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電話事業者のビデオサービス参入への障壁  (ブロードキャスティングレビューシリーズ No.18)
2005年5月20日号

 1996年の通信法の書き換えで,地域電話事業者がビデオ市場に参入することは規制上可能になった。これにより電話事業者のビデオサービスへの参入が急速に動き出すと思われた。しかし,ILECは新通信法により可能になった長距離事業への参入,それに登場したCLECとの競合に忙しく,ビデオ市場は無視した。その間,MSOはケーブルTVネットワークのアップグレードを行い,通信事業への参入を行ってきた。その結果,ブロードバンドアクセスでは電話事業者を上回るシェアを持ち,さらには電話事業へも参入を果たしている。

 ILECはMSOとの競合のためにもFTTx網に投資を行い,ビデオサービスの提供を行わなければならない。1996年からでは光ファイバー網のコストは大きくと下がり,また,インターネット技術の成長でIPベースのビデオサービスも現実的になっており,ILECのビデオサービスの提供の障壁は大きくと減った。しかし,まだ自治体のフランチャイズ権と言う障壁が残されている。

 ケーブルTV事業者はそのビデオサービスを提供する以前にサービスを提供する自治体から権利(フランチャイズ権)を得る必要がある。フランチャイズ権はネットワークを敷設し,ビデオサービスを提供する権利に対して,売上げの一部を自治体に支払い,また公共チャンネル等のサービスを自治体に提供する。交渉は個々の自治体と行う必要があり,また以前は独占権があったので,この権利自体が財産となった。フランチャイズ権を地元事業者から買い集め,大きくなったのがMSO(Multiple System Operator)達である。1996年通信法により,自治体がケーブルTVサービスの独占権を与えることは禁止されたが,ケーブルTV事業を行うには自治体からフランチャイズ権を得る必要がある事は変わっていない。全米には2000以上の自治体があり,ILECはビデオサービスに参入する際,多数の交渉を行って行かなければならない。これは大変な手間である。

 ILECは彼らが提供するIPTVはインターネットベースのサービスであり,他のインターネットサービスと同様にインターネットアプリケーションを育てるために,既存の規制で縛るべきではなく,統一されたフランチャイズ権交渉の仕組みを求めている。ILECは議会に対して積極的なロビー活動を行っており,これを支持する法案を提出する準備を一部議員は始めている。テキサス等の州では連邦政府の動きを待たずに,州として共通なフランチャイズ権を作る事も検討されている。

 MSOは当然これには猛反対をしている。MSOはILECがビデオ事業に参入するのは自由であるが,同じルールで競合すべきであり,ILECの参入に別な仕組みを作ることは一部の会社を優遇することになると反対をしている。自治体もフランチャイズ権の内容がそれぞれ異なるのはその自治体毎に異なる状況があるためで,連邦政府,あるいは州で共通のフランチャイズ権を作ることには反対をしている。

 議会にはILECのビデオサービスに対して自由を与えすぎる事を懸念する声も出ている。フランチャイズ権はその自治体全体に公平にサービスを提供する事を要求するものでもある。事業者が裕福な地域のみでサービスを提供する事等を禁止している。個々の自治体との契約無しではILECがサービスを公平に提供する事を確実にする方法が無くなるとの懸念もある。また,ILECの提供するIPTVをケーブルTVサービスとは異なる物と定義した場合,サービスを提供する地域でそのすべての地上波局を再送信するMust Carry義務が適応されくなり,ILECが一部の局のみを再送信したり,あるいは地域外の局を再送信する事への懸念もある。

 IPTVにはケーブルTVと同じフランチャイズ権が必要か。もし,IPTVとケーブルTVは異なる物で,異なるフランチャイズの方式を採用した場合,IPTVにはMust Carry等の義務も当てはまらなくなるのか。これは重要な課題であり,いくらILECが光ファイバー網を急いで構築しても,ビデオサービスが先に進まなくなる可能性もある。

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