DRI テレコムウォッチャー


ブロードバンドでトップを走るComcast、大幅な増収・増益

2006年6月15日号

 米国最大手のMSO(大手ケーブル会社)、Comcastは、2006年5月、同年第1四半期の決算を発表したが、これによれば業績はきわめて好調である。周知の通り、現在、ケーブル会社→ブロードバンド、VOIPへ、また、RHC3社→ブロードバンドによりケーブルテレビ会社の本丸であるTV事業へとそれぞれ、相互に相手方市場への侵食に努力している。このように、異業種間の競争が本格化しつつあるさなかにあって、Comcastが昨年同期に比し収入を10%以上、純利益を3倍強に伸ばしたことは、注目に値する。
 Comcastはさらに、2006年通期の業績も、この動向が続く見通しであるとのガイドラインを決算時に示している。このことは、同社が当面、旧来のTV事業に加えるに、同社のディジタル網を利用しての業務の多角化=通信事業への進出に当面成功しているとの自信を持つに至ったものであろう。
 最近、DRIテレコムウォッチャーは、2回にわたり、最大手RHCのVerizon、AT&Tがそれぞれ、規制上、マーケティング上の問題からして、ケーブルテレビ業界の本来業務であり、長年にわたる経営実績を有するビデオ市場に進出することが、いかに困難であり、それゆえにいかに苦労しているかを紹介してきた(注1)。今回のComcastの業績紹介は、期せずしてVerizon、AT&Tの苦境を競争会社側の決算数値により、裏書した内容となった。
 本論ではさらに、最新(2006年3月末)の資料に基づき、ケーブル会社のブロードバンド(ケーブルモデムによる)と電話会社のブロードバンド(Verizonの一部光ファイバーを含むDSL)のそれぞれのシェアの実情を紹介する。

ブロードバンド、VOIP、Comcastの収益向上に大きく貢献(注2)

表1 2006年第1四半期におけるComcastの業績(単位:100万ドル)
項 目
2006年次第1四半期
2005年次第1四半期
2006/2005の増減率(%)
収入
5,901
5,363
+10
営業支出
3,700
3,333
+11
営業キャッシュフロー
2,201
2,030
+11
純利益
466
143
+326

 表1は、Comcastの2006年第1四半期の収入・利益の実績、成長率を示したものである。そのポイントは、収入が10%伸び、支出の伸びも収入の伸びと同等にコントロールするのに成功した結果、純利益が2005年同期に比し、3倍以上伸びたことにある。
 ではComcastは、どの部分で大きく業績を伸ばしたのかを表2に示す。

表2 2006年第1四半期におけるComcast収入の内訳(単位:100万ドル)
項 目
2006年第1四半期
2005年第1四半期対増率(%)
TV
3,576
+6.3
ブロードバンド
1,131
+22.3
*1 通話
191
+8.8
広告
309
+4.3
*2 その他
206
+14.3
免許料
175
+4.7
総計
*3 5,583
+9.4
*1通話収入には、VOIP(Comcastが2006年から本格的にサービス開始した)と旧来の回線交換式通話の双方の収入が含まれている。後者は、次第に前者に吸収されつつある。
*2その他には、架設料収入、消費者メディアセンターからの収入等が含まれている。
*3表2は、決算に付随したプレゼンテーション用資料の数値をそのまま転記したものであるが、表1の収入と一致していない。

 上表で伸び率がもっとも高いのは、ブロードバンド収入である。今期、ブロードバンド収入は、年率22.3%もの高成長を示し、売上高に占める比率も20.2%に達した。同社は、米国最大のブロードバンド加入者数を有し、2006年3月末現在、その数は895.7万と、900万近くに達した。2005年同期に対しては、150万超の加入者数を増やしている。しかも、同社のブロードバンド加入者の料金は、RHC諸社に比して高い。表1におけるブロードバンド収入増大は、このような加入者数増、単金増に支えられている。

Comcast、サービスのパッケージ販売に大きな自信

 今回の決算でComcastは、RGU(Revenue Generating Unit、収入を生み出すサービス部門)という概念を使った。
 この考え方は、同社において収入を生み出すすべてのサービスの総計をRGUとして示し、これを決算に際しての事業の伸びの指標として使用しようとするものである。Comcastの基本サービス提供加入者は久し振りに増に転じたが、ケーブル業界だけでなくRHCからの攻勢も激しい現在、今後、大きな成長は望むべくもない。したがって、加入者当りのサービス提供数の増、収入単金の増を通じて、収入増(言い換えればトリプルプレイ加入者の増大)をはかろうという戦略を秘めたものである。

 2006年第1四半期の決算において、Comcastが発表した前年対比RGUの増加数は次の通り(単位:万)である。

基本サービス加入者数4.7
ディジタルTV加入者数34.0
ブロードバンドサービス加入者数43.7
通話加入者数14.2万
総計96.6 万

 なお、RGUを2006年3月末の総数で見ると約4200万であり、うち基本サービスの加入者数は2150万である。つまりComcastは、2005年4月初めから2006年3月末までの1年間で、基本サービスオンリーのケーブルテレビ会社から大きく飛躍し、現在、基本サービスとほぼ同数の新たなデジタルサービス、ブロードバンドサービス、通話サービスの加入者数を自社事業に取り込んだということである。
 しかし、さればといって、RHC、MSOいずれもが、その達成を事業の最大目標に掲げている"トリプルプレイ"にComcastが成功しつつあるとは未だ言えないだろう。同社は、トリプルプレイの構成要素であるVOIPの提供体制を今、整えた段階にある。ただ、Comcastを初めとして、ケーブルテレビ各社が提供するVOIPは、急速に加入者数を伸ばしていることも事実である。Comcastが2006年末には、"トリプルプレイ加入者増大に成功"とのRHCに対する勝利宣言を発する可能性は大いにある。
 現在、ComcastのVOIPは1900万世帯に提供できる体制にあるが、2006年末には、提供可能世帯が3200万になるという。

 今回の好調な決算に自信をもったComcastは、2006年通期も同様の事業の伸びを達成できるとみて、決算と同時に、次のように幾つかの経営指標について9%ないし11%の成長が可能だとの強気の事業展望を発表した。

収入の成長率9-10%
ケーブルの営業キャッシュフローの成長率10-11%
ケーブルの資本支出2005年並の一人当たり165ドル
RGU350万増
総体のキャッシュフローの成長率9-10%


ケーブルテレビ会社、ブロードバンド加入者確保競争で依然優位に(注3)

 表3、表4に、ケーブルテレビ会社、電話会社の最新のブロードバンド加入者数を紹介する。

表3 米国ケーブルテレビ会社のブロードバンド加入者数(2006年3月末、単位:万)(注4)
ケーブルテレビ会社名
ブロードバンド加入者数
Comcast
894.7
TimeWarner Cable
516.8
Cox
328.5
Charter
232.3
Adelphia
172.0
その他(5社)
442.6
総 計
2598.5

表4 米国電話会社のブロードバンド加入者数(2006年3月末、単位:万)
電話会社名
ブロードバンド加入者数
AT&T
740
Verizon
*1 570
BellSouth
310
Qwest Communications
168
その他
*3 313.8
総 計
*2 1801.5
*1Verizonのブロードバンド加入者には、FiOS(光ファイバー)の加入者数(筆者の推計では20万未満)が含まれている。
*2Cable Digital Newsは、直接DS加入の総数を発表していない。この数字は、Digitが発表したブロードバンド総数4400万とケーブルモデムによるブロードバンド加入者数2598.5万の差を計上した推計値である。
*3その他も同様に、総計(推計値)から、4社の実績値の差を計上した推計値。

 さらに、2006年第1四半期にもっともブロードバンド加入者数を大きく伸ばしたケーブルテレビ会社、電話会社それぞれ上位4社の加入者増数を表5に示す。

表5 ケーブルテレビ・電話会社上位4社のブロードバンド加入者増加数(2006年第1四半期、単位:万)
ケーブル会社名
ブロードバンド増数
Comcast
43.7
TimeWarner
34.6
Cox
14.2
Cablevision
11.2
103.7
電話会社名
ブロードバンド増数
AT&T
51.1
Verizon
54.1
BellSouth
26.3
Qwest Com
19.8
151.3

 表3、4、5から、ケーブルテレビ会社と電話会社のブロードバンドにおける対抗関係について、次の結論が読み取れる。

ケーブルテレビ会社でブロードバンドを提供する主なプレイヤーは、表3に示した上位6社(加入者数100万超)である。ただしAdelphiは、2006年内にもComcastおよびTimeWarnerに統合される公算が大きい。その段階には上位5社となる。さらに、年末に想定されるAT&TとBellSouthの統合が実現すれば、ブロードバンド競争の主役は4社に収斂する。
表3、表4から見ると、ケーブルテレビ、RHC上位4社については加入者数での勢力は拮抗している。加入者数の順位別にこれら事業者を並べてみると、1.Comcast、2.AT&T、3.Verizon、4.TimeWarner、5.BellSouth、6.Charter、7.Adelphi、8.Qwestとなり、ケーブテレビ会社、RHCがこもごも現れる。5位までに、ケーブル会社2社、RHC3社が含まれており、むしろRHC側が優位に立っているとも言える。
ブロードバンドにおけるケーブルテレビの存在感は、1つにはトップ事業者がComcastであって、同社の加入者数は、多分今後2年強程度で1000万の大台に達すると見込まれることである。また、表3では名称を表示していないが、ケーブル業界ではその他の業者が5社あって、総数400万超の加入者数を有している点が注目される。これら群小のケーブル会社の存在がRHCに対し、加入者数で差を付ける主要因になっている。
Cable Digital Newsは2006年第1四半期において、新規ブロードバンド加入者獲得のシェアは、ケーブルテレビ49.6%、電話会社50.4%であったと述べている。表3、4、5との関連で、このシェアの持つ意味は大きい。すなわち、2005年末までRHCは、DSL料金の大幅な値下げ、伝送スピードのアップを武器として、ケーブルテレビ会社を急追した。この結果、ブローバンドのシェアを縮めるのに成功してきたのであるが、この試みが2006年には入ってにわかにて停滞したことを示すものだからである(注5)。


 なお、DRIテレコムウォッチャー2006年5月1日号「FCCが仕切る米国のネットワークニュートラリティー対策」でも触れたCOPTelecom法案は、2006年6月8日下院において可決された。しかし、同趣旨の内容の法案は、上院法務委員会Ted Stevens氏主導の下に提出されており、6月20日票決(多分、可決)が行われる予定である。
 上院、下院において両法案が可決されれば、通常、両院協議会において両法案を統合し、この統合法案をさらに下院、上院で可決する手続きが残る。従って、中間選挙を控えた本年に、果たして利害が大きく対立するこの法案(ビデオ営業免許のほか、ネットワーク・ニュートラリティーの取り扱いも法案の主内容になっている)が 法律制定まにで持ち込めるかどうかは、まだ未確定である。この件については、法律制定の可否が明確になった時点で、あらためて紹介することとしたい。


(注1)2006年6月1日付けDRIテレコムウォッチャー「難航するAT&Tのビデオ提供サービス」、および2006年5月15日付けDRIテレコムウォッチャー「明暗が分かれたAT&T、Verizon両社の業績」
(注2)本項については、おおむね2006.4.27に発表されたComcastの決算報告資料を使用した。
(注3)本稿の分析は筆者のものであるが、利用した数値については、2006.6.1付けCable Digital News, "Baby Bell Match Cable in Q1 Broadband Game"に負うところが大きかった。
(注4)表3は、Cable Digital Newsに掲載された表を一部加工して作成(原表では11社についてブロードバンド加入者数が掲載されているが、100万超の6社に留め、他をすべてその他に繰り入れた)した。
(注5)51.4%対49.6%というのは、トリッキーな数値である。電話会社側がシェアのマジョリティーを獲得して勝利したかに見えるが、実はそうではない。
公表された数字がないので、2006年第1四半期におけるブロードバンドの増加数の総数を300万(多分これに近いと思われる)と仮定する。これに、上記のシェア比率を当てはめると、ケーブルテレビが獲得した加入者数は151.2万、RHCのそれは148.8万であり、その差は2.4万に過ぎない。ケーブルテレビ会社、RHCのブロードバンドの加入者の差は、表3、4から明らかな通り約800万である。すなわち、電話会社が2006年1月から3月のペースで加入者獲得を続けていけば、ケーブルテレビ会社と均衡する加入者数を持つのに、33年以上掛るということになってしまう。

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