年同期に比し、1.1%増、純利益は約8.9億ドルで前年同期の11.6%であった。成長度合いからしても、収入に占める利益比率からしても、AT&T、Verioznより格段に良い実績である。
(注6)2006年7月31日付きBusiness Week, "The Phone Companies Don't get It"
(注7)下院では6月に、Barton議員(共和党)が提案したCOP(Communications、Enhancement Act)が可決された。また7月にはStevens議員(共和党、上院商務委員会委員長)提案の同趣旨の法案、Communications、Consumer's Choice and Broadband Development Actが上院商務委員会を通過した。夏休み明けの9月には、本院において表決に掛けられる予定となっている。
(注8)2006年7月1日付けDRIテレコムウォッチャー「最大規模の民事訴訟を引き起こした米国政府の電気通信プライバシー侵害問題」

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