新型端末W-Zero3は誰が使うのか (IT アナリスト 新井 研氏)
2006年2月1日号
■概要
ウイルコム社が発売した新型の多機能モバイル端末W-Zero3の人気が沸騰している。しかし毎度の事ながら、こういった新しい機器は一部のオタクのおもちゃに終わり、結局はビジネスの局面で本格的に使われることなく、メーカーが息切れして製造中止になってしまう。問題はいかにしてオタクではなく普通のビジネスマンに使わせるかであり、これはテクノロジーの問題ではなく、供給側がユーザーの利用実態や利用嗜好、環境をどれだけ理解しているかにかかっている。これの考え方がない限りITは社会を変えられない。
■人気沸騰のW-Zero3
W-Zero3は国産PDA・Zaurusを提供するシャープが製造し、ウイルコム社が発売を手がける新型モバイル端末である。通信手段として標準的にPHSと無線LANが使え、通話は比較的カバレッジの広いPHSで、データ通信は高速な無線LANでといった使い分けができる。データ処理部はマイクロソフトのWindows Mobileといった汎用OSを搭載、PCで使っているワードやエクセルのOffice系のデータを扱うこともできる。
それ以上に目を引くのはPDAサイズなのに、ふたをスライドさせると標準キーボードが現れる点だ。このあたりが欧米で普及しているブラックベリーを髣髴とさせ、いよいよ日本でもブラックベリーのような端末が普及するのかと思わせる雰囲気を持っている。
発売は昨年12月の暮れであったが、初期ロットは予約で完売、以降は抽選で割り当てするほどの入手難が続いているという。
■W-Zero3に飛びつく人々
数年前シャープがやはりスライド型キーボード搭載の斬新なデザインのZaurus SL-B500を発売したとき、シャープの関係者が言っていた。「新しいZaurusを先駆けて買う人はほとんどがZaurusの買い替えユーザーです。新型ザウルスもこういったZaurusファンの声をよく反映しています」と言っていた。また、PDAユーザーは機能をいかに生かすかと言うユーザーよりは機械そのものを気に入って購入する人が多い、といった意味合いの事も言っていた。PDAを持っている人は必ずと言っていいほど複数台所有している。つまり、PDAは限られた固定ファンに支えられていて、なかなか新規の利用者層に展開しないのが悩みの種だと言う。
今回、W-Zero3が入手困難なほど人気であると聞いて、これが思い浮かんだ。決め付けて言うことは出来ないが、今W-Zero3に飛びついている人は、PDAの既存ユーザーであり、どうも一般のビジネスマンが使っているというよりは、機械好きのオタクが飛びついている可能性が高い。
■W-Zero3は誰が使うのか
話は変わるが、欧米で人気のモバイル端末、リサーチインモーション社のブラックベリーがソフトウエアの著作権侵害の疑いで、米国で利用禁止の危機にさらされていると言う。この詳細はここでは避けるが、一連の騒動で興味深かったのは、この問題について米国連邦政府が、万が一米国の裁判所が米国内でのブラックベリーの利用禁止の処分を出したとしても、公共の利益とかかわる連邦政府の利用については、お目こぼしの特例を認めろとの声明を出したことである。これでわかったのは思いのほか政府内部でもブラックベリーのようなワイヤレスモバイル端末の利用が進んでいることであり、これがないと仕事にならないと言っているのである。
振り返ってわが国のワイヤレスモバイルはどうか。若年層におけるケータイメールは普及しているが、政府や自治体がこれがないと仕事にならないほどモバイルに依存しているとは思えない。要するに、W-zero3が入手困難なほど人気なのは大いに結構なことだが、単にオタクのおもちゃとして終わってはZaurusの二の舞いである。W-zero3は誰が使おうとしているのか。機械好きのオタクではなく普通の一般ビジネスマンにどれだけ普及できるか、日本のブラックベリーになれるか、注目してみたい。
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