BPL市場が確立され、収益事業として成立させていく上で、先ず技術面での課題解決は必須である。特に、無線電波との干渉問題(航空・船舶通信への影響等)への懸念は強い。連邦政府では、こうした技術面でのハードルを認識すると同時に、BPL技術の商用化・普及に前向きな姿勢を示している。その一環として昨年、FCCでは、特定の周波数におけるBPLシステムの運用を制限し、アマチュア無線通信者から干渉の報告を受けた場合は、BPL事業者側で伝送信号を調整するよう新しい技術規準を設けた。この他、非営利団体によるBPL技術の擁護活動も活発で、Home Plug Powerline Alliance(www.homeplug.org :電力線対応のネットワーキング製品およびサービスに対する共通仕様の確立が目的。参加企業は約50社)をはじめUnited Power Line Council(http://www.uplc.utc.org/ :BPLサービスの開拓に向けた電力会社と技術系企業の提携活動を支援)、Power Line Communications Association(http://www.plca.net/ :電力会社を主体に構成される電力線通信の普及団体)等が設立されている。
BPL技術に関する規制や標準化が進められる中、メーカをはじめサービス提供業者、電力会社の間で様々な提携関係が誕生してきている:
−American Electric Power社とCisco Systems社の合弁企業Amperion社では、中圧電力線に対応した通信機器を提供。
−Ambient社、Consolidated Edison社、Earthlink社では、ニューヨーク市に新築された高級マンション兼商用ビルTrump Placeの213世帯を対象にBPLサービスを提供していく。
−Amperion社、Internet America社、HILCO Electric社の共同事業では、テキサス州中北部を対象にWi-Fiおよび電力線によるインターネット接続サービスを展開する。
−Cynergy社、Current Communications Group社間での合弁事業では、シンシナティ市全域と北部ケンタッキー州/インディアナ州の一部地域を対象とした、広範囲なBPLサービス提供に取り組んでいる。
BPL技術の主な特長は、対称型通信(送受信の回線速度が同等)、ケーブルやDSLサービスの非提供地域でも利用できる点にある。現時点では、これら既存技術に対する「第3の選択肢」との見方が主流だが、今後、干渉問題など技術面での課題を解決し、最大速度100Mbpsを実現できれば、敷設作業の簡易さも手伝い、費用の観点からも他のブロードバンド技術を凌ぐ可能性はある。本来、BPL技術は、郊外や地方など地理的条件からブロードバンドサービスの提供が困難な住宅での適用を目標としたが、採算性が合わない事や通信技術を専門としない電力会社側が、干渉問題やセキュリティリスクに慎重な姿勢を保った事などで足踏み状態にあった。従って、確実に収益を生み出すには、サービスの対象地域を再検討する必要がある。「DSLやケーブルの届かない場所=住宅が拡散し、事業活動が不活発な遠隔地」ではなく、DSLとケーブルの提供地域に焦点を当て、直接的な競争に出る戦略である。スタートからマンハッタンのアッパー・ウエストサイド地区で展開したAmbient社、Consolidated Edison社、Earthlink社の提携事業は、正にその一例である。この他、先に述べたCinergy社、Current Communications Group社間の事業も、広範囲で展開される点に重要な意味がある。この事業でBPL技術が住宅および法人向けに広域導入され、実際の収益を出す事ができれば、もっと多くの企業や大小の電力会社、投資家らが介在する市場が確立するであろう。
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