放送ではなくなるケーブルTV　　(ブロードキャスティングレビューシリーズ No.17)

　ケーブルTV事業者の団体であるNational Cable & Telecommunications Associations（NCTA）が主催するThe National Showが4月3日からサンフランシスコで開催された。ケーブルTV業界の大きなメッセージは，ここ数年間で行われてきた950億ドルのネットワークのアップグレードにより，ケーブルTVは次世代のマルチメディアサービスのプラットフォームになっているということである。初日のパネルディスカッションはケーブルTV代表としてCharter Cable会長のPaul AllenとCablevision COOのTom Rutledgeが出席し，コンテンツの代表はElectronic ArtsのBing Gordon，Yahoo!のJerry Yangというメンバーであった。コンテンツの代表が映画，あるいはTVネットワーク会社ではなく，ゲーム（Electronic Arts）とインターネットポータル（Yahoo!）というのがケーブルTVは放送を越えたマルチメディアサービスであるというメッセージを表している。

　NCTA自体も2001年にその名称をNational Cable Television AssociationからNational Cable & Telecommunications Associationsに改めており，ケーブルTVは単なる放送サービスではなくなっている。

　ブロードバンドサービスとしてはケーブルTVネットワーク上で提供されるケーブルモデムサービスは2100万世帯に普及しており，DSLの1370万世帯よりも大きく，ケーブルTV事業者（MSO）はすでにブロードバンドISPのトップ企業になっている。

　MSOはこのケーブルモデムネットワークとVoIP技術を使い，電話事業に積極的に乗り出している。2004年末での有料VoIPの加入世帯数は100万であり，その内の半数はMSOの提供する「デジタル電話」サービスであった。CablevisionとTime Warner Cableの2社はその加入世帯全部に対してVoIPサービスを提供しており，Cablevisionは27万世帯，Time Warnerは20万世帯のVoIP加入世帯を持っている。MSOの提供するVoIPサービスの利用世帯数は2008年には900万世帯を超えると予想されている。

　MSOはまた双方向サービスに大きく力を入れている。インタラクティブサービスのベースとなるデジタルケーブルTVサービスはすでに2500万世帯に普及している。インタラクティブサービスとして最初に始まったVODの利用可能世帯はすでに1500万世帯を越え，VODによる収入は2005年には10億ドルに達すると予想されている。そして，MSOは次の双方向サービスとしてネットワークゲームを狙っている。

　2004年のケーブルTV事業者の総収入は576億ドルであった。この内放送収入は362億ドルで，前年比5.8%増であった。これに対して，放送以外の2004年の収入は214億ドルで前年比27%増であった。総収入における放送のシェアは2000年の72%から，2004年は63%に減っている。数年後には放送が占める割合は50%以下になる事は確実である。

　MSOは通信サービス事業者として非常に大きな力を持ち始めている。これに対抗出来るのは地域電話会社（LEC）であり，彼らはFTTxネットワークを構築しMSOの勢力を止めようとしている。ネットワークとして比較した場合，MSOのHFCは同軸ネットワークからアップグレードされたもので，単方向（放送）を主としたアーキテクチャーであり，最新の技術を使って構築されているLECのFTTxには大きく劣る。MSOは現在のアナログとデジタルが同居しているアーキテクチャーから100%デジタルに移行し，双方向サービスに適した次世代アーキテクチャーに移行をする必要がある。

　MSOが放送サービスを越え，通信サービスでの勢力をさらに強くするにはLECのFTTxに対抗出来るネットワークへとさらにアップグレードを続けていく必要がある。しかし，勝負を決めるのはネットワークの容量ではなく，その上で行われるサービスである。LECがMSOの勢力をストップするには通信サービスの分野だけでなく，放送の分野でも魅力のあるサービスを提供していかなければならない。