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DRI テレコムウォッチャー |
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2005年次の決算から見たRHC3社の財務状況 - おおむね増収減益基調
2006年2月15日号
今回は、2006年1月末に発表された決算数値に基づきRHC3社(Verizon、AT&T、BellSouth)の財務状況の特色を紹介する。
新年初の決算報告では、前年次の第4四半期、及び通期の財務状況が報告されるのであるが、例年、企業は、第4四半期の決算のみを正面に押し出してクローズアップし、それ以上に大切な通年の決算は、意図的に目立たないように表示する傾向が強い。これは一般的に、年末の時期を含んだこの第4四半期の業績が、前第3四半期に比し良好であることにもよる。
今回のRHC3社の決算報告もその例にもれず、各社プレスレリースにおける説明は、そのほとんどが第4四半期の業績向上のみを強調する内容であった。
本文では、(1)各社の2005年次通年の数値と2004年次通年との対比(増減率による)、(2)(1)の補強資料として、固定市内(アクセス)・長距離・携帯・DSL(ブロードバンド)の加入回線あるいは加入者数の提示、(3)AT&Tの携帯部門の数値を同社が発表している数値の60%と推定し、縮小(その理由については、注1を見て頂きたい)の作業を行うことにより、これら3社財務の実態をつかむ努力をした。
その結果については、本文を見て頂けば足りるのであるが、ここでは、3社が増収減益という共通の動向を示しながらも、3社の財務、ひいては経営戦略にそれぞれの特色が生じつつある点を指摘しておく。
Verizonは、携帯部門の好調により大きい増益を上げているが、固定部門は減収であって、将来に不安が残る。現在、同社が遂行中の光ファイバー(FioS)が収支償うものであるか否かについては批判が強い。AT&T、BellSouthの株価が20ドル台であるのに比し、Verizonの株価のみは、逓減傾向にありながらも30ドル台前半を維持しているが、2005年次に20ドル台に陥る可能性すらある。
AT&TIncは、2005年11月に長距離通信会社のAT&TCorpを統合し、ブランド名を切替えた電気通信事業者である。2004年におけるAT&TWirelessの吸収の後を受け、大型買収を続けて、電気通信事業界においてVerizonと並ぶ地位についた。ただ、利益率が3社中最下位である点は同社の泣き所であるが、同社は3社中唯一、かなり詳しい2006年次の財務改善計画を発表している。毎期、1株当り利益を改善(旧AT&T統合に要するコストは除く)していくという同社の計画が実現すれば、AT&Tは将来、Verizonを抜き、名実ともに米国第一の電気通信事業者に飛躍するだろう。
BellSouthは2005年秋、ハリケーンの襲来により、予期しない支出を余儀なくされ、また多くの加入者を失った。ただ、2005年次に利益が大きく減少したなかにあって、なおかつVerizon、AT&Tを上回る利益率を上げている点は賞賛に値する。これまで、AT&TとCingular Wirelessを共有している点もあり、AT&Tによる買収が近いのではないかとの観測も流れた。しかし、AT&T側はこの観測を打ち消しており、2006年には両社統合の動きが生じることはあるまい。ただし長期的には、同社は必ずや自主路線によるバイアビリティー(生存可能性)を問われることとなろう。
本論では、RHC3社の決算の分析、AT&T、Verizon両社が発表した2006年次の財務見通しについて説明する。
2005年次における3RHCの収入・利益
表1に、2005年次におけるRHC3社の収入、支出を示す。
表1 2005年次におけるRHC3社の収入、支出(単位:100万ドル)
事業者名 | 収入(括弧内は対2004年次増減比) | 利益(括弧内は対2004年次増減比) |
Verizon(トータル) | 75,112(+5.4%) | 7,397(+1.9%) |
携帯電話以外 | 42,811(-1.9%) | 5,178(-7.8%) |
携帯電話 | 32,301(16.8%) | 2,219(+34.4%) |
AT&T(トータル) | 64,563(+26%) | 4,416(-24.1%) |
携帯電話以外 | 43,862(+7.5%) | 4586(-18.7%) |
携帯電話 | 20,701(+76.0%) | -170(*-66) |
BellSouth(トータル) | 34,280(+16.9%) | 3,995(-19.6%) |
携帯電話以外 | 20,547(+1.2%) | 3,294(-30.8%) |
携帯電話 | 13,733(+76%) | 701(+235.4%) |
(* 増減比ではなく実数値)
上表について、RHCごとに多少のコメントを付け加えておく。
Verizon:3RHC中一社のみ、固定通信がマイナス成長、利益も携帯電話頼み
Verizonは2004年に引き続き、非携帯電話部門(固定通信部門が中心)が前年対比マイナスになった。これは、表2からも明らかな通り、同社もAT&T、BellSouth2社と同様、加入電話回線の減少をデータ回線、ブロードバンドの増で埋め合わせているのであるが、その努力が及ばなかったためである。もっともトータルで見ると、収入は前年対比5.4%の増と好調な成長率を示している。非携帯電話部門の利益も大きく落ち込んでいる。
これは同社が、DSLのほか、ブロードバンド拡大に向け、巨額の投資を行っていることと関連する。
固定通信部門の不振に比し、携帯電話部門の収入、利益は共に、2004年次に比し、大きく向上している。2005年次におけるVerizonの前年比を上回る利益は、米国でもっともサービスが良好だとの評価が高いVerizonWirelessにより、支えられているといってよい。
AT&T:固定・携帯通信部門ともに増収減益
AT&Tは、BellSouthとともに、共同所有する携帯電話部門Cingular Wirelessが2004年末AT&TWirelessを統合した収入分が、2005年にフルに入ることとなった結果、大きな増収を計上した。また、2005年の収入には、11月中旬以降の旧AT&TCorpの収入が含まれており、これも同社の収入を押し上げる要因となった。
しかし利益べースで見ると、固定・携帯流部門ともに減益である。これは、固定通信部門ではDSL等の分野でMSO(大手ケーブル会社)等との競争のため、投資、販売コストが嵩んだことによるものであろう。また、携帯電話部門は欠損(推計値)を出しているが、これはCingular WirelessがAT&TWirelessを統合した結果、加入者ベースで米国最大の携帯電話会社になったのにもかかわらず、ネットワークの統合、サービスの高度化等に多大の支出を余儀なくされていることによるものであろう。ただ、Verizonの場合と異なり、固定部門の収入増は大きい。これは、固定電話回線の減少に伴う収入減をDSL、長距離通話、さらにはパッケージ通話(いわゆるトリプルプレイ)の収入で補ってあまりある状況まで、多様化したサービス収入の増が貢献したことによるものであろう。表2に示すとおり、今や新生AT&Tは、旧AT&TCorp分を含めないでも、固定通信分野でVerizonをしのぎ、米国最大の通信事業者の地位を確実なものとした。この新成長分野における加入者の厚みは、今後AT&Tの業務推進に当たり、大きな強みとなる。
BellSouth
BellSouthも、AT&Tの場合と同様に、携帯部門(CingularWirelessの40%部分)のAT&TWireless吸収により、収入を大幅に増加させたものの、利益を大きく減らした。しかし同社は、第3四半期以降、ハリケーンのKatrinaにより大きな被害を受け、一部通信設備の復旧に巨額の支出を要しており、またこれに伴う収入減も大きかった。それにもかかわらず、非携帯部門がわずかではあるにせよ、増収を確保できたことは、同社の経営基盤が意外に強いことを示すものであろう。また、同社の利益率は、前年に比し低下しているとはいっても、3社中最高(11.6%)である点も特筆に価する。しかしこれは、同社の営業エリアにおいて相対的に競争圧力が少なく、同社が未だ少ない投資で、しかも新サービスの提供も遅れたままで、相対的に大きな利益率を確保できる、恵まれた状態にあることを意味するものかもしれない。
大いに進捗した携帯・ブロードバンドへの移行
収入・利益の動向を裏付ける資料として、表2に2005年次において、3社の携帯・ブロードバンドへの動きがどれほど進んだかを加入回線・加入者数により示す(表2)。
表2 RHC3社のサービス別加入回線・加入者数(2005年末、単位:10,000)
項目 | Verizon | AT&T | BellSouth |
アクセス回線数 | 4,880(-6.7%) | 4,941(-5.6%) | 2,004(-6.2%) |
長距離回線数 | 1,815(+6.8%) | *1 2,350(+12.6%) | 718(+19.4%) |
携帯電話加入者数 | 5,130(+11.9%) | *2 3,246(+10.2%) | 2,146(+10.2%) |
DSL回線数 | *3 510(+47.6%) | 690(+35.6%) | 288(+37.9%) |
(括弧内は、2004年末対比増減比である。)
*1 | 2005年末時点で、SBC CommunicationsとAT&TCorpの合併は行われていたが、この数字はAT&TCorp分を含んでいない。 |
*2 | BellSouthは、CingularWirelessの総加入者数の40%の数字を計上しているのに対し、AT&Tはトータルの加入者数、5140万を計上している。ここに示したAT&Tの数値は、トータル数の60%分を掲載した。 |
*3 | この数字は、2005年春以来、Verizonが提供している光ファイバーによるブロードバンド(FioS)の加入者数を含む。 |
以下、表2について、多少、コメントを付しておく。
「アクセス回線数」の減は、「携帯電話加入者数」の増との関連で考えなければならない。アクセス回線の減は、3社とも5%台から6%台に及んでおり、確かに大きい。しかし、2005年次になってVerizonとBellSouthは、はじめてアクセス回線を上回る携帯電話加入者を有するに至った。Verizonは2006年初頭、MCI統合発表に当たり、今後、同社は携帯電話、ブロードバンドを主体に事業活動を行っていくと宣言しているが、その宣言の基盤はすでに整備されている。
長距離電話加入者数も、2004年次に比し大きく伸びた。2005年次には、未だ旧AT&T、MCIの加入者分が計上されていない。しかし、大手長距離電話会社2社(AT&T、MCI )が消滅した2006年初頭の現在、長距離加入者をもっとも多く有している事業者はRHC3社である。
DSL回線数も、MSO(大手ケーブル電話事業者)との競争を通じ大きく伸びている。わが国同様、未だダイアル・アップによりインターネットを利用しているユーザーが幾千万も存在するので、今後、予想される料金低下のインパクトもあり、DSL加入者数は2005年次も大きく伸びることが予想される。
2006年から、それぞれメガキャリアーとなったVerizonとAT&Tの両巨大事業者の国内、国際分野での、またすべてのサービス分野での激烈な競争が展開されることとなるが、表2により、現在有している回線数、加入者数の点でも、両社が拮抗している様が伺える。
これに対しBellSouthは、両社のそれぞれの2分の1以下の規模に過ぎず、劣勢は覆うべくもない。当面、業績がよいので独立して経営して行くことが可能であるが、2、3年のうちには、他社との一層の提携、あるいは統合の道を探らざるを得なくなるだろう。
Verizon、AT&Tが発表した対照的な2006年の財務見通し
VerizonとAT&Tの両社は、2006年の財務見通しを発表している。表3に、その概要を示す。
表3 VerizonとAT&Tが発表した2006年次の財務見通し
事業者名 | 2006年次の財務見通し |
Verizon(注3) | - 投資額は、170億ドルから174億ドル
- 上記金額には、MCI統合に要するコスト分5.5億ドルを含む
- MCIとのネットワーク統合のシナジー効果は2億ドルを超える
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AT&T(注4) | 2006年次は、AT&TCorp統合のシナジー効果、ブロードバンド、ワイアレス、ビジネス部門における競争力向上、コスト削減を通じて、次の通り財務を大きく改善する。- AT&TCorp統合にともない、180億ドルのコスト削減をする(2005年1月時点発表の150億ドルを20%上方修正)
- 2008年次までの3年間、毎年、1株当たり利益(AT&T統合に伴うコスト分は除く)を2桁台向上する
- 旧AT&TCops部門の収入減の傾向は容易に止まらないので、2006、2007年の収入は減となろう。2008年には、収入は、前年比横這いになる見込み
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両社の2006年次の見通しの差異は、明らかである。AT&Tは、旧AT&TCorp統合のシナジー効果を強く強調し、自社事業部門の強化とあいまって、2006年時以降、株式当たり利益の向上を明確に打ち出している。
これに対しVerizonは、投資額の幅(かなり大きい)とMCIネットワーク統合によるシナジー効果(AT&Tが誇示しているMCI統合効果に比し、あまりにも小さい)をおざなりに示しているに過ぎない。このためもあり、最近、Verizonの将来を危ぶむ記事が多く、米国のジャーナリズムをにぎわしている(注5)。
(注1) | 表1は、すべて3社が2006年1月末に発表した決算数値を基にして作成した。2004年次の場合と同様、AT&Tは自社の携帯部門(BellSouthと共同で運営しているCingularWirelessの自社持分60%)の実力を表示せず、CingularWirelessの総体の数値をそのまま計上している。表の作成に当っては、筆者の計算により、Verizon携帯部門の数値(AT&Tが発表したCingular Wirelessの数値)とBellSouthが発表したCingularWirelessの40%の数値との差を計算し、この数値を推計値とした。 |
(注2) | 表2も、すべて3社の2005年次決算から作成した。 |
(注3) | 2006.1.31付けAT&Tのプレスレリース、"AT&T Updates outlook on Merger Synergies, Details plans for Growth in Wireless,Broadband and Business" |
(注4) | 2006.1.26付けVerizonのプレスレリース、"Verizon Communications Reports Strong 4Q 2005 Results,Driven by Continued Growth in Wireless and Broadband" |
(注5) | VerizonのFioSへの投資拡大路線が正しいものかどうかの議論は、現在、大きく米国ジャーナリズムを賑わしており、これらを詳しく紹介するだけでDRIテレコムウォッチャー1号分が組めるほどである。VerizonのSeidenberg氏を支持する向きも多少はあるが、批判する向きの方が多い。これに関する最近の論説としてすぐれたものに、Market WatchにJeffruy Bartash氏が執筆した"Verizon's big fiber gamble faces doubt"(2006.2.10付けMarket Watch)がある。 |
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