CiscoのScientific-Atlanta購入　-　ベンダーのトリプルプレー(ブロードキャスティングレビューシリーズ No.22)

　Scientific-Atlanta（S-A）は1951年のジョージア工科大学の教授達が電気通信テスト機器のメーカーとして設立した。1973年にはケーブルTV事業者の伝送向けの衛星通信でケーブルTV市場に参入し，その後General Instruments（GI）と共にケーブルTV業界におけるトップベンダーとなる。ケーブルTV視聴世帯が70%近い米国においては，ケーブルTV事業者向けの伝送機器は大きな市場である。GIとS-Aは同分野の大手ベンダーであったが，日本における著名度は高くない。Motorola は2000年に170億ドルでGI買収し，ケーブルTV伝送機器市場に参入する。

　現在，MotorolaのケーブルTV関連の製品を扱うConnected Home部門は売上げ220億ドル（Motorola総売上の約7%）であり，S-Aの年商は190億ドルである。米国におけるデジタルSTBの2004年の出荷台数は1950万台で，トップシェアはDirecTVのSTBを製造するThomson/RCAが21.6%，Motorolaが9.5%，S-Aが8.2%であった。ケーブル放送向けの機器はSTBを含めて，MotorolaとS-Aが2分している。大手ケーブルTV事業者のComcastはMotorola主体，Time Warner CableはS-A主体である。

　これまでケーブルTV事業者にはケーブルモデムサービス向けのルーター等を提供してきたCiscoは，690億ドルでS-Aを購入する事を発表した。2000年に年商200億ドルのGIにMotorolaが170億ドル支払ったことから考えるとこれは良い買い物である。CiscoはケーブルTV事業者に対して，その映像を含めた伝送方式を徐々にIP化していくアーキテクチャーへの移行を説いていたが，ケーブルTV産業には新しいCiscoの説得力は低かったのが実情である。CiscoがS-Aを買収し，ケーブルTV産業の大手ベンダーとなることで，その説得力は力を増していく。

　さらに，これまでCiscoの大手ユーザであった通信系の事業者もこぞってビデオサービスの市場に参入を始めており，CiscoがS-Aを購入し，ビデオ市場におけるノーハウを得ることは大きな価値を持つ。S-AはMotorolaより先にIPベースのビデオソルーションに取りかかっており，すでにIPベースのSTBも発表し，またMicrosoftと共同し，MSのIPTVプラットフォームを導入し始めている。

　ケーブルTV事業者（MSO）はビデオ，データ通信では電話事業者をリードし，VoIPにより電話はすでに参入し，そしてMVNO（Mobile Virtual Network Operators）によりモバイル通信にも参加し始めている。これに対して電話事業者は光ファーバーを広め，MSOより高度なビデオ，データ通信サービスを提供する事で競合しようとしている。事業者がトリプルプレー，クアダプルプレーに進んでいる中，ベンダーもこれに対応する必要があり，MotorolaによるGI，CiscoのS-A購入はその動きの一部である。

　この動きの中で見ると，CiscoはS-Aの買収で大きくとそのオポチュニティーを増したことになる。しかし，モバイル通信ではMotorolaは大手であり，トリプルプレーではまだMotorolaの方が上である。

　ベンダーのトリプルプレーの動きは伝送系に限った事ではない。Microsoftは携帯端末向けのOSはすでに持ち，ビデオ（STB）向けのOSの開発を進めており，Comcast，SBC等の大手事業者とすでに契約をしている。コンピュータベンダーのHewlett-PackardはWindows Media Center Editionを搭載したDVR，Digital Entertainment Centerシリーズ，それに液晶，プラズマ，リアプロのTVセットも最近，発表している。もし，今後，事業者がトリプルプレーに進まないと競合できなくなるのであれば，それはベンダーも同じであり，トリプルプレーに対応して行くベンダーが成功を続けることになる。