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世界中のすべての情報の提供を目指し疾走するグーグル(Google)

2006年3月1日号

 2005年末から2006年始めに掛けて、グーグルは米国のジャーナリズムにおいてもっとも多くの話題を提供する企業となっている。同社は1998年9月に、当時スタンフォード大学の2人の学生であったラリー・ページ氏(Larry Page)とサージェイ・ブリン(Sergey Brin)の両氏が創立した検索エンジン企業である。両者とも技術畑の出身であり、役員兼それぞれの部門の長を勤めているが、最高責任者は2001年7月以来、CEOのエリック・シュミット氏(Eric Schmidt)である。
 グーグルの2005年次の収入は61億ドルであり、前年対増加率は91%となった。この勢いからすると、2006年次には100億ドルを上回る可能性もある。また、利益率もきわめて高く、無借金経営である。同社は現在、米国最大のインターネット広告事業者であって、新聞・雑誌・ケーブルテレビ・放送等旧メディアから広告収入を奪っている。すでにインターネット広告はその収入において、2007年中に新聞広告収入を抜くとの予測もある(注1)。
 ただ、広告料収入を資本にして、全世界の情報をすべての形式(テキスト、音声、ビデオ等)でユーザーに提供しようとの壮大なビジョンを実行に移そうとしている特異な企業であるために、利害関係者、米国政府との摩擦も大きくなりつつある。この摩擦が大問題にならず、今後も高成長を続けて行ければ、同社はマイクロソフトのような巨大企業となろう。グーグルは、今や単なる検索エンジン会社ではない。検索提供を武器とした一大情報提供会社なのであり、最近のAOLTimeWarnerとの提携交渉(筆者注:AOLTimeWarnerへの5%資本参加はわが国ジャーナリズムでも大きく報じられているが、まだツメの交渉を行っている段階のようである)の例に見られるように、他企業との提携、資本参加を通じての事業拡大の見通しも開けている。
 本文では、グーグルの最近の業績、業績上昇の秘密と同社の企業目標、同社の当面している問題点に焦点を当てて、説明を加えた。

財務実績に示されるグーグルの成長の速さと高収益

 まず、表1をご覧いただきたい。

表1 過去4年間におけるグーグルの主な財務実績(単位:1000ドル)
項目2002200320042005
収入439,5081,465,9343,189,2236,138,560
対前年増加率(%)40.9234 11892
広告収入比率(%)93.596.998.698.8
海外収入比率(%)22293439
純利益99,656105,648397,1191,465,395
対収入純利益率(%)2371324
キャッシュフロー155,265395,445977,0442,459,422

 収入は、年次によっては倍単位で伸びている。利益の絶対額も利益率もきわめて高い。しかも利益率は、2005年には過去最高となった。キャッシュフローも大きく伸びている。もちろん、無借金経営。グーグルがわが国、中国も含め、世界の多くの国々で事業展開をしているのは周知のことであるが、海外収入の比率も年々伸び、2005年には約40%の売り上げのシェアを占めるようになった。
 筆者が、決算期のつど紹介しているRHCの収入が毎期伸び悩み、利益率もたかだか10%前後で、しかもどちらかといえば逓減の傾向にあるのときわめて対照的である。
 今、ひとつ注目すべきであるのは、グーグルの売り上げのほぼすべてが、広告収入に依存していることである。端的に言えばグーグルは、同社が有する将来のさまざまなビジョンはともかくとして、精緻な検索エンジンを武器にして顧客の閲覧ページのトラヒックを増やし、このページにリンクさせた広告掲載により、収入を上げているオンライン広告業者であるといっても過言ではない。
 では、競争の激しい検索エンジン業界において、同社はどのようなシェアを占めているのだろうか。表2は、米国における検索エンジン諸社の上位5社の検索件数によるシェアを示したものである(注2)。

表2 検索エンジン上位5社の占めるシェア(2004年8月)
事業者名市場シェア(%)
Google36.1
Yahoo!30.6
Microsoft14.4
AOL/TimeWarner10.6
Ask Jeeves5.9

 これで見ると、グーグルは検索エンジンの老舗企業であるヤフーを押さえてトップの地位を堅持しているものの、シェアの差はさほど大きいものではない。また、市場シェアでこそ相当に差を付けたとはいえ、強豪ISPのマイクロソフト、AOL/TimeWarnerがいまさらながら、広告業界から手に入れることができる収益の大きさを認識して、巻き返しを図っている。後述するが、グーグルの将来性に厳しいアナリストがいるのも、そのためである。

2005年秋のグーグル株の高騰と2005年2月の低落

2005年第3四半期の業績好調で、株価高騰
 グーグルは、2004年8月株式の市場公開を果たして以来、好調な業績を続け、株価も上昇し続けしていたが、株価がピークに達したのは、同社が2005年11月中旬、2005年次第3四半期の予想を上回る好決算を発表した後のことであった。
 この期、グーグルは、16億ドルの収入に対し、3.89億ドルの純利益を上げ、この利益額は2004年第3四半期の0.52億ドルに比し、約7倍であった。にわかに、グーグルがネット広告の分野で独自のビジネスモデルにより顧客の勧誘に成功していること、また米国メディア業界最大手のTimeWarner/AOLを事業提携相手として選んだこと(マイクロソフト社を拒絶)等が喧伝されたこともあり、2005年11月から2006年1月中旬に掛けて株価は大きく上昇した。2004年8月、同社が株式を公開した当時85ドルであった株価は、2005年10月には300ドル台の半ばから後半に、さらに11月から12月に掛けて400ドル台の前半から後半へと入り、2006年1月11日には、最高値の475ドルに達した。
 同社の株式総額は、株価400ドル台の水準で、1000億ドルを軽く超え、1226億ドルに達した。バブル全盛期ならともかく、現在このレベルの株式総額を有する企業は数少ない。さすがに、グーグルの株価はバブルの再来ではないかと警戒する声が強くなった(注3)。

2005年第4四半期の業績発表で、グーグル株は大幅に下落、以来、300ドル台で安定へ
 グーグル株は、2006年2月13日、345.75ドルへと大幅に値を下げた。この株価低落には、3つほどの要因がある。1つは、直前に発表された同社の第4四半期決算が、予想したより悪かったことによる。悪いといっても、好調に過ぎた同社の収入が前期に比し低くなったという程度であって、表1に示したとおり、第4四半期を含めた2005年通年のグーグルの業績は、素晴らしいものというほかない。
 株価暴落の直後の2月15日、金融雑誌Barron'sがグーグルの将来性に疑問を呈し、株価は今後さらに50%程度下がる可能性があるとの記事を掲載し、大きな反響を呼び起こした。
 この記事は、(1)グーグルには、ヤフー、マイクロソフト等の強力な競争相手が存在し、今後グーグルに真剣な競争を挑むから、今までのような高度成長は期待できない(2)グーグルは、従量制の広告をクリックした回数により、広告費を支払うサービスを広告業者、ISPから得る手法(pay per click)をビジネスモデルにしているが、このやりかたでは、ますますクリック詐欺(Click Fraud)を生み出すことになり、これの件数増加がグーグルのコスト増を招き、収益を蝕んでいくという2点を、グーグル成長に歯止めを掛ける要因であるとしている(注4)。
 さらにこの時期、グーグルが中国政府の要求に屈して、中国において特定ホームページを検索対象から外しているとの批判を受けたことも、株価にとり悪材料となった。
 しかし、Barron'sの記事に対し、グーグルの将来性を強く支持するアナリストの方がむしろ多く、最近、株価は300ドル台半ばで安定している。

広告業界のシェアを侵食するISP(とりわけグーグル)、グーグルの野望

図 既存媒体(新聞、雑誌、テレビ、放送等)の市場を侵食するインターネット広告

 上図をご覧いただきたい。左側は、ISP業者が2005年に得たインターネット広告からの収入120億ドル(推計)を示す。グーグルは最大手業者で全収入の約50%を得ているが、同社に次ぐヤフー、Time/Warner、MSNを初め、多くのISP業者がシェアを分け合う。これに対し右側は、既存メデイア(テレビ・放送・新聞・雑誌・テレマーケティング等)の広告総収入を示す。
 ここで注目すべきなのは、インターネット広告から得られる収入は、年々急成長を続けている(2005年は推計34%)ものの、広告市場全体に占めるシェアは、未だきわめて小さく、3%から4%程度に過ぎないことである(注6)。これは、グーグルの将来の事業拡大の大きな可能性を意味する。
 現在、インターネット広告は、不特定多数の顧客に対し訴求する一般広告に対し、費用効果が数量的に測定できるカスタマイズ化された新型広告(クリック数による広告利用者の把握等々)により、売り上げを急増させており、この新サービスにもっとも成功しているのが、グーグルである。
 グーグルの将来性が高く評価され、株価が持続的に上昇しているのは、(1)顧客側からして、無料の情報検索により、広告を目にする機会が多い(2)広告の訴求度が強く、従量制(Pay per Click)により、広告料が設定されるので、コスト効果が高いという点を、広告主、顧客、株主が強く認め始めたからである。
 なお、上記と関連し、グーグルの企業目的がきわめて野心的なものであることを指摘しておかねばならない。
 グーグルは、そのホームページにおいて、同社の使命を「全世界の情報を組織化し、どこからでも、これをアクセス可能なもの、有益なものにする」と淡々と説明している。ところがこの情報には、テキストだけでなく、音声、ビデオ、画像も含むのであって、その情報量は莫大なものになる。現に、情報の提供による広告収入獲得→情報の蓄積への投資の拡大→情報の増加(検索数の増加の拡大サイクルを繰り返すことを通じて、自社目的の実現に向けて努力を続けているのである。

グーグルのビジネスモデルの問題点:既存企業、政府との利害の調整が必要

 グーグルが成長企業であるだけに、また壮大な経営理念を掲げ、これをドラスティックに遂行しているだけに、最近、同社と利害関係がある既存企業、政府との摩擦、対立が諸種の場で起こっている。かつては、IBM、マイクロソフトなど急成長企業が経験してきた「出る杭は打たれる」現象かもしれないが、いずれもグーグルの今後の成長を左右する問題である。現在進展中であるこれら案件については、今後また紹介する機会もあろうかと思うが、ここでは取りあえず、問題点を指摘するに止める。

  • コピーライトをめぐる紛争
    グーグルは、すべてのコンテンツ(テキスト、音楽、ビデオ等その形態を問わず)をできるだけ、無料で(すなわちコピーライトの支払いなしに)取得する路線を走っている。クレイムが付いたり訴訟に持ち込まれたら、その都度、解決すればよいとの方針のようである。このため、すでに、幾つかのコンテンツ保有企業(特に、ABC、CBS、FOX等のテレビ会社)と紛争を起こしている。訴訟に持ち込まれるケースも増えている。
  • 政府との対立
    米国政府との間では、2つの件で対立している。一つは、政府からのインターネット検索者についての資料請求に関する要求に関するものである。米国政府はグーグルに対し、強くグーグルの検索を利用するユーザーについての資料請求を要求しているが、グーグルは強い姿勢でこれを拒否している。この点、政府に協力的なVerizon、AT&Tとは対照的である(注7)。
    今ひとつは、中国において、グーグルが中国政府の圧力を承諾し、批判的団体、少数民族のネットを検索対象から排除していることについて、グーグルが、同じく中国にインターネット検索事業に進出しているヤフー、MSN(マイクロソフトの子会社)とともに米国政府から非難されている。
  • RHCからのインターネット回線使用料引き上げ要求
    VerizonとAT&Tは、最近、強くインターネットを利用し、大きな利益を上げているISPからは、特に高速回線について、料金を引き上げるとのキャンペインを大々的に行っている。
    この問題は、広くはブロードバンドの料金はいかにあるべきかとの規制とからんでおり、米国議会も、この案件を含めた法案を準備中である。

(注1)http://www.adotas.com/, 2006/01, Online Classifieds to Overtake Newspaper Ads by 2007
(注2)資料は、ComScore Networksのもの。2005.11.12付けエイシャン・ウオールストリート・ジャーナルの記事に掲載したものからの孫引き。ComScore社は、25企業の検索件数を調査したとのことである。表2のシェアを加算すると98.6%となるので、20企業で残り1.4%のシェアを分け合っていることになる。
(注3)グーグル時価総額については、2005.11.20付けBusiness Online, "Is Google Flying Too High ?"
(注4)2006.2.13付けYahoo!News, "Investor Sentiment Sours on Google"
(注5)この図は、2005.12.5付けBusiness Weekの、"Googling for Gold"の記事にある数値(Forrester Researchによる)から作った。
(注6)ここでは、比較的まとまった2005年広告収入の推計値が出されているForrester Researchの数値によった。
(注7)米国政府はテロ対策のため、2001年暮に制定した「愛国法」にもとづき、通信の傍受をテロ防止措置の範囲内で行う権利を有している。これに対し、AT&Tは全面的に政府に協力し、膨大な資料を提供していることが判明している。また民主党は、この問題(AT&Tだけでなく、政府による通信の傍受をどこまで認めるべきかどうかの問題)を取り上げ、議会で論議が続いている。政府のグーグルに対する要求は、非常事態における通信傍受の要求の延長である。

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