DRI テレコムウォッチャー


T-Onlineを吸収したDT、いよいよ "トリプルプレイ" の提供に乗り出す

2006年7月15日号

 DTは、最新の2006年次第1四半期決算において、まずまずの増収増益を確保した。収入は2005年次同期に比し、3.9%増の148億ユーロとなり、また利益も2005年同期並みの10億ユーロを確保した。
 しかし、本文で詳しく紹介するように、固定通信部門、ブロードバンド(DSL)部門は共に減収であった。この減収分を好調な携帯部門でカバーし、さらにはコスト削減を積極的に実施することにより、かろうじて増収、横ばいの利益にこぎつけたわけである。これまで順調に伸びてきた携帯電話分野も欧州、東欧市場では需要が飽和に達しつつあるさなかで料金引き下げ競争が激しく、欧州主要市場のドイツ、英国では業績の向上が見込めず、ただひとつ成長の著しいT-MobileUSA に支えられる状況となった。
 2000年秋、DTがT-Mobile USAの前身である米国携帯電話会社Voice Streamを買収したときには、部内外から無謀な企てであると批判が強かったものであるが、今やVoiceStreamの後身、T-Mobile USAがDTの救世主となっている。2000年当時、Voice Streamの吸収を主張した急先鋒は、現DTのCEO、Ricke氏(当時DTの役員)であった。同氏の先見性は高く評価されて良い。
 2006年6月、DTはかねてからの悲願であった欧州最大のISP企業、T-Onlineの株式上場を廃止し、自社部門に吸収した。吸収が予定よりも遅れたのは、DTの提示したT-Online株式の買取価格が低すぎるとして一部小口株主が訴訟を提起したからである。ドイツ最高裁は、2006年5月下旬、DTの株式買収を合法と認め、これによりT-Online統合の法的隘路はなくなり、T-Online吸収が可能となった。
 このように、ようやくすべてのサービスを自社組織により、提供することが可能になったDTは、今後ワンストップショッピングによるパッケージサービス(常識的に考えられるのはまず、固定電話サービスDSLサービス、次にこれらサービスに携帯電話サービスを加えたトリプルプレー)の提供により、競争力の強化→業績の向上を目指す。DTは、パッケージサービス開始時期を2006年末としている。
 DTのCEO、Ricke氏は、同社の経営目標として、「欧州最大の統合電気通信会社、指導的なサービス提供事業者になることを目指す」と述べている。しかし、ここ1、2年来、スペインのTelefonicaが、南米携帯電話市場の過半のシェアを握ることにより築き上げた好調な財務地盤をベースにして、欧州市場にも強引な攻勢を掛け、DTの牙城を脅かしつつある(注1)。
 Telefonicaが2006年初頭に買収した英国の携帯電話会社O2は、早くもドイツ市場において、T-Mobile Deutschland、Vodafone Deutschland に次ぐ携帯電話事業者として、DTの強力な競争業者として立ち現れている。2006年第1四半期におけるTelefonicaの純利益は12.7億ポンドであり、DTを引き離し、収入においても130億ユーロとDTの規模に急ピッチで迫りつつある(注2)。Telefonicaが現在のテンポで、欧州市場におけるM&Aを続けていけば、Ricke氏の目標を一足先に果たすこともなりかねない。1、2年前には思いもかけなかった強敵の出現に当面し、DTはさらに一層の経営努力を強いられることとなろう。
 以下、DTの最新の収入構造、T−Onlineの吸収について、さらに詳しく解説を加えることとする。

DT事業を支える携帯、国外収入 (注3)

 表1、表2に2006年次第1四半期におけるDTの収入構造を示す。

表1 2006年第1四半期におけるDTの部門別収入(単位:100万ユーロ)
項目
2006年第1四半期
2005年第1四半期
増減率(%)
総収入
14,842
14,288
+3.9
携帯(T-Mobile)
7,575
6,746
+12.3
固定+ブロードバンド(T-Com)
6,156
6,555
-6.1
大口加入(T-Systems)
3,011
3,106
-9.1
本部
871
853
+2.1
部門間調整
-2,791
-2,972
+6.8
注:第3項の固定+ブロードバンドは、T-Com(固定)とT-Online(ブロードライン)の統合を見越して、両部門を統合した数値を示したものである。

表2 国内・国外別収入(単位:100万ユーロ)
項目
2006年第1四半期
2005年第1四半期
増減率(%)
   国内
8,208
8,511
-3.8
   国外
      ドイツ外の欧州
      北米
      その他
6,634
3,234
3,332
68
5,777
3,113
2,592
70
+14.8
+3.8
+28.5
-2.9
14,842
14,288
+3.9

 上記2表から、おおよそ次の事実を読み取ることができる。

  • DTの今期の収入増は、サービス別に見ると、携帯(T-Mobile)とブロードバンドの両部門で支えられている。すなわち、成長している両部門(前年同期比増加を示した)が他の成長率マイナスの部門をカバーして、ようやく増収を生み出したという構造になっている。
  • 地域別に見ると、国内の減収を国外の増収より補うという傾向が大きく現れている。 また、総収入に占める国外収入の比率は、44.7%と国内収入の55.3%にかなり接近しており、いかにDTの経営が海外投資により支えられているかが明らかである。また、海外収入の約半ばを占めているのが北米(すなわちT-Mobile USA)であることも特筆に価する。
  • それにつけても、T-Comの減収率36.3% はきわめて高い。この数字1つを見ても、DTが今後、新規サービス分野への進出、コスト節減に迫られている事情が伺える。

T−MobileUSAが牽引するDTの携帯事業

表3 DT携帯事業の主要加入者別収入、加入者数(2006年第1四半期)
項目
収入(単位:100万ユーロ)
加入者数(単位:100万人)
T-Mobile Deutschland
2,004(-3.4%)
30.2(+2.4%)
T-Mobile USA
3,354(+29%)
22.7(+4.6%)
T-Mobile UK
1,032(+4.4%)
16.4(-4.7%)
*その他の計
1,185(+9.1%)
18.4(+1.2%)
総計
7,595(+11.2%)
87.7(+1.2%)
DTMobileの御3家は、表に記載したドイツ、米国、英国における事業体であるが、DTMobileはそのほかに、チェコスロバキア、オランダ、オーストリア、スロベニア等でも事業を行っている。「その他の計」には、これら事業体の収入、加入者数の総計を記載した。

 表3から、次のことが読み取れる。
  • T-MobileDeutsclandは、加入者数においては、断然トップの地位を保ってはいるが、収入、成長率においては、T-Mobile USA にはるかに及ばない。
  • つまりT-MobileUSA は、米国においては第4位の携帯電話会社であって、それぞれ5000万内外の加入者数を有するCingular Wireless、Verizon Wireless 、Sprint/Nextelの3社より、はるかに規模の小さい携帯電話会社に過ぎないが、明らかにDTにおいてはT-Mobile、さらにはDTの業務を大きく牽引する役割を果たしている。
  • DTMobileの加入者数の伸びは、総体で1.2%増に過ぎない。DTMobileUKのように、前年度に比し減少した事業体も生じている。これは、これまで堅実に成長を続けきた欧州諸国の携帯事業の需要が飽和に達している事実をも示すものである。

テンポが強まる狭帯域回線数の減少 - 総回線数はDSL増によりかろうじて横ばい

 次表に、T-Comの回線数を示す。

表4 T-Comの回線数(2006年第1四半期 単位:100万)
項目
2006年第1四半期
2005年第1四半期
回線数合計(狭帯域+広帯域)
49.8(+0.2%)
49.1
狭帯域回線数
国内
国外
40.6(-4.2%)
34.7(-4.7%)
5.9(-1.1%)
42.4
36.4
6.0
広帯域(DSL)回線数
国内
国外
9.2(+39.3%)
8.6(+34.4%)
0.6(+100%)
6.7
6.4
0.3

  • 狭帯域回線(通常の固定回線)数の減少が大きく目立つ(2年前の2004年3月末には、年間の狭帯域回線の減少率は1.5%であった。つまり、2年間で減少率は3倍に増えたことになる)。これは、2003年8月に実施されたドイツ国内通信の完全自由化(わが国におけるマイラインの実施に相当する)の効果が大いに上がり、DTが競争業者に追撃されていることを示す。
  • ドイツは欧州最大のDSL提供業者である。成長率は多少弱まりつつあるようであるが(2年前の成長率は48.8%)、順調な伸びを示しており、この調子で成長が続けば、早晩1000万の大台に達するであろう。
  • DSL(広帯域)と固定回線(狭帯域)の双方を合わせた回線総数で、DTはかろうじて前年並みの回線数を維持することができた。しかし、表1で明らかな通り、固定回線、DSLの双方を所管するT-Com収入は6.1%も減少している。T-Comの加入者数の減少、それに伴う収入源を食い止めることは、DTにとり大きな課題となろう。

子会社方式から脱却し、各部門のシナジーを活用する方式を強力に推進することにより業績向上を狙うDT(注4)

 DTは、2006年7月6日、念願のT-Online株式上場廃止を実現し、ドイツ最大のISPであるT-OnlineをDTの内部組織、T-Comに組み込んだ。1990年代の後半、DTだけでなく、FTもBTも欧州諸国の電気通信事業者は、電気通信事業の各サービス分野(固定・携帯・ISP)がすべて洋々とした将来を持つものだとのバラ色の将来見通しの下に、それぞれの部門を独立会社に仕立て上げ、自主的な経営の下に事業を拡大するとともに、株式を公開し投資資金を求めようとする経営方針を取った。しかし、電気通信のバブルの崩壊により、これら株式は軒並み大きく価格を下げた。また、事業経営の側からしても、すべての経営資源を単一の経営組織の下に置き、シナジー効果を狙った方が競争上、有効であるとの認識が高まり、2000年に入ると、スピン・オフしたこれら株式会社の株を買い取って、自社の内部組織に繰り込む(つまりスピン・オフ以前の体勢に戻す)過程が進行し始めた。今回のドイツT-OnlineのDT組織への吸収は、その規模が比較的大きく、利害関係者の調整を行い、また、一部少数株主の反対に対処する必要があり、実施時期が遅れ、電気通信事業者関連会社株式上場廃止措置のしんがりになってしまった。
 T-Online株主は、現金の場合は一株当たり6.58ユーロを受け取るか、T-Online25株に対し、DT株13株の比率でDTの株主となった。ちなみに2000年春、T-Online上場時の株価は27ユーロであったのであり、上場時に株主となった人は、5年後に投資額の約4分の3を失ったことになる。これでは、一部株主から訴訟がでるのも無理からぬことではある。
 DTは、T-Onlineの内部組織への繰り込み実現に伴い、早速、2006年末には同社主要サービスを組み合わせて、ワンストップショッピング(すなわち料金請求は一葉の請求書で提供)を実施すると述べている。対象となるサービスは、固定電話サービス、携帯電話サービス、DSLの提供、インターネットサービスの4種だと見られるが、DTは、まだこれらをどのように組み合わせたサービスを販売するのかは明らかにしていない。
 DTは、T-Onlineの運営を通じ、コンテンツの分野でもかなりの経験を積んでいる同社の強みを生かし、インターネットテレビの将来にもかなりの期待を掛けている模様である。同社役員のWalter Reizman氏は、"2007年末には100万のインターネットテレビ加入者を獲得したい" と述べている。

(注1)Telefonicaが2004年次に、いかに南米市場において携帯電話事業のM&A実施により事業を拡大したかについては、2004年7月15日付けDRIテレコムウォッチャー「堅実経営で成果を上げるテレフォニカ」。
(注2)2006.6.12付けのTelefonicaのプレスレリース、"Telefonica Posts 40% increase in 1Q06 net profit to 1,273 million Euro"
(注3)2006年第1四半期に関する決算数値はすべて、DTのプレスレリース、"Group Report, January 1 to March 31 2006" によった。
(注4)この項は、2006.6.8、Market Watch, "Deutsche Telekom sees fourth quarter launch of bundled products" および同日付けheise online news, "T-Onlines shares are now history"

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