DRI テレコムウォッチャー


難航するAT&T、Verizon等RHCによるテレビライセンス取得簡易化のロビイング活動

2005年12月15日号


 Verizonが最初にFiOSTVサービスを提供したテキサス州では、2005年9月初旬にテキサス州政府が、テレビのライセンス付与の権限を個々の地方公共団体(LocaLFanchising Authoity、LFA)ではなく州政府に付与し、州エリア分のライセンス処理を一括処理するという趣旨の法律を制定した。この法律はさらに、テレビのライセンス取得者にエリア内のすべてのサービス提供請求者に対しサービス提供を義務付けることなく、いずれの地域のいずれの加入者にもサービス提供できる(つまり顧客を選り好みできる)内容になっており、きわめて新規参入者(当面、RHCが主体)に有利なものであった(注1)。
 Verizon、AT&TをはじめとするRHCはこのテキサス州法律を模範とし、(1)州政府、州議会に対しては類似の法律の制定(2)連邦議会に対してはRHCによるテレビのライセンス申請を全米単位で行えるようにする法律の制定(3)FCCに対しては、同様にRHCによるテレビのライセンス取得が容易に行えるようにするための規則制定を求めて、一大ロビイング活動を展開している。
 このうち(1)、(2)の進展は鈍い。まず、(1)については、テキサス州以外の幾つかの州において、同様の法案制定に向けての議論あるいは法案についての審議が行われているものの、現時点では法律制定に至っていない。(2)については、この趣旨の法案は確かに米国議会上院小委員会に提出され論議されている。ところが審議は遅々として進んでいないようである。(3)は、本論で詳しく説明するが、FCCのMartin委員長の異常な努力により、FCCは2005年11月初旬、LFAによるMSO競争事業者に対するライセンス付与のありかたについての調査告示を発出した。この調査告示の仮決定内容からすると、規制機関としてのFCCの権限を最大限に行使して、RHCに対し有利なライセンス付与をサポートしたいとの意図は十分に看取できる。しかし、立法機関でないFCCは、基本的にはLFAが1996年電気通信法に基づいた手続きを正しく遂行しているかどうかをチェックするだけの権限しか有しておらず、とてもテキサス州が最近制定したようなライセンス処理簡素化の法律内容をLFAに強制することはできない。しかも、今回の調査告示に関してのFCC各委員の声明からすると、共和党Abernathy委員をも含め、調査の重要性自体は認めながらも、異口同音にFCCは本来の権限行使にとどまって、LFAのライセンス付与の実情把握に努めるべきであるとの意見(婉曲的であるが、明らかにMartin委員長に批判的な意見)を出している。したがってRHC側としては、FCC調査から精神的なサポートは得られるにせよ期待した成果は得られまい。
 投資効率を高める点からして、テレビライセンス取得の迅速化、特定層に対するサービス提供は、RHCとしてはどうしても獲得したい規制要件である。しかし、ブロードバンド振興の観点から、また年々料金を引き上げるMSO(大手ケーブル会社)に対する反感から、RHCに対する同情は強いものの、法的に見て、1996年電気通信法、1984年ケーブル法に則ってきたこれまでのテレビのライセンス付与の要件に代えて、ライセンス付与を簡易化する優遇措置を新規参入者に与えることはなかなか難しい。RHC側の懸命のロビイング活動にもかかわらず、この案件の解決には、さらにかなりの期間を要するであろう。

FCCの仮決定のあらまし(注2)

 FCCは、調査告示において、幾点かの仮決定を行った。以下にこれら仮決定の概要を列挙する。

  • FCCは、1996年通信法第1部及び第6部の諸条文に基づき、LFAのライセンス付与権限行使の手続きにより、ケーブルテレビ業者への競争業者が不当に参入を妨げられるような障壁が設けられることがないようにするため、適切な措置を講じる権限を有する。
  • 州あるいはLFAが1996年電気通信法621条項に違反してライセンスの付与を不当に拒否するような法律、あるいは規定を設けている場合には、FCCは州あるいはLFAに代わって、権限を行使することもありうる。
  • LFAがライセンスを付与するに当たり、次の条件を付することは、不当であるとは言えない。(1)所得により、ある地域に居住する特定グループに対するケーブルサービスへのアクセスを認めないようにすることはしないこと(2)ライセンス付与の地域において、すべての世帯にケーブルサービスを提供できるようになるまで、理に適った特定期間を設けること(3)ケーブル業者に対し、適切な公共・教育番組へのアクセス・チャネル提供あるいは財政面での補助を求めること(注3)
  • 通信法621条項を競争業者へのライセンス付与が不当に行われるのを禁止するとの文言に沿ってのみ解釈することはしない。将来の新規参入業者が競争サービスを早急に提供できるのにもかかわらず、この能力に不当に干渉するような手続きあるいはその他の要件を課することを禁じると解釈するべきである。

 上記の仮決定の内容は、通信法621条を拡大解釈、あるいは逸脱し、不当に州地方自治体の権限に介入したとの印象を与えかねないであろう。また、たとえこの仮決定の内容が調査終了により確定したとしても、VerizonもAT&Tも共に満足しないと思われる。それは、第一に両社が求めているのは、(1)州単位あるいは連邦単位でのライセンスの一括付与(2)狙いをつけた特定住宅用加入者に対するケーブルサービスの提供であって、FCCの調査ではこの二つの要件がともに満たされないからである。
 この調査告示に対し、Martin委員長以外の3名の委員が、いかに冷ややかかつ批判的な態度を取ったかを次項で紹介する。

FCC委員4名の声明 - 孤立したMartin委員 -

表 調査告示発出に当ってのFCC各委員の声明の強調点
FCC委員強調点
Kelvin J.Martin(共和)FCCは、LFAが不当に新規参入者に対する免許付与を拒否しないようにする責務を有する。今回の調査告示発出は、この目的達成のための第一歩である。
Jonathn S.Adelstein(共和)地方公共団体のスタフと意見交換をした限りでは、1996年電気通信法の精神に基づき、おおむねライセンス付与は公正に行われているとの印象を受けた。FCCは、自らの意見をLFAに押し付ける前に、慎重かつ注意深く行動すべきである。
Michael J.Copps(民主)FCCの調査は1996年電気通信法に基づき、不当にライセンス付与が拒否されることはないかどうかの点に厳密に限定して進めるべきである。本調査の結論は確たる調査結果に基づくべきものであって、予断を基に結論を下してはならない。この範囲で今回の調査告示を支持する。
Kathleen Q.Abernathy(民主)表現は異なるが、Copps委員と同様に、不当なライセンス付与の事実があるか否かを確認することが大切だと主張している。

 上表から明らかな通り、Martin委員長以外の3人の委員は、共和党のAdelstein氏をも含め、調査目的を忠実にLFAによる不当なライセンス拒否の事実の有無の確認にしぼることを主張している。3氏は調査自体が重要なものであり、それゆえに調査告示に賛成すると述べている点で意見は一致しているのであるが、そのための仮決定についていずれも批判的である点が特徴的である。
 結局、今回の調査告示は、Martin委員長とこの案件を所管するFCCメディア局のスタッフが策定し、他の3名のFCC委員はさほど内容にはタッチしなかったのではなかったのではないかとの印象さえ受ける。Martin委員長は、この案件について明らかに孤立した。

ライセンスの一括取得、特定層のみへのテレビサービス提供を目的として政府に働きかけるVerizon、AT&T

 ところで、Verizon、新生AT&Tがもっとも望んでいるのは、テレビライセンスの一括取得とともに、サービス提供対象をしぼることである。両社ともに、米国の全世帯を対象にして、テレビサービス提供を展開しようとは考えていない。たとえば、VerizonのFiOSTVサービス実施のためのインフラ計画は、2005年、2006年各年においてそれぞれ300万、計600万であるが、これは6000万を超えるケーブルテレビ世帯数の10%に満たない。この600万は設備提供加入数であって、獲得加入者の目標値ではないのであることに注意していただきたい。最初からVerizonは、投資の効率化を狙い高所得者層のみを対象にして、ビデオサービス展開計画を立てていると見られている。
 RHC(特にVerizonとAT&T)が、州政府、議会及び連邦議会に、テレビ免許の交付が容易に受けられるようにすると同時に、自社が好む利用者だけを選択できるようにする法律を制定するよう働きかけているのは、上記の背景による(注4)。
 現在、カリフォルニア、ニュージャージー、ミシガン、バージニア等の諸州の政府、議会において、上記の趣旨の法案が検討あるいは審議されている模様であるが、今のところまだ、法律制定に漕ぎ付ける段階には至っていない(注5)。
 また上院では、通信小委員会にライセンス付与を連邦段階で一挙に付与する趣旨の法案が11月上旬に公聴会に掛けられた。委員長のFred Upton氏(共和党)は法案可決に熱意を有しているが、共和党委員のなかからも批判が出る始末である(注6)。
 RHCは消費者団体を味方に付け、RHCのケーブル事業参入が消費者の利益になるとの大々的なキャンペーンを行わせるのに成功している模様である。IIA(Internet Innovations Alliance)、CCC(Consumers for Cable Choice)、FOF(Frontiers of Freedom)、Phoenix Center for Advanced Legal and Economic Public Policy Studiesといった消費者団体は、現在いかにケーブルテレビ業界への競争導入が消費者のためになるか、またRHCこそがいかに革新的な企業であり、将来いかに素晴らしいサービスを提供するかを大げさな表現でPRしている。上記のうち幾社かは長距離通信業者の利害を代弁し、RHC批判を展開していたが、MCI、AT&T両社がそれぞれVerizon、SBC Communicationsに統合することが定まって以来、スポンサーを乗り換えた模様である。ここに早くもメガマージャーの影響が現れている。同時に、いかにも消費者の立場を擁護するかのような名称を使いそれらしい口吻を使っても、その実、スポンサーの利害を代弁する御用消費団体もあるという実態も透けて見えるようになった。


(注1)2005年10月1日付けDRIテレコムウォッチャー「Verizon、テキサス州ケラー地区でFiOSTVサービスをキックオフ」
(注2)2005年11月3日付けFCCのプレスレリース、"FCC Initiates Rulemaking to Ensure Reasonable Franchising Process for New Video Market Entering"
(注3)この仮決定は一見、きわめて理解しがたい内容である。筆者なりに解釈すれば、これは現行1996年通信法の精神、1992年ケーブル法の条文にもかかわらず、婉曲的ではあるが、ケーブル免許の付与に当っては、すべての申請者に免許を付与するとの平等原則、公共性責務(マストキャリー)の義務は不要であるが、これを義務付けしないという趣旨なのであろう。この文言は、Martin委員長の強い主張によって挿入されたものであろうが、他の3名の委員はこの方針には大いに不満であったろうと推測できる。
(注4)以下の記述は、 http://www.larstan.netの"Creation of Faux Consumer Groups Designed to Influence Pending Legislation"に負うところが多い。
(注5)ニュージャージー州では下院での新法案審議が始まろうとしているが、テキサス州の場合とは異なり、Verizonが狙っている富裕地域のみへのサービス提供は認められそうにない。下院の草案の基本は、Verizonに対し、6年間のうちに州全域でのサービス提供を義務付けるというものである。これに対し、Verizon側は時期を明示せず、究極的にはユニバーサルTVサービスを提供するとして対応している模様である。こういった状況からすると、Verizonによる各州への働きかけは、仮に、州一括のライセンス付与が認めあれたとしても、結果的に同社が望まないサービス地域拡大を義務付けられ、当初より大きな投資を余儀なくされる危険性が出て来る結果を招く危険性を招くこととなりかねない。2005.11.17付けNorth.Jersey.com, "Verizon told to widen service"
(注6)2005.11.14付けMedian Week, "Franchise Fracas Hits D.C"

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