昨年来、Webブラウザに操作性の高いプログラムを統合させ、クライアント/サーバ間との連携動作により、双方向的なウェブサイトを開発する手法として、技術業界のキーワードになってきたAJAX(エイジャックス)。Asynchronous JavaScript + XMLの略称で呼ばれるAJAXは、90年代に発案され、以来、JavaScriptをはじめXML、CSS、XHTML、XSLT等の各種技術に基いた開発手法として標準化が進められて来た。通常、同期処理を基本原理とするWebの技術では、HTTPのリクエストを送信し、レスポンスを待ってからページが表示される。つまり、利用者にとっては、操作ごとあるいは異なるページへの移動ごとに待たされるというのが、当然のこととして捉えられてきた。これに対し、AJAXでは、ユーザが次に実行する操作やリクエストに応じた処理を、サーバだけに依存するのではなく、クライアントにも先読みさせて、自動的に行うことができる。その結果、利用者側ではリクエスト−レスポンスにおける時間的ギャップをあまり感じなくなる。
Google Map(マウスを使って画面上で地図画面を移動可能) は、AJAX技術を上手く活用した最近の例であり、言わば、同技術の広告塔にもなったサイトである。同サイトでの利用をきっかけに、現在のデスクトップアプリケーションとWebアプリケーションの境目が薄くなり始めている。マルチメディア・ツールを利用した双方向的なウェブページの構築手法は、これまで同様、高度なタスクに歓迎されるものだが、AJAXは、既存のウェブサイトに双方向性を追加するなどもっとシンプルなタスクの実現に適している。
このAJAXを利用してWebアプリケーションの開発に取組む新興企業は、ここ2年くらいの間で多数、見られるようになった。勿論、こうした新興企業が収束すれば、デスクトップアプリケーションの主導者Microsoftを征する事も可能か、という声も聞かれるが、長年に渡り9割を超える市場占有率を確保してきた同社に対峙し、必ずしもその代替え技術になるとは限らない。当然、Microsoftの顧客が今後、AJAXで開発した他社製品へと鞍替えする可能性はあるが、それを見据えて、MicrosoftもWebアプリケーションサービスに参入している。Live.comの通称で知られるプロジェクトでは、そのサービスの多くにAJAXが利用されている。Hotmailの次期バージョン(Windows Live Mail)もその一例である。
AJAXを基盤とするアプリケーションに関しては、以下のようなメリットが考慮されている: 1.ウェブ技術の活用により、企業ネットワークの外部からホスティングすることが可能。 2.Windowsに限定することなく、多様なOS上で稼働できる。 3.利用可能なプラットフォームの選択肢が広いことから、異種の機器に対応。 4.通常、データのバックアップ機能やデータ更新の送信機能が搭載されているため、ビジネスアプリケーションの管理を簡素化する等である。
このような利点を追求し、新興企業ではMicrosoft Officeのウェブホスティング版とも呼ばれる各種製品を発表している。その領域は、生産性向上を目指したオンラインアプリケーションに始まり、最近ではコミュニケーションの円滑化を目的としたものにも拡大してきた。例えば、Upstartleが開発した「Writely」と呼ばれるウェブベースのワープロ機能では、ユーザ同士でウェブページのコラボレーション、公開、共有が可能になる(同社は、今年3月にGoogleが買収)。この他、SilverOfficeが開発中の「gOffice」では、同社サイトで文書の作成・印刷が実行できる。さらに、同分野の草分け的存在であるZimbra(本社:カリフォルニア州サンマテオ市)でも、オープンソースのWeb型コラボレーションソフト「Zimbra Collaboration Suite」を提供。電子メールにカレンダーやアドレス管理機能を統合させ、Outlookに類似した製品として注目されている。
新興企業が開発する製品に関しては、近い将来、企業での幅広い適用に期待が寄せられている。勿論、これにはAJAX技術がビジネスとして通用できるレベルに達することが前提条件であり、その市場も土台固めが必要だが、そのいずれもが整えば、自社サイトの双方向性を強化する他、XMLで記述したデータの転送機能を活用し、複数の情報源からデータ収集を行い、マッシュアップサイトを開発する事も可能になるであろう。
Rising Company - Jajah Inc.社
Jajah Inc.,(ジャジャー)
■設立年:2005年1月
■ステータス:未公開企業
■所在地:2513 Charleston Road, Suite 102 Mountain View, CA 94043
■連絡先:http://www.jajah.com/content/supportform.aspx
■URL: www.jajah.com
■社員数:18名(2006年4月現在)
■主な経営陣: Daniel Mattes氏およびRoman Scharf氏(いずれも共同設立者)。現在、取締役会には、会長を務めるSequoia Capital PartnerのHaim Sadger氏をはじめGlobespan Capital PartnersのVenky Ganesan氏(現Managing Director)、ICQ Inc.,の共同設立者Yair Goldfinger氏(America Online Inc.,の傘下にあるICQ在職中は、CTOとしてインスタントメッセ−ジングの開発を統括。Dotomi Inc.,の現CTO)が在籍している。
■最近の資金調達状況: 2005年10月、シリーズAにてSequoia Capital Partnerより約1,000万ドルを調達したが、具体的な金額については、公表されていない。続く2006年4月に入り、Globespan Capital Partnersの牽引でシリーズBの資金調達も完了させている(この調達ラウンドについても、金額の詳細は未公表)。特にシリーズBでの調達資金は、雇用者の増員、米国内での事業拡張に加え、アジア市場への進出に向けても運用を予定しており、年末までに有料ユーザ100万人の確保を目指す。
■事業概要およびサービスの特長: 電話の種類を問わず、固定/携帯/IP電話のいずれにも対応した格安通話サービスを提供。利用者は、同社のサイト上で発信側と受信側の電話番号を入力し、<Call>ボタンを押すと、Jajahが両方の電話に呼び出し音を発するという非常にシンプルな仕組みを採用。登録者間での通話は、原則として無料である。米国では、類似したサービスとしてSkypeが挙げられるが、その主な違いは、PCとヘッドフォンを利用せずに各自の所有する電話機で国内/国際通話が可能な点にある。また、ソフトウエアをダウンロードする必要もない。現在のところ、海外約50カ国との通話に対応しており、米国内から海外国へ発信する場合の通話料金は、一分間あたり米1.6〜1.9セントと割安である。また、同サービスを利用する国外の登録者一人当たりに対する平均売上収益は、8ドル程度とされる。同社の説明によると、サービス提供の開始(2006年2月)後、最初の一週間目で2万人のユーザが登録。サイト訪問者全体の59%が、有料ユーザになっている。Jajah起業の地は、オーストリアのウィーンであり、本社をシリコンバレーに移転した後もルクセンブルグに欧州支社、開発センターをイスラエルに構えている。
■競合と将来性: 同社では、eStara Inc.,を最も強力な競争相手として捉えている。この企業では、大規模のエンタープライズ、メディア企業、オンラインディレクトリ、検索エンジンを対象に「ビジネス−顧客間」に特化したVoIPアプリケーションを開発。Jajahの将来性に関して着眼すべき点は、米国内でも有数の投資機関であるSequoiaが、初めて投資を行ったVoIP企業であること、過去の例で言うと欧州企業への投資は稀であることが指摘される。このようにSequoiaによる同社への特別な関心は、今後、通話料金のさらなる低価格化を示唆すると同時に、VoIP企業に対する投資の活性化にも繋がる可能性がある。
(c) 2006 KANABO Consulting