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  100ギガバイト無料ディスクスペースの衝撃  (IT アナリスト 新井 研氏)
2006年7月1日号


 100ギガバイトものディスクペースをただで使わせてくれるサイトがある。そうなると自分のパソコンのハードディスク・サイズは必要最小限でよくなり、ハードディスクのないモバイル機器のあり方にも大きな影響を与えるかもしれない。今回は実用的になってきたストレージ・サービスのインパクトについて考えてみたい。

■オンラインストレージ
 Web上でディスクスペースを提供するサービスをオンラインストレージと呼ぶ。カメラメーカーなどがデジカメ販促のために提供するディスクスペースやポータルサイトが提供するフリーのWebメールなどもディスクスペースを提供する意味ではオンラインストレージに似ているが、真のオンラインストレージは写真やメールといったようにコンテンツが限定されず、自分のハードディスクのように使えるのがポイントだ。
 これまでジャストシステムやNTTコミュニケーションズなども法人ユーザー向けの有料のオンラインストレージサービスを提供してきたが、機密情報が含まれるファイルを外部で保管することへの抵抗が強かったり、無料サービスにしても最大300メガバイトなどと中途半端なサイズで今ひとつインパクトに欠けていた。ところが、最近になって「無料で100ギガバイト」のディスクスペースを提供するサービスが話題になっている。

■無料サービスは見せ掛け。本音は安定した有料サービスへ移行
 会員600万人にオンラインストレージサイトを運営する韓国のIT企業グレテック社が2004年10月に日本法人を設立、2005年3月に1ギガバイトのディスクスペースサービス「Filebank β」を開始、その1年後の2006年3月からは100ギガバイトの本格無料ディスクスペース「Filebank」の提供を開始している。同時に最大100ギガバイトまでのファイル送信やディスクスペースを他人と共有できることから、友人同士でのファイル送信や情報共有ができる。会員数は本原稿執筆時点で30万人超となっている。
 「最大で100ギガバイトのディスクスペースを無料で提供する」というのは事実だが、その心は、こういった強烈なうたい文句で話題性と集客力を高め、ポータルサイトとしての広告料の増加とプラスアルファの有料サービスへ導くことがそのビジネスモデルであり、「無料で100ギガ」にはさまざまな条件がある。
 まず、3日に一度ログインしないとファイルは抹消される。これに不便を感じた人は有料のサービスへと移行する。意地でも無料で使いたい人は最低でも3日に一度ログインするため、そのたびにFilebankサイトの広告を見ることになり、ポータルサイトとしての価値を高めることになる。また、一日にアップロードできるファイル容量が制限されているため、好きな映画などのDVDコンテンツを送信することはできないし(それ以前にコピーしただけで犯罪行為になるが)、当然のことながら著作権、肖像権を侵害したものなどは排除の対象となる。そうなると、個人が無料で使うケースとしては、デジカメの写真や文書の保管共有などになり、実質消費量としてはひとりせいぜい1ギガバイトにもならないのではないか。3日に一度アクセスしないと消されるために、大切なファイルは置けないから、一時的な情報共有としての用途になってしまうのが現実であり、真にこのサービスの価値を感じた人は有料サービスに移行するだろうし、企業間でコラボレーションをしたいユーザーは安定した有料サービスを好むだろう。このようにグレテック社の戦略は、有料サービスへの移行とポータルサイトとしての価値向上の二つだ。

■ユーティリティコンピューティングのインフラの可能性
 うたい文句としての「100ギガ無料」は大いに結構で、実際には有料サービスを使わないと使えない状況もビジネスとして当然である。しかし、このFilebankが問いかけているものは、情報はどこに保管すべきかという議論である。誤解を恐れずに言ってしまえば、ユーザーが必要なものは画面上で見ることができる情報であり、fileではない。ファイルなんぞはどこにあってもかまわない。とすると、今のPCのハードディスクは手元に要らなくなる。最終的にはディスクレスのシンクライアントのような端末になる方向性が、こういったサービスの出現でますます近づいてきたと見るべきであろう。また、PDAのようなモバイル機器も無線LAN経由で大容量ファイルを扱えるようになるため、その用途もその形状もコストも変わることになるかもしれない。また、シンクライアントのメリットとして言われることだが、ハードディスクのトラブルから解放され、ウイルスにおかされる心配もなくなる。
 問題はコストだ。ハードウエアのコモディティ化でハードディスクの単価は信じられないほど安くなっている。「100ギガ無料」とうたわれる背景の一つも実はここにある。つまり、個人もサービスベンダーもコモディティ化の恩恵は同時に受けており、個人でばらばらにハードディスクを管理するよりは、サービスベンダーがプロのスキルでまとめて管理して、それを個人に切り売りするモデルのほうが最終的には競争力を持つことになる。現在はその過渡期であり、「3日に一度アクセス」などの制限があるが、いずれこのようなサービスのほうが、個人個人がハードディスクを管理するよりも便利な時代が来るであろう。紆余曲折はあるだろうが、Filebankが見せてくれているこの方向性はきわめて未来的であり、仮にユーティリティコンピューティングが普及するとなると、きわめて重要なインフラとなるであろう。



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