DRI テレコムウォッチャー/「IT・社会進化論」

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  マイクロソフトZuneのインパクトを考える  (IT アナリスト 新井 研氏)
2006年9月1日号


 マイクロソフトは携帯型マルチメディアプレーヤーZuneを年内に発売しようとしている。携帯型マルチメディアプレーヤーではアップルのiPodが全世界の7割以上のシェアを占めており、もはやアップルの一人勝ちといっても差し支えないだろう。ZuneはiPodキラーといわれており、ビデオ機能を強化している。Zuneの投入で携帯型プレーヤーの市場はますます活性化することが期待されるが、この活性化が与えるインパクトについて考えてみたい。

■ Podキャスティングの効果
 iPodについては過去に何度か本欄に寄稿しているが、iPodの成長と切り離せないのがポッドキャスティングであろう。ティム・オライリーはiPodをWeb2.0を促進する重要なデバイスと位置づけている、ポッドキャスティングの音声コンテンツはユーザー参加型であり、だれもが情報の発信者になれる点で音声コンテンツのブログ化に貢献した。
 また二次効果として、ポッドキャスティングはラジオの復権をもたらした。ラジオ番組をポッドキャスティング・コンテンツとしてWeb上にアップすることで、聴取者の拡大に繋がっている。深夜のラジオ番組も次の日の朝に電波の届かない地下鉄の中などでも聞けるようになり、ラジオを時間と電波の制約から解放した。(CMはカットされているのではビジネスモデルの変更に工夫しなければならないが)

■ iPodキラー
 こうしてiPodは世界で75%のシェアを持つようになった。しかしそれは携帯プレーヤーの主戦場を音声コンテンツとした場合である。昨年10月に発売された第5世代iPodからビデオ対応がなされており、携帯プレーヤーの主戦場はビデオコンテンツをめぐる争いになってきた。そこで、マイクロソフトのZuneの投入だ。ビデオ対応の最新型iPodは2.5インチディスプレイだが、後発のZuneは3.5インチで一回り大きく、ビデオがみやすくなっている。無線LANを搭載、VOIP機能が使えるため、IPフォンにもなるといわれている。つまり無線LAN環境下ではビデオ携帯電話になり、iPodよりもかなりPCに近い。
 いずれにしても、Zuneの投入はビデオコンテンツ時代の携帯プレーヤー戦争として戦いはリスタートをきることになる。

■ YouTubeとの親和性
 一方ビデオコンテンツの世界でも大きな変化が起こっている。いわずと知れた動画投稿サイトのYouTubeだ。一日1億ダウンロードといわれる超お化けサイトは、ビデオ対応の携帯プレーヤーの普及でさらに視聴者数を伸ばすことは明らかである。iPodはPCからUSBケーブルでビデオを読み込むが、iPodは無線LANで読み込むことになるであろう。ブラウザを内蔵すればYouTubeからPCを介さずに直接ダウンロードできるかもしれない。そのあたりの詳細は現段階では不明だが、仮にその機能がなかったとしても接続は容易になる。つまり、Zuneはかなりビデオに特化した色彩を色濃くしており、いうなれば“携帯型YouTubeモニタ”といえ、このあたりがiPodキラーの重要ポイントと見てよいだろう。

 今YouTubeのような動画サイトの開設ばやりである。フジテレビのWacthミー、サイバーエージェントのアメーバビジョンなど開設ブームだ。USENの動画サイトGYAOも今年になって会員1000万人を突破したこともあり、今年は動画元年といっても差し支えないだろう。このようにビデオコンテンツの提供側も盛り上がっており、そこにZuneなどとの相乗効果は計り知れぬものがあるだろう。

■ ビデオのブログ化
 もっとも考えられるシナリオとしては、ポッドキャスティングで起きたブログ化だ。さまざまな玉石混交の映像サイトが登場し、テレビやVHSビデオ、DVDに慣れ親しんだわれわれの映像文化を一変させるだろう。映像を提供するのは専門的技術を持ったテレビ局や映画会社ではなくネットにアクセスするだれでも良くなる。膨大なコンテンツが生成され、膨大な端末が受け皿となる。ただし、当面はコンテンツは玉石混交で淘汰が進むであろうが、ブログの世界にも見られたようにロングテール現象も考えられ、マイナーだがそれなりに価値が見出されるコンテンツも数多く登場するであろう。Zuneの登場はビデオ・ブログのスタートの号砲と見るべきであろう。



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