DRI テレコムウォッチャー


Martin委員長の最大課題は、ユニバーサル・サービス基金徴収方法の決定
2006年2月1日号

 Martin氏は、2005年3月中旬に前委員長Powell氏の後任として、FCC委員長に就任した。同氏は、2001年以来FCC委員の職にあり、際立った企画力、調整能力を発揮していた。当時から、直情径行のきらいがあった前Powell委員長より高い評価を得ていたといえる(注1)。
 Martin氏はFCC委員長就任後も、各関係筋の期待を裏切ることなく、利害対立の激しい困難な調査案件を次々とこなしている。同氏が、FCC委員長に就任後、裁定を下した2大案件には、市内通信事業者に対し、ブロードバンド(DSL、 光ファイバー)についてフリーハンドの承認(過渡期間が設けられているが、リースに当たり、料金設定、リースをするか否かをブロードバンド所有者にゆだねること)及び2件の電気通信事業者同士の合併(SBC CommunicationsによるAT&T、VerizonによるMCIの合併)承認がある(注2)。
 Martin委員長は、ブロードバンドの裁定に当っては、ブロードバンドの提供に当っているケーブルテレビ会社とRHCの競争条件の平等を実現することを理由として、これまで反対を続けてきた2名の民主党議員を説き伏せ、このむずかしい案件の裁定に成功した。また、同委員長は、最大級の電気通信事業者の合併案件2件も、付帯条件なしで(これまでこの種の合併案件では、FCCは、少なくとも合併事業者、被合併事業者の重複する資産の売却を命じるのが常であった)、合併を承認した(民主党委員2名の意見を入れ、幾つもの業務運営上の制約を付したものの、これらは2年ないし3年で消滅する時限的な制約に過ぎない)。
 民主党委員を説得し、反対票なく難しい規制案件を採決に導いてきたため、Martin委員長の評価は、議会筋、官界、業界においてますます高まっている。Martin氏は、まだ4年の任期の2年目に入ろうとするところであるが、すでに、任期満了後には政界入りを目指すのではないかとの下馬評が出ているほどである(注3)。
 米国の電気通信市場は、旧来の回線交換ネットワークの使用、RHCと長距離電話会社の競争から、回線交換ネットワークからIPネットワークの切替え、RHCとケーブルテレビ会社との競争へなどなどの環境の激変が起こっており、このため大きな規制の転換を迫られている。従って2006年も、現在、調査が進行中であるVoIPの規制、RHCに対し、ケーブルテレビ会社と同等のビデオ提供免許付与に必要な規制、ユニバーサル・サービスの規制の改正等、もろもろの規制実施の仕事が数多く残されており、Martin委員長の手腕に期待する点が大きい。
 規制課題のうち最大の案件の一つは、Martin委員長自身も難問であることを認めているユニバーサル・サービスについての新たな規制である。2005年12月9日、Martin委員長は、この難問に関する調査告示を発出した(注4)。
 本文では、調査告示の骨子、調査告示から読み取れるFCC委員の意見の不一致、圧力団体の動き等について述べる。

ユニバーサル・サービスに関する調査告示の骨子

 ユニバーサル・サービスに関するFCC調査告示の内容は多様であるが、類別すると表1に示すとおり、3つの件名について、それぞれ利害関係者の意見を求める内容のものになっている(注4)。

表 調査告示に盛り込まれた3案件と求められている意見のあらまし
件名求められている利害関係者の意見
1996年通信法254条についての解釈条文中のユニバーサル・サービス基金を担保する「満足な(sufficient)」、及び、基金を受け提供されるサービス料金の水準に関しての「理にかなった同程度(reasonably comparable)」をどのように定義すべきかについての意見
Puerto Rico電話会社に対する特別支援Puerto Rico電話会社は、低所得者が多いことにより経営難に陥っている実態にかんがみ、特別のユニバーサル・サービス基金の配付を提案する。この提案についての意見。
非ルーラル・高コスト地域におけるユニバーサル・サービス基金の徴収方法(1) 電話料に対する付加税方式によるべきか。
(2) 現行の徴収方式(採算の取れない地域にサービスを提供する電話会社に対し、他の電話会社が補填する方式)によるべきか。
(3) その他の徴収方法によるべきか

 上表のうち、2つの項目(調査告示意見がそのまま採択されることがほぼ確実と見られるPuerto Rico電話会社に関する案件を除き)について、さらに簡潔な説明を加える。

 最初の項目は、これまでFCCがQwest Communicationsからの提訴に関連し、控訴審において2回にわたり、規則の修正を求められ(第2回目の控訴は2005年初頭)、FCCが、控訴審からの差し戻しに対する回答を求められているものである。控訴審は、FCCがユニバーサル基金配分に当っての基本的な要素 - すなわち基金需要の定量的確定、ユニバーサル・サービスを受けない地域と対比しての妥当な料金数値の算出 - について、明確な理論を打ち出していないことを強く批判しており、FCCは、その対応を迫られている様が伺える。この箇所に関する調査告示では、抜本的なユニバーサル・サービスの定義、枠組み改正(たとえば、インターネットをユニバーサル・サービスに組み込むか否か)等についても、意見を求めてはいる。しかし、その求め方は形式的なものにとどまり、仮に意見が提出されても、本気に取り上げようとする迫力に欠けている。
 最後の3番目の項目こそが、今回の調査告示の根幹をなすものである。低所得、高コスト地域におけるユニバーサル・サービス基金の徴収は、現在、収支償わない地域に対しサービスを提供しており、基金を必要とする電話会社からの所要補額の申請に基づき、これを集計した需要額をベースにして、その需要額を一般の固定・携帯電話会社から徴収し、これを必要とする電話会社に配布するというキャリア間の資金の移転によっている。調査告示は、これを電話会社に対する付加料金付加の方法(筆者注:米国ではこの方法は珍しいことではない。たとえば、学校、図書館に対するブロードバンド振興のためのユニバーサル・サービス基金の徴収は、電話料金に対する付加税のやり方で行われている)に変更したいというMartin委員長の意向を示すものである。

調査告示から読み取れる民主党FCC委員2名の消極的な態度、難航が予想される裁定

 今回の調査告示は歯切れが悪く、真になにを意図しているのかが必ずしも明確ではない。ことほどさように、ユニバーサル・サービス改正の提案は、利害関係者の利害が絡むため、調査開始に当たり、明確なガイドラインが示し難いのであろう。
 調査告示では、Martin委員長の声明が見られない。声明(ありきたりの内容である)を発出したのは、共和党委員のAbernathy氏だけであり、氏がMartin委員長の意向の一部を代行したと見られる。民主党のCopps、Adelstein両氏が声明発表をしなかったのは、実のところこの調査告示の内容に賛成はできないが、さればといって反対意見声明も憚られるからノーコメントという事態になったものと思われる。ともかく、調査告示発出に当たり、委員長の声明がないというのは異例のことである。
 この調査告示では、FCCがユニバーサル・サービスを今後どのように改正すべきかについての基本的なポリシーが欠けている。Martin委員長は実務家らしく、当面、解決すべきと考えられる3点にしぼって告示を出したのであるが、果たしてユニバーサル・サービス改正の案件は、調査告示の案件を解決すれば終了するものなのか、FCCは明示していない。民主党の2名の委員(特に、ユーザー保護の見地を重視し、並々ならぬ論客であるCopps委員)が、まずこの点について不満を抱いているが、Martin委員長に義理立てして、特に反対声明を出さなかったのであろう。
 非ルーラル地域、高コスト地域におけるユニバーサル基金の徴収方法に関しては、Martin委員長は、2005年10月末、USTA(United States telecommunications Associations、米国の固定電話会社が結成する業界団体)の2005年次総会において講演を行った。この講演のなかで同氏は、ユニバーサル・サービスの課金を電話加入者の番号に対し月々の定額徴収金を賦課する方式を示唆した(注5)。氏の説明からは明確でないが、多分、固定、携帯の竜話加入者に対し、使用度の多寡にかかわらず、均一の賦課額を課するということなのであろう。この方式を取るときは、USFの徴収は、その性格上エンドユーザーに対する人頭税的性格のものになり、低所得者に対する負担が重い。次項で説明するとおり、この講演は大きな波紋を呼び、消費者団体、ルーラル地域の長規模の電気通信会社等から強い反対が起こっている。
 今回のユニバーサル・サービス基金徴収に関する告示では、電話番号に課金する表現は消えており、Rate-based(電話料金をベースにした)との表現が使われている。この表現であれば、利用者は従量制料金の一定比率に対する賦課方式も含まれ選択幅は広がるだろう。
 いずれにせよ、USFの徴収方法は利害が対立し、金銭負担がからみ、コンセンサスを得るのがきわめて難しい問題ではある。それだけにMartin委員長は、必ずしも2006年内に採決を下すといった終期を予定していないようである。事実、この調査を無難に完結するためには、今後相当の期間にわたる労苦を必要とするであろう。

FCCの決定に注意深い視線を注ぐ消費者、事業者団体

 十幾つもの米国の圧力団体(消費者団体のほか、老齢者・退職者・身障者等の利益を擁護する団体を含む)を会員とする横断的な組織、keep USF Fair(KUSFF)は、USFを均一的な付加的課税にしようとするMartin氏のやりかたに反発し、反対運動を展開している(注6)。
 もっともKUSFFは最近、次に列挙するように、具体的なUSF徴収方法の改革案を提出した。この案から見ると、この組織の立場はかなり柔軟である。

  • VOIP提供業者をも含め、USF拠出業者の範囲を拡大する。
  • USFの拠出限度額は、拠出業者収入の12%から15%とする。
  • 拠出業者は、限度額までの範囲で、この拠出負担をエンドユーザーから徴収することができる。

 KUSFFは、一見、消費者団体であると称しながら、その実、RHCの隠れ利益代弁団体であるとの怪メールも一部で出回っているという。
 このほか米国には、ルーラル電話会社、小電話会社の利益を代弁し、同じく低廉な電話料金の維持(現行USF制度を保持して)を意図する横断的組織、"Keep America Connected" があり、同様にFCCによるUSF徴収方式の改定(この組織からすると改悪)を警戒している(注7)。
 この組織の姿勢は、KUSFFに比しより強硬であり、しかも、単にUSF配付額の維持のみでなく、ルーラル地域におけるブロードバンド普及のための補助金獲得も目指している。


(注1)2005年4月1日付けDRIテレコムウォッチャー「Kelvin Martin氏、FCC委員長に就任」。
(注2)以下3件のDRIテレコムウオッチャーを参照されたい。
2004年11月1日付けDRIテレコムウォッチャー「FCC、異業種間(Inter Modal)競争によるブロードバンド推進へ」
2005年8月15日付けDRIテレコムウォッチャー「FCC、設備所有電話会社の競争会社へのDSLシェアリング義務を解除」
2005年11月1日付けDRIテレコムウォッチャー「FCC、激論の末メガマージャーを承認」
(注3)2005.12.27付けThe Seattle Times, "FCC Chairman a skillful negotiator"
(注4)2005.12.9付けFCC調査告示、"In the Matter of Federal - State Joint Board on Universal Service High-Cost Universal Service Support Notice of proposed Rule making"
(注5)FCCの2005.10.26付けプレスレリース、"Remarks of FCC Chairman Kelvin J.Martin TELECOM 05 Conference United States Telecom Association Las Vegas,NY"
(注6)2005.12.6付けのkeep USF Fairのプレスレリース、"Half a Million Emails and Letters Sent by Consumers oppositions backed by FCC Chairman"
(注7)2005.11.2付けhttp:www.findarticles.com, "Industry ,ConsumerUSF Advocates Beef Up Support"

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