DRI テレコムウォッチャー


難航するAT&Tのビデオ提供サービス

2006年6月1日号

 AT&Tの2006年次第1四半期の決算は予想以上に良好であって、ライバルVerizonに比し、本年の事業運営の滑り出しは好調である(注1)。しかし、VerizonのFiOSTVサービスと共に、2004年末に発表された同社のLightspeed計画(インターネットによるTVの提供サービスIPTV)はその進展がはかばかしくなく、幾つかの隘路に悩まされている。
 AT&Tが大きくつまずいているのは、営業免許取得問題である。同社の基本的な姿勢は、LightspeedはVerizonのFiOSTVとは異なり、単なるインターネット(DSL)のアプリケーションに過ぎないのだから、営業免許を要しないというものである。しかし、米国の地方公共団体は、AT&Tが光ファイバー敷設(AT&TはFTTC方式を取るので、加入者宅への引き込み点 -電柱、道路脇- まで)を要する点、またAT&Tが地方公共団体と協議不調の場合には、訴訟に訴える政策をとっている点、さらにはAT&Tがすべての加入申込者にサービスを提供する意思がない点などに反発を示し、同社の姿勢におおむね賛同していない。
 これは、その歩みこそ遅々たるものであるが、最近、特に地方公共団体との協定を取り付け、サービス実施の段階に入ったVerizonのFiOSTVサービスとは対照的である。
 また、そもそもLightspeedに導入されているFTTC方式は、所詮、銅線部分が残っているため、光ファイバーを全面的に利用するFTTP(VerizonのFiOSTV方式に導入)の品質に抗するべくもないとの強い批判もある。(注2)
 上記の隘路があるため、AT&Tが従来どおりのLightspeed計画を推進していけるのだろうかと首を傾げる向きも少なくない。2006年第1四半期の同社決算報告において、Lightspeedに一切言及がなかったことも、AT&Tビデオ政策変更の疑念を高めている。
 AT&Tの広報担当者は2006年5月初旬、ようやく同社が推進してきたIPTV計画のLightspeedについて、近々、6月中にもサービス提供を開始すると述べた。しかし、これを同社の公式発表と受け取ってよいか否かは疑問である。他方、同社はLightspeedを補完するサービスとして、諸種のシステム提供事業者と提携の上、VDO(ビデオ・オン・デマンド)を中心としたHomezonesサービスを2006年夏から提供すると公式発表した。

 もっとも、AT&TのTVサービス分野への進出が、Verizonに比し競争に立ち遅れていると断定するのは、時期尚早であろう。多分、AT&Tは、DSL によろうと光ファイバーを利用しようと、ビデオ分野への進出には長期戦の構えをしているのであろう。この間、多少の試行錯誤を繰り返しながら、最適のビデオサービスを選択しようとの構想を持っているようにも受け取れる。この点、光ファイバーによるFiOSTVサービスに社運を賭し大幅な投資を行い、既にサービスの実施段階に入っているVerizonとは、事業運営方針に大きな差異がある。しかも、VerizonのFiOSサービスにしたところで、難航している点に変わりはない。
 以下、AT&TのLightspeedの進展状況と営業免許取得が困難である点、さらに、同社がLightspeedと平行して実施しようとしているHomezoneサービス計画について、説明する。

新規サービスHomezoneTV、きわめて限定された地域に提供へ

 AT&Tは、2004年末Lightspeedの提供計画を発表して以来、この計画の進捗状況については、公式発表を控えてきた。その間、FTTCによりビデオの受像を行うためのソフトを受注したマイクロソフトの作業が順調に進んでいないとか、AT&T自体がLightspeedのサービス実施の見直しを行いつつあるのではないかとの思惑も飛び交った。
 特に、2006年4月末、アナリストのAntonWahlman氏が現在のLightspeedが想定している最大25ギガビットでは、テレビ、高速インターネット等々の高次サービスを競争業者に伍して提供していくには不満足であり、100メガビットのサービス提供ができるFTTP方式に転換するのではないかと指摘した(注3)。さらに、同時期に発表されたAT&Tの2006年次第1四半期の決算報告では、Lightspeedサービスの進捗状況、提供開始の見通しについてなんらの言及がなかった。後述するとおり、AT&Tは2005年後半以来、幾次にもわたり、DSL加入者に対するEchoStar(衛星通信会社)、もろもろのビデオ・ソフト会社との提携によるHomezoneサービスの提供計画を発表した。このため、当初のLightspeedの提供路線は方向修正されるのではないかとの疑いを強めた。

上記の状況の下で、AT&TのスポークスマンDenise Koening氏は、Wahlman氏の憶測を打ち消す必要を感じたためでもあろう、デンバーにおけるLightspeedの試行サービスは順調に進行しており、本格的な商用サービスは、一部の限られた地域から2006年6月中からでもスタートすると述べた(注4)。同氏によれば、Lightspeedのサービス提供に向けての進捗状況は、おおむね次の通りである。

AT&TがLightspeedを試行しているのは、テキサス州サンアントニオ市の限られた人々(AT&Tの従業員も含まれている)に対してである。実施指定サービスは、高品質テレビ、高速インターネットアクセスが主である。将来は、これにVOIPが加わる。
試行結果は、当初計画したとおりで良好である。引き込み地点から4000フィート内の箇所で20から25メガ程度(当初の予想通り)の速度が得られており、サービス品質に問題はない。試行対象者も満足している。
2006年6月中にでも、この試行サービスを商用サービスに移し、その他の地域にも拡大したい(どの地域であるかは明らかにされていない。しかも、営業免許が取得できている地域は極めて少ない)。
2006年末までには、米国の15から20の地域において商用サービスを実施する計画である。

営業ライセンス取得戦略の失敗 - 地方公共団体から反発受けた自信過剰の合法性主張

 AT&TがLightspeedサービスの推進に当たり、最大の隘路となっているのは、地方公共団体からの営業ライセンス取得問題である。
 この件についてAT&Tは、基本的にLightspeed はIPTVであって、インターネットのアプリケーションに過ぎないのだから、インターネットサービス提供の営業免許以外に、免許は不必要であるとの基本姿勢を取っている。
 しかしAT&Tは、現実には、Verizonの場合と同様、個々の地方団体と折衝せざるを得ず、この折衝に当っては、強硬な反対にあって免許付与が得られない事例が生じている。
 例えば、イリノイ州シカゴ市近辺の4つの地方自治体(North Aurora、Carpentersvills、Roselle、Wheaton)から、Lightspeedサービス提供のための光ファイバー敷設の180日間差し止めモラトリアム)の通知を受け、AT&Tはこれを不当として訴訟に持ち込んでいる。
 その後、同時期に同様の決定を下したGeneve市議会は、モラトリアムを行った理由として、(1)Lightspeedはケーブルテレビ会社が提供しているTVサービスと同様のものであるから、審査基準も同等にしなければならない。(2)ケーブル会社はユニバーサルサービスを提供しているのに反し、AT&Tは提供する加入者を一部に限りたい(すなわちユニバーサルサービスを提供しない)等の疑義があるから、一層の検討を必要とするためであると主張している(注5)。
 もちろん、AT&Tの考え方に賛同して、営業免許を付与した地方自治体もある。例えば、カリフォルニア州Anaheim市の議会は2006年5月27日、(1)IPにより提供でき、Lightspeed提供には営業免許は必要でない(2)したがって、AT&T免許料の支払いも要しない(3)AT&TとAnaheim市との間の協定は無期限とする。AT&Tはいつでもこの協定を破棄できる、とのAT&Tの要求をそのまま受け入れたかのような決定を下している。もっとも、カリフォルニア州では、州議会で営業免許付与を不要とする法案が審議されており、この法案が可決される可能性が高いと見られている。従って、多分Anaheim市議会の決定は、将来、制定されるはずの法律内容を先取りしたものであろう。

 米国各州の地方公共団体で、AT&Tがどの程度にLightspeedの申請を行い、また、どの程度にその申請が認められたかの状況は、資料が乏しく、不明である。しかし、その歩みは遅々たるものであるにせよ、じわじわと免許取得数を増やしつつあるVerizonに比し、AT&Tの立ち遅れは覆うべくもない。
 これは、地方公共団体との交渉が決裂しても意に介せず、その場合は訴訟に訴え、司法当局のお墨付きを得たうえで、Lightspeedサービスを推進していきたいとするAT&Tの高圧的な姿勢も反発を呼ぶ原因となっているためと考えられる。

AT&T、Lightspeedと平行し、HomezoneTVサービスの提供を打ち出す

 AT&Tは2006年4月18日、DSL加入者に対し、ビデオ・オン・デマンド、DVRの提供、音楽配信等のビデオ提供、音楽配信のサービスを開始すると発表した(注6)。同社は、このサービスをHomezoneTVサービスと命名している。AT&Tは、このサービスをLight Speedサービス(2006年6月から開始予定)より少し遅れた2006年夏から開始する予定だとしている。
 HomezoneTVサービスは、現行のDSLサービスを使用し、しかも後述するように、ソフトはすべて他業者に頼るものであるから、その本質は正にIPアプリケーションの1つとして、ビデオ、音楽等のサービスを提供するというものである。サービスメニューを格段に増やすというものではあっても、特に新サービスに値するというほどのものではないかもしれない。
 その概要は次表に示すとおりであるが、その特色は、他社との提携により、コンテンツをそのまま利用して販売する点にある。AT&Tは将来、(1)高次DSL利用者にはLightspeed(2) 高次DSLを利用しない加入者には上記Homezoneを、と両サービスの棲み分けを考えている模様である。
 しかし、片や自前でコンテンツを整備するLightspeed、他業者任せのコンテンツの寄せ集めを利用するHomezoneが矛盾なく共存できるとも思われない。AT&Tは、必ずメディア提供の基本政策のありかたを問われることになるはずだからである。さらに、現に縮小しつつあるし、将来は消滅する運命にある回線交換によるDSLをベースにしたビデオ提供を、将来にわたり行っていくという営業政策は成り立つはずがない。
 長期的に見ればAT&Tは、必ずや将来の一定の時点からのDSLから光ファイバーへの転換を政策にせざるを得ない(Verizonのように、またわが国のNTTのように)と考えられる。

表 AT&TのHomezoneTV計画の概要(注7)
項 目
概要
サービス概要
現に提供しているAT&T Yahoo! High Speed internetとAT&T Dish Network programmingサービスを契約している加入者に対し提供する。すなわち、双方のサービスに、幾社からものVOD、デジタル・ビデオ、音楽配信等のソフトを付加し、パッケージとして料金を付し、販売するもののようである。
サービス提供により狙う効果
AT&Tがビデオ提供のメインとして推進しているLightspeedサービスは、3600万加入者のうち、半数の1800万加入者がアクセスできる目標で計画している。しかし、HomezoneTVなら、加入者数の80%までアクセスできるので、同社のビデオサービスが、富裕者のためのものであるとの批判を防げる。
実施時期
現在、きわめて限られた加入者に対してであるが、試行を行っている。まだ試行を継続しなければならないが、試行結果が良好であれば、2006年夏の後半にでも商用サービスが提供できる見込み(Lightspeedの提供は2006年6月から始まる予定であるので、ほぼ平行してサービスを実施できる)。
提携企業
*1 Akimbo Systems、*2 Starz Entertainment Group、Mobilelink 等。さらに、今後も数多くの企業と提携する予定。
ここで、現に緊密な提携関係にあるYahoo! EchoStarの両社が、AT&T Yahoo! high Speed InternetおよびDish Networking programmingの提供を通じ、最大のソフト提供業者である点に留意する必要がある。
*1Akimbo Systems:米国債と大手のVOD卸企業。200近くのコンテンツ企業と契約した10000を超えるVDOを提供できる。
*2Startz Entertainment Group:テレビの生放送、1500を超える映画、TVを提供するVongoサービスを提供する。

(注1)2006年5月15日付けDRIテレコムウォッチャー「明暗が分かれたAT&T、Verizon両社の業績」
(注2)AT&Tは、試行サービスにおいて、当初に想定したとおりの25メガビットのスピードが確保できるので、これによりすべての通常のビデオ、音楽配信サービス等に対応できると強気である。
(注3)2005.5.1付けBroadband Reportts.com,"AT&T Denies Lightspeed Delays"
(注4)AT&T Homezone TV Services to feature On-Demand Video Content from Akimbo
(注5)2006.4.19付けBeacon News online,"Geneva slows down Project Lightspeed"
(注6)2006.4.18付けAT&Tプレスレリース、"AT&T Homezone TV Service to Feature On-Demand Video Content from Akimbo"
(注7)本表作成にあたっては、幾点もの資料を参考にしたが、掲載は省略する。

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