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明暗が分かれたAT&T、Verizon両社の業績 - 2006年次第1四半期決算報告から -

2006年5月15日号

 2005年末から2006年初頭に掛けて、米国の電気通信業界では、4社のRHCのうち2社が大型のM&Aを実施した。2005年12月、業界第2位のSBC Communicationsは、最大の長距離通信会社、AT&TCorpを吸収合併し、しかも自社の社名を被合併会社であるAT&TCorpから受け継ぎ、AT&TIncとして再スタートするという離れ業を演じた。これに続き、2006年1月には、業界第1位のRHC、Verizonが業界第2位の長距離電話会社であるMCIを統合した。こうして、米国電気通信業界において、両メガキャリアーの市場シェアは大きく高まり、両社は準独占企業ではないかとの懸念が高まっている。
 2006年第1四半期の決算は、AT&T、Verizonの両社がそれぞれ大掛かりなM&Aを実施してから最初のものである。当然、関係筋からの大きな関心を引いたが、AT&Tが2005年同期に比し、大幅に利益を伸ばしたのに対し、Verizonは7%程度利益を落した。未だ、2006年の推移を論評できる段階ではないにせよ、AT&TがVerizonに比し、2006年次に好調なスタートを切ったことは間違いない。
 詳細は、本文を読んで頂ければ分かることであるが、Verizonの業績の不振、AT&Tと対比しての立ち遅れは、次の2点に要約できる。

  • AT&Tが合併に伴う収入の伸び以下に支出の伸びを抑えるのに成功したのに対し、Verizonは支出の伸びが収入の伸びを上回った。
  • これも、Verizon自体が認めているところであるが、同社が社運を賭して推進しているFiOSTVサービス(光ファイバー使用によるテレビサービス)のコストが嵩み、同社の利益を薄めることとなった。

 さらに、今回、両社の決算の分析を通して、明らかになったことは、AT&TとVerizon両社の業績面における固定通信部門、携帯電話部門の有するウェイトが異なる点である。すなわち、AT&Tにおいては固定通信分野の収入、利益が大きく、それ自体で自立できるほどの勢いがある。これに対し、Verizonにおいては、固定通信部門の業績が振るわない。これに対し、携帯電話部門の勢いが強いということである。
 本論では、上記の点についてさらに詳しく説明する。特に、今回のVerizonの決算の説明のなかでは、初めて同社のFiOSTVサービスの進展状況が記述されたので、この点も紹介した。
 なお、AT&Tは、Verizonと異なり、FTTC(ファイバー・ツー・ザ・カーブ)によるLightspeedサービス提供を中心としたTVサービス提供の準備を進めている。次号(6月1日号)では、この状況について解説する。

AT&T、Verizon両社の2006年次第1四半期決算(注1、注2)

表1 2006年次第1四半期におけるAT&T、Verizonの収入、純利益(単位:100万ドル)
項 目
AT&T
Verizon
総収入
  非携帯部門収入
  携帯部門収入
24,815(+34.3%)
15,835(+54.5%)
8,980(+9.1%)
22,743(+26.1%)
13,930(+31.2%)
8,813(+18.8%)
純利益
  非携帯部門純利益
  携帯部門純利益
*1 1,445(+63.3%)
1,445(+63.3%)
354(*2 -2.4)
1,632(-7.1%)
1,001(24.4%)
631(+45.9%)
注1括弧内の数値は、前年対比増減率を示す。両社とも増率が高いのは、それぞれ、AT&T Corp、MCIを吸収したためである。
注2*1 この純利益額には、携帯部門純利益分354百万ドルが計上されておらず、非携帯電話部門の数値のみがそのまま計上されている。
携帯電話部門の利益354百万ドルは、BellSouthと共同で運営している(AT&T、BellSouthがそれぞれ68%、40%の持分を所有する)Cingular Wirelessの総利益であって、本来AT&Tは自社管轄部分の利益を計上すべきものであろう。
ちなみにBellSouthの決算を見ると、同社は、携帯電話部門の純利益として243百万ドルを計上しており、この数字からすると、AT&Tは総利益354百万ドルとの差額の111百万を計上するのが筋であったと考えられる。
AT&Tは多分、非携帯電話部門の純利益計上だけで、十分な前年対比利益増を確保したので、携帯電話部門計上を見送ったとしか考えられない。このAT&T純利益の構造は、同社の固定通信部門の財務の健全さ(一般的に、固定通信部門の斜陽化が喧伝されているさなかにあって)を示すものとして、注目される。
注3*2で示す数値は、増減比でなく2005年第1四半期実績である。
注4その他部門収入は、総収入から携帯電話収入を差し引いて計算した。国内通信が主体であるが電話帳、国際事業等他のすべての項目が含まれている。

 表1からおおむね、次の事項が読み取れる。

それぞれ旧AT&TCorps、MCIを統合した後のAT&T、Verizonは、その総収入、利益の規模において同等の企業となった。これは、今後、2006年通期において両社を比較する上で、きわめて好都合である。
利益に対する携帯、非携帯部門の寄与率において、AT&T、Verizonは対照的な差を示している。AT&T携帯電話部門の利益率は3.9%に過ぎないのに対し、非携帯電話事業部門の利益率は9.1%と比較的高率を示し、この結果、事業全体の利益率7.65%を維持した。これに対し、Verizonの携帯部門および非携帯部門の利益率は、期せずして同率の7.1%であって、業務全体の利益率も同率となっている。つまりAT&Tは、非携帯部門がいまだ事業の牽引力であるのに対し、Verizonでは斜陽となりつつある非携帯部門に代わり、携帯部門が強く、同社事業を推進している。
今回のAT&T、Verizon両社の決算で両社間の格差が大きかったのは、前年同期と対比しての純利益の増減である。AT&Tが前年対比、36%増と好調であったのにもかかわらず、Verizonは7.1%の減少を示した。この原因は多様であるが、すでに述べたように、Verizonの非携帯電話部門が比較的脆弱である点に根本原因が認められよう。

 表2により、AT&T、Verizon両社の収支構造をさらに比較する。

表2 2006年第1四半期におけるAT&T、Verizon両社の収支構造比較(単位:100万ドル)
項 目
AT&T
Verizon
営業収入24,433(+33.6%)22,743(26.1%)
営業支出21,435(+28.9%)18,888(27.6%)
  サービス・販売コスト10,393(+35.9%)8,749(42.9%)
  一般管理費等6,870(+25.4%)6,363(22.0%)
  減価償却4,172(+4.172)3,776(9.1%)
営業利益2,998(+79.5%)3,855(+14.0%)

 営業収入の規模が類似しているので、AT&T、Verizon両社の差異を比較しやすい。 つまり、AT&Tは営業支出の増を営業収入増の比率以下に抑えて、営業利益の段階ですでに大幅な2005年対比増を達成している。これに対し、Verizonは営業支出のコントロールに失敗し、営業支出の大幅増にもかかわらず、営業利益は収入増比に及ばなかったのである。
 Verizonは、コスト増が今期業績不振を招くことになったとして、さらに、コスト増の原因を(1)MCI取得に伴い生じた統合のためのコスト(2)FiOSサービス推進に伴う販売、投資のためのコストが嵩んだためだと説明している。
 さらに、表3で、Verizon、AT&T両社の固定通信部門の収支等の比較をしておく。この表において、AT&Tの各項目の支出が、Verizonの各項目支出以下にコントロールされている点が、表2における総体の収支の場合以上に、明確に現れている。

表3 2006年第1四半期におけるAT&T、Verizonの固定通信部門収支等(単位:100万円)
項 目
AT&T
Verizon
営業収入14,739(+60.5%)
12,484(+33.3%)
営業支出12,987(+61.0)
11,404(+40.6%)
  サービス・販売コスト6,856(66.3%)
6,000(+56.0%)
  一般管理費等3,701(70.6%)
3,023(+45.3%)
  減価償却2,430(+37.1%)
2,381(+8.9%)
営業利益12,987(61.0%)
1,080(-13.9%)
純利益1,752(+57.0%)
321(-36,3%)

VerizonのFiOSTVサービスの進捗状況

 2006年3月末時点におけるVerizonによるFiOSTVサービスの進捗状況は、次の通りである。

15の州において、360万加入分の光ファイバー設置を完了した(2006年末の計画は600万加入分)
サービス提供後、6ヶ月超の地域におけるサービス開始6ヶ月後の普及率は9%である。また、サービス提供後、4ヶ月超のフロリダ州、テキサス州、バージニア州における普及率は9%から12%に達している。FiOSTVサービスを最初に提供したKeller市(テキサス州)における普及率は25%である。Verizonは、5ヵ年間で普及率30%を目標としており、これまでの普及率は順調に推移している。
FiOSの加入者の80%は、Verizonのトリプルプレイのサービス(有線、インターネット、FiOSTV)を利用している。
FiOSに要するコストにより、Verizonの利益は1株当たり6セント下がった。

 上記の記述は、すべてVerizonの決算報告から引用したものであるが、多少、注釈を付加えて置く。

FiOS加入者数の推計
 Verizonは、直接、FiOSの加入者数を発表していない。しかし、2006年3月末における普及率およびアクセス可能回線数を発表しているのだから、この両数値から大まかな推計は可能である。すなわち、30万加入程度となろう(360万×0.9=32.4万)。
 ちなみに、Verizonのブロードバンド加入者数は、568.5万(2006年3月末)、386.4万(2005年3月末)である。この数字には、FiOSの加入者数が含まれているから、2006年3月末までに1年間で増加したブロードバンド数約180万のうち30万、約17%をFiOSが占めたこととなる。2005年夏のサービス開始以来、多額の投資を行った挙句の成果としては、少し実りが薄い気もするが、Verizonがともかくも、RHC4社のなかで、光ファイバー使用サービス提供の先鞭を付けた実績は高く評価してよい。

FiOSTV提供に要したコストの推計
 すでに述べたように、Verizonは、FiOSTVサービスのため、1株当り6セントのコストを費やしたと発表している。株式当りのコスト6セントを金額に換算すると、約1.75億ドルとなる。Verizonが計上した2006年第1四半期の純利益29.15億ドルは、一株当たり56セントであるので、同社はFiOSTVのコストのため、利益の10%近くを犠牲にしていることとなる。今後、この経費は、当分の期間、増加する傾向にあるはずであるから、今後もVerizonの業績に大きな負担となろう。

(注1)今回の資料はすべて、AT&T、Verizon両社の2006年第1四半期における決算報告によった。
(注2)AT&Tの携帯部門には、Cingular Wirelessの全収入、全利益が算入されている。Cingular Wirelessは、AT&T、BellSouthがそれぞれ60%、40%の持分を有する携帯電話会社であって、本来ならAT&Tには、同社に相当する携帯部分の収入、利益しか計上すべきではないはずである。ただ、AT&Tは、多分、2006年末あるいは2007年初頭には、BellSouth(Cingular Wireless60%ともに)を統合する見通しであるので、今回はAT&Tが発表した数値をそのまま用いた。

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