音楽業界では、異なる楽曲を「マッシュアップ(Mashup)」、いわゆる混ぜ合わせることで新しい音楽を創生する手法が使われてきたが、近年では、ウェブの世界でもこの概念が浸透している。このWeb2.0を表現するための手段として注目を集めているマッシュアップとは、複数の情報源を利用して、新しいウェブサービスを構築するトレンドである。Google、Amazon、Yahooを代表とする大手ウェブサービス企業では、自社開発のデータベース等を他のデベロッパでも活用できるようAPIを公開している。これらのAPIに基づいて誕生したマッシュアップの種類は多岐に渡るが、地図情報をベースにしたウェブサービスは特に人気が高い。その一例を挙げると、ChicagoCrime(www.chicagocrime.com)というサイトでは、犯罪事件に関する警察情報をGoogle Mapの路上マップと合成させ、シカゴ市内のどの地域や路上でどのような犯罪がいつ発生したのかを表示する。今年5月に運営を開始してから僅か最初の2週間で120万ページビューを記録した人気サイトである。
マッシュアップに関するリサーチ結果を紹介したMashup Feedのサイト(http://www.mashupfeed.com/)によると、8月の時点で掲載されている255件のAPIに基づくマッシュアップは916件。一日平均で2.7件強のサイトが創造されている。APIに関してはGoogle Maps、Amazon、Yahoo Maps、Flickr、Microsoft’s VirtualEarth、Deliciouse、eBay、MSN Messengerの順番で利用頻度が高い。この他、利用価値のあるデータフィードとしては、天気、交通、イベント、テレビ番組の情報、写真等が挙げられる。
マッシュアップの特徴は、ユーザ側のPC上でのみフィードの合成を実行するため、データを白紙の状態から作成したり、データやウェブサーバーの使用料を支払う必要がない点にある。PC業界で言うところの3層構造(PCがベースプラットフォーム、Windowsや他のOSがAPIを提供、APIを利用する開発者がこれにアプリケーションを構築)をマッシュアップに見立てると、インターネットをプラットフォームとし、GoogleやAmazon等のウェブサービス企業がAPIを提供。そして、マッシュアップ自体がアプリケーションとなる。自身のアイデアをPCアプリケーションに転換させるにはかなり高度なプログラミング技能が要求されるものだが、マッシュアップの場合、創造力さえ秀でていれば、通常レベルの技能で十分、構築することができる。また、APIの利用に際しては許可を必要としないため、開発資源を集中させながら短期間、低コストで新サービスを開始できる点にもメリットがある。こうした利点により、地図情報主体型のマッシュアップサービスが趣味的な領域を越えて、今後、企業向けのアプリケーションから娯楽(テレビ、映画、ビデオゲーム等)、移動体通信の分野にもさらに広がり、ビジネスチャンスを生みだしていく可能性はある。
Rising Company - Jajah Inc.社
Jajah Inc.,(ジャジャー)
■設立年:2005年1月
■ステータス:未公開企業
■所在地:2513 Charleston Road, Suite 102 Mountain View, CA 94043
■連絡先:http://www.jajah.com/content/supportform.aspx
■URL: www.jajah.com
■社員数:18名(2006年4月現在)
■主な経営陣: Daniel Mattes氏およびRoman Scharf氏(いずれも共同設立者)。現在、取締役会には、会長を務めるSequoia Capital PartnerのHaim Sadger氏をはじめGlobespan Capital PartnersのVenky Ganesan氏(現Managing Director)、ICQ Inc.,の共同設立者Yair Goldfinger氏(America Online Inc.,の傘下にあるICQ在職中は、CTOとしてインスタントメッセ−ジングの開発を統括。Dotomi Inc.,の現CTO)が在籍している。
■最近の資金調達状況: 2005年10月、シリーズAにてSequoia Capital Partnerより約1,000万ドルを調達したが、具体的な金額については、公表されていない。続く2006年4月に入り、Globespan Capital Partnersの牽引でシリーズBの資金調達も完了させている(この調達ラウンドについても、金額の詳細は未公表)。特にシリーズBでの調達資金は、雇用者の増員、米国内での事業拡張に加え、アジア市場への進出に向けても運用を予定しており、年末までに有料ユーザ100万人の確保を目指す。
■事業概要およびサービスの特長: 電話の種類を問わず、固定/携帯/IP電話のいずれにも対応した格安通話サービスを提供。利用者は、同社のサイト上で発信側と受信側の電話番号を入力し、<Call>ボタンを押すと、Jajahが両方の電話に呼び出し音を発するという非常にシンプルな仕組みを採用。登録者間での通話は、原則として無料である。米国では、類似したサービスとしてSkypeが挙げられるが、その主な違いは、PCとヘッドフォンを利用せずに各自の所有する電話機で国内/国際通話が可能な点にある。また、ソフトウエアをダウンロードする必要もない。現在のところ、海外約50カ国との通話に対応しており、米国内から海外国へ発信する場合の通話料金は、一分間あたり米1.6〜1.9セントと割安である。また、同サービスを利用する国外の登録者一人当たりに対する平均売上収益は、8ドル程度とされる。同社の説明によると、サービス提供の開始(2006年2月)後、最初の一週間目で2万人のユーザが登録。サイト訪問者全体の59%が、有料ユーザになっている。Jajah起業の地は、オーストリアのウィーンであり、本社をシリコンバレーに移転した後もルクセンブルグに欧州支社、開発センターをイスラエルに構えている。
■競合と将来性: 同社では、eStara Inc.,を最も強力な競争相手として捉えている。この企業では、大規模のエンタープライズ、メディア企業、オンラインディレクトリ、検索エンジンを対象に「ビジネス−顧客間」に特化したVoIPアプリケーションを開発。Jajahの将来性に関して着眼すべき点は、米国内でも有数の投資機関であるSequoiaが、初めて投資を行ったVoIP企業であること、過去の例で言うと欧州企業への投資は稀であることが指摘される。このようにSequoiaによる同社への特別な関心は、今後、通話料金のさらなる低価格化を示唆すると同時に、VoIP企業に対する投資の活性化にも繋がる可能性がある。
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