最近、海外で、自治体主導のワイヤレスブロードバンド導入が急速に広がりつつある。自治体がイニシアチブをとって、市全域など広範囲をワイヤレスブロードバンドネットワークで覆うのだ。鍵となる技術は、メッシュ型無線LAN(Wi-Fi)、そしてWiMAXである。
今、なぜ自治体なのか。日本では自治体ワイヤレスブロードバンドが広がる可能性はあるのか。このテーマに関して、以下の記事・報告書を執筆したので、その概要を紹介する。
- 「ワイヤレスによる地域ネットワーク創り」 地域情報化推進冊子「Future」Vol.2, pp.114-165
(2006年2月、(財)マルチメディア振興センター刊行)    (→ ダウンロード)
- 「地域情報化に向けたワイヤレスブロードバンド技術の利用動向調査報告書」
(2006年3月、(財)マルチメディア振興センター刊行)    (→ ダウンロード)
(いずれも、(財)マルチメディア振興センターのウェブサイトhttp://www.fmmc.or.jp/ よりダウンロードできる。)
ブロードバンド・ゼロ地域の解消が国家戦略に
2004年末時点で、ブロードバンドサービスが提供されていない市町村は207団体、ブロードバンドサービスを利用できない世帯は345万世帯あった(注1)。2006年1月19日に発表された「IT新改革戦略」では、これらの地域・世帯でも、2010年までにブロードバンドを利用可能とすることが、目標に掲げられた(注2)。この目標を達成するための手段のひとつがワイヤレスブロードバンドである。
「IT新改革戦略」では、ワイヤレスブロードバンド(ブロードバンド無線アクセス)は、有線のブロードバンド技術である光ファイバ、ADSL、ケーブルを補完し、デジタル・ディバイドを解消するための重要な技術のひとつとして位置づけられている。
しかしながら、ワイヤレスブロードバンドは、単にデジタル・ディバイド解消の一手段に留まらず、地域情報化のインフラとして、様々な活用が可能な技術である。
ワイヤレスブロードバンドを地域情報化に活用する
米国では、過疎地から大都市まで、数百の自治体が、ワイヤレスブロードバンドネットワークを構築、あるいは構築を検討している。フィラデルフィアやサンフランシスコ、チャスカ、コーパスクリスティ、ニューオリンズなどの事例は有名であるが、それ以外にも図1に示すように、多くの自治体がワイヤレスブロードバンドの導入を進めている。
緑 | : | ワイヤレスブロードバンドサービスを提供する自治体 |
黄色 | : | FTTHサービスを提供する自治体 |
グレー | : | その他の技術/組み合わせでブロードバンドサービスを提供する自治体 |
| | (いずれも計画中を含む) |
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自治体がワイヤレスブロードバンドを導入する理由は、地理的なデジタル・ディバイドの解消だけではない。自治体ワイヤレスブロードバンドは、以下のような用途にも活用されている。
- 低所得者への安価なブロードバンド提供
- 経済開発
- 企業誘致
- 警察業務の改善・効率化
- 消防業務の改善・効率化
- 電気・ガス・水道等公共サービスの検針自動化
- 検査査察業務の改善・効率化
- 観光振興
- ビデオ監視・追尾による安全・安心確保
- その他、各種自治体業務の改善・効率化
最近のトレンドとなっているのが、ネットワークインフラの多目的利用である。自治体がワイヤレスブロードバンドネットワークを構築し、警察・消防などが帯域を優先的に使用し、余った帯域を住民や観光客に廉価あるいは無料で提供するような利用法である。
メッシュ型無線LANは急速に普及している。WiMAXは普及するか?
メッシュ型無線LAN(Wi-Fi)は、自治体ワイヤレスブロードバンドに広く活用されている。最大手機器ベンダーのトロポス・ネットワークスだけでも、2005年末までに57の自治体ワイヤレスブロードバンドネットワークを稼動させている(注3)。同社の2005年7月7日のプレスリリースによれば、12ヶ月のうちに米国だけで少なくとも220の自治体がワイヤレスブロードバンドを導入する見込みだという(注4)。
メッシュ型無線LANが自治体の支持を得ている理由は、コスト面のメリットが大きいからである。ネットワーク構築・運用コストが低く、既存の端末を利用可能で端末側に初期投資が不要であり、周波数免許不要で規制コストがかからない。これらの点は、WiMAXなど他のワイヤレスブロードバンド技術と比較して大きなメリットである。
このメッシュ型無線LANのバックホール回線(基地局とバックボーンネットワークを結ぶ回線)に、WiMAXを利用することができる。米国ポートランド市の提案依頼書(RFP)(注5) では、無線LANとWiMAXの両ネットワークを構築することが要求され、無線LANのバックホール回線としてWiMAXを利用することが想定されている。今後、このような形で、自治体ワイヤレスブロードバンドで、無線LANとWiMAXの併用が広がる可能性がある。
WiMAX普及シナリオのひとつである。
諸外国での自治体ワイヤレスブロードバンド導入事例については、前述の記事・報告書及び、データリソース刊行の「世界の自治体ワイヤレスブロードバンドの動向・展望・課題(仮題)」(近日刊)に詳しく紹介している。
次回は、自治体ワイヤレスブロードバンドのビジネスモデル、制度上の問題などを解説する。
データリソースは、「メッシュネットワーク」についての情報を提供する調査レポートをお取り扱いしています。
無線メッシュネットワーキング:都市およびキャンパス規模の技術と導入戦略
Wireless Mesh Networking: Technologies and Deployment Strategies for Metropolitan and Campus Networks (米国 ABIリサーチ)
地方自治体における無線技術とアプリケーションのビジネスチャンスと戦略
Mobile Local Government-Opportunities & Strategies for Wireless Technologies & Applications
(英国 ジュニパーリサーチ社)
メトロゾーン:市内をつなぐ無線ネットワークの戦略、技術、ケーススタディ
Metrozones: Strategies, technologies and case studies for city-wide wireless networks
(英国 ARCチャート社)
メッシュネットワーク:アドホックから固定インフラへ
Mesh Networks:Moving From Ad Hoc to Mesh Networks (米国 インスタット社)