DRI テレコムウォッチャー  from USA

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NSI Research社の
「The Compass」と 「アメリカのデジタル・ブロードバンド放送産業」(年間情報サービス)
 放送/メディア会社、通信事業者・機器ベンダーを対象としています。


デジタルテレビ放送への移行をめぐるNABとCEAの喧嘩
(ブロードキャスティングレビューシリーズ No.19)
2005年6月20日号

 デジタル放送への移行をめぐり,放送局を代表するNAB(National Broadcasters Association)と民生電子機器メーカーを代表するCEA(Consumer Electronic Association)が喧嘩を始めている。どちらも自分たちはデジタルへの移行には熱心であり,それを遅らせようとしているのは相手であることを主張している。

 FCCはデジタル化への移行を進めるために米国で販売されるテレビにデジタル(ATSC)チューナ搭載を義務付ける規定を作った。36インチ以上のテレビの50%は2004年7月までにATSCチューナを搭載し,2005年7月から100%搭載義務となる。25インチから35インチのTVは2005年7月で50%,2006年7月で100%の搭載義務になる。CEAは今年7月からの25インチから35インチの50%搭載義務を廃止し,代わりに100%搭載の義務を2006年3月に早める事を願い出ていた。

 NABはこれに対してCEAが代表する家電メーカはデジタルTVを売る気が無く,デジタルへの移行の障害になっていると責めた。NABは議員向けの雑誌にフルページの広告を買い,「外国のメーカー達はすぐに陳腐化することを承知でアナログTVをアメリカの消費者に売っている」とのメッセージを掲載した。

 CEAは自分たちの願い出は,デジタルチューナを搭載を遅らせるのが目的ではなく,2段階の搭載義務に問題があると反論した。CEAは87%の世帯はケーブル,あるいはデジタル衛星放送でテレビ放送を受信しており,テレビ内蔵のチューナは使っていないので,高価になるデジタルチューナ内蔵のテレビには関心を示さないため,両方が売られている限り,デジタルは売れなく,在庫になってしまうと言っている。50%のテレビにデジタルチューナ搭載がされていると,消費者がアナログTVを買う分,メーカーは売れないデジタルTVを作り,在庫にしておくしか無いので,50%の段階を設けずに一気に100%への移行すべきだとした。

 これに対してNABは政府のGAO(General Accounting Office,会計検査院)は地上波放送に頼っている世帯は19%と言っており,87%は地上波放送を直接受信していないと言う統計はでたらめで,CEAはうそつきだとさらに責め立てた。(注釈:何%の世帯が地上波放送の直接受信に頼っているかは不明。ケーブルTVのデジタル衛星放送の加入率の合計は90%近くである。しかし,両方のサービスに加入している世帯もあり,実際の合計はこれより低い。さらにデジタル衛星では地上波再送信が行われていない地域もあり,デジタル衛星に加入していても地上波放送は直接受信の世帯もある。FCCは以前17%が地上波に頼っているとの数字を使った事があるが,最近はGAOの19%が使われている。)

 結局,FCCはCEAの願い出を却下し,2005年7月の50%搭載義務は廃止せず,100%搭載義務を2006年3月にする事に決めた。自分たちのロビーが功を奏したことで勢いを付けたのか,NABは6月15日にNABとMSTV(Association for Maximum Service Television)は今年の末までに約75ドルでアナログTVでデジタル放送を見ることを可能にするコンバーターを作れる会社の見積もりを受け付けるとの発表を行った。

 CEAは早速,NABにはデジタルコンバーターを作らせる予算は無く,これは単なるスタンドプレーでしかない,本当にデジタルへの移行を急いでいるなら自分たちのアナログ放送の広告を使い,デジタル放送,HDTVの宣伝をした方がましだとNABの発表を批判した。

 NABとCEAの争いは米国政府に明確なデジタル放送移行への計画が無いことから起きている。メーカーに対してデジタルチューナ搭載を義務付けてもディーラーには何の要求もなく,消費者にも何の特典がなければ,デジタルチューナ内蔵の高価なテレビは嫌われる。FCCは13インチ以上のテレビのすべてにデジタルチューナを搭載する義務を2007年12月31日から2006年7月1日に早めることを検討している。もし,これが決まれば,この問題はさらに大きくなる。デジタルチューナは現在,100ドルから150ドルほど製品の値段を上げている。1500ドルのテレビでは10%程度の値上げだが,それでも消費者は考える。$150で販売されているテレビに搭載すれば,値段は倍になり,売上げが大き落ちることは確実であり,家電メーカは心配をしている。

 心配はNABも同じである。政府は家電メーカーにATSCチューナを義務化する以外,対策を取ってはいない。アナログ放送後にも残るアナログTVをいかにデジタル放送対応にするかの考えは無い。例え,50ドルでコンバーターを売ることが出来ても,全世帯のTV,特に貧しい世帯にはすぐには普及しないであろう。局に取り,視聴世帯の減少,イコール収入の減少である。もし,広告主がアナログ放送の終了で視聴世帯が減少すると信じれば,それ以前からテレビ広告から離れていく。デジタル移行で経費が増え,それが収入の減少につながる可能性があり,NABも神経質になっている。

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