通信業界の再編成　-　残るはラストマイル

SprintによるNextelの買収，SBCのAT&T買収，そしてVerizonによるMCI買収と大きな通信事業者のM&Aのニュースが続いている。これらに比べて大きなニュースにはなっていないが，今後の動向を暗示するニュースとしてMSO（ケーブルTV事業者）のComcastとTime Warnerが共同でAdelphiaを買収する事が報じられている。2100万の加入世帯を持つケーブルTV事業者最大手のComcastは1100万の加入世帯を持つ第2位のMSO，Time Warnerと共同で540万世帯の加入世帯のあるMSOとしては5位のAdelphiaを共同で買収する計画である。通信業界の残る大きな再編成はラストマイルであり，これはその最初の動きである。

通信業界の自由化は1984年のAT&Tの分割で始まった。地域電話会社を分離する事でAT&Tは自由を得たが，それは競争の始まりでもあった。AT&Tは最初は長距離事業を独占したが，MCI，Sprintと競合は増えていく。数多くの長距離事業者が登場するが，多くは生存をする事は出来なく，AT&T，MCI，Sprintの3社に落ち着く。しかし，その安定も長くない。インターネットのブームでデータ向けのバックボーン市場がクローズアップされ，Qwest，Level 3等のIPベースの長距離事業者が多く誕生し，長距離市場の競合は再度激しくなる。結局はAT&T，MCI，Sprintが生き残るが，長距離電話料金は暴落し，利益を出すことが困難になる。Qwestは地域電話会社のUS Westを買収する事で存続し，その後AT&TはSBCへ，MCIはVerizonへの買収が発表されている。Sprintがまだ残されているが，Sprintは携帯電話に力を入れており，長距離電話事業者は事実上存在しなくなり始めている。

長距離電話市場の戦いが明らかにしたことは，加入者への回線（ラストマイル）の強さである。長距離事業者が値引き合戦で損をしても，それにより長距離通話が増えることで地域電話会社はアクセス料金で儲けが増える。AT&Tはこれを理解し，McCawの買収で携帯電話市場に参入し，さらには当時最大のMSOであったTCIを買収する。AT&Tは無線と有線（ケーブルTV網）の組み合わせで加入者への回線を押さえる戦略であったがそれを有効に進めることが出来なく，ケーブル事業はComcast，携帯電話はCingularに売ることになり，そして残った長距離事業もSBCに買収される。
加入者への回線の1つである携帯電話市場ではCingularによるAT&T Wirelessの購入，それにSprintのNextel買収以前から再編成が続いてきた。FCCはPCS帯域の競売で携帯電話市場の競争が増すことを狙ったおかげで，一時は数多くの携帯電話事業者が登場した。しかし，現在はSBCとBellSouthの共同会社のCingular，Verizon，Sprint，それにT-Mobileが残されている。

有線のラストマイルでは7つあったベル系地域電話事業者が4つに統合された他，ComcastがAT&T Broadbandを購入があったが，最近は大きな動きは無い。しかし，地域電話事業者が4社に集約されているのに対し，まだ数多くのMSOが存在している。ComcastとTime Warnerの共同でのAdelphia買収を機に，MSOの再編成の動きが進むと思われる。さらにMSOが進めているIP電話の拡張，そして地域電話会社が回線の光ファイバー化により進めているビデオサービスへの参入により，地域電話事業者とMSOのサービスは同じになっている。

MSO間の再編成が行われて，4社になったとしてもラストマイル市場として電話系4社，ケーブル系4社ではまだ数が多すぎる。共にブロードバンドを使ったトリプルプレー戦略を進めており，地域電話事業者とMSOの合併，買収は十分に考えられることである。さらに，地域電話事業者，あるいはMSOのビデオ戦略の一環としてビデオサービスではTime Warnerを抜き2位になっているDirecTV，そして4位のEchoStarの存在も考慮すると今後，大規模だけでなく，ユニークな組み合わせも考えられる。