DRI テレコムウォッチャー


FCC、激論の末にメガマージャーを承認

2005年11月1日号

 SBC Communications、Verizon Communicationsが、それぞれAT&T、MCIの取得について両社と合意したのは、2005年1月末から、2月初めに掛けてのことであった(注1)。
 以来、両社によるAT&T及びMCI取得の準備(両社株主の合意、州公益事業委員会の承認の取り付け等)は順調に進み、同年10月27日には、司法省が些細な条件を付しただけで、この2件の電気通信業界における世紀のメガマージャーを承認した(注2)。司法省が了承した合併案件をFCCが拒否するとか、司法省が付していない新たな大きな条件を付することは、これまで慣例としてあり得ないことであった。
 事実、FCCは同年10月30日に至り、この案件を承認した。これにより、SBC ComによるAT&T取得(取得金額160億ドル)、Verizon CommunicationsによるMCI取得(取得金額80億ドル)が、多分、2006年早期に実現することは確実となった。
 この出来事は、米国の電気通信事業者が幾多の競争と技術導入を通じての一時期の数多くの競争事業者を通じての競争から、1980年代から1990年代に至るバブル期を経過しての統合、合併過程が頂点に達したことを示すものであって、米国電気通信事業史上、画期的な意義を有する。
 最近、SBC Communicationsは、AT&Tを吸収した後の同社の社名に、披合併会社である“AT&T”を使用することを明らかにした(注3)。Verizonと並び、年商700億ドルから800億ドルの巨大会社になる同社が、AT&T合併後も知名度の薄い旧来のSBC Communicationsのブランド名を使うことは、同社がグローバル戦略を展開する上できわめて不利である。それより、電話事業の草分けであり、100年以上の歴史を持ち由緒あるAT&Tブランドに賭けてみたいということであろう。しかし、皮肉なことに被合併会社ブランドのAT&Tを使うことは、1984年にAT&Tが7つの持ち株会社と1つの長距離会社に分割された当時を回顧させ、AT&Tの分割とは果たしてなにであったかを反省させる契機を与えることにもなりかねない。今回のメガマージャーが実施されると、米国の通信事業界において、Verizon Communicationsと新生AT&Tが寡占に近い力を振るうことになる。して見ると、20年余りの変遷を経て、AT&T分割は初期の効果を生むに至らず、旧の独占AT&Tが実質寡占2社+2社よりはるかに影が薄くなったBellSouth及びQwestに姿を変えただけで、結局、振り出しに戻っただけではないかとの感を強めてしまう。

 ところでFCCにおいては、無条件で2組の合併を認めようとする共和党委員2名(Martin委員長を含む)と、基本的に合併によりオーバーラップする資産売却を命じるべきであるが、それができなければ合併に当り、合併会社が非競争的慣行に訴えることを防ぐため諸種の条件を付するべきだとする民主党委員2名の間で激しい論争が展開された。このため、この案件を審議する委員会は、当初予定の10月21日が28日に延期され、しかも28日予定の委員会はさらに31日に延期されるというこれまでに例がない事態が生じた。結局FCCは、民主党委員2名が提出した13件もの条件を受け入れ、4対0と全員一致で可決されたのであるが、4名全員の委員が提出した声明書が、すべて反対党委員の意見を批判するという、これまた後味の悪い奇妙な結果で終わった。
 このような結末に終わった最大の原因は、共和党委員、民主党委員の見解が両極化しているということもさることながら、ここ1年近くにもわたり、FCC共和党委員の欠員が埋まらないままFCCの事業運営が行われているため、委員長は民主党議員に譲歩しなければ、裁定が可決されないという点に基本的な原因があると考えられる。
 それにしても、FCCのMartin、Alberthyの両議員が、今回チャキチャキの競争原理主義者としての論理を展開したのには驚かされた。2年前、当時のMartin委員が民主党委員と手を結んでPowell前FCC委員長に反旗を翻し、住宅加入者向けのアンバンドリング料金の存続(すなわち規制擁護の姿勢)を主張したことがあった。そのため、米国議会の一部からは、同氏を「隠れ民主党委員ではないか」と批判された印象が筆者にはあまりにも強かったことを思い出す。君子は豹変したというべきなのだろうか。
 以下、本文では、FCCにおいてどのような採決が行われたか、また、各委員がどのような声明を出したかを紹介する。

FCC、SBC及びVerizonによるAT&T、MCI合併について裁定を下す

 FCCが2005年10月30日に下した裁定は、(1)合併に賛成した趣旨(2)主要サービス分野における合併が競争にもたらす効果(3)合併に際しSBC、Verizonに課する条件の3部からなる(注4)。
 以下、これらについて、その概要を説明する。

合併を承認した理由

  • たがいに補足し合うネットワークの統合により効率が向上し、消費者には新サービス、ネットワークの性能・信頼性の向上がもたらされる。
  • 合併により、安定した信頼性ある米国所有の企業が生み出される。これは、政府の顧客へのサービスが向上し、国防、米国の安全に資することになる。
  • 合併により、企業の規模の経済、範囲の経済が高まる。これにより、合併を行う企業の基礎的な研究・開発を行うインセンティブと経営資源が高まるに違いない。
  • 最後に、合併により相当程度のコスト節減がもたらされる。これにより、米国全土の消費者が利益を得るに違いない。

 上記の理由により、FCCは消費者が合併から生じる利益を得るものとの結論を下した。
 FCCが表明した上記の合併の賛成理由は、次の点で従来の合併趣旨理由とは異なり、注目すべきものである。
 まず、従来の合併賛成理由は、合併がもたらすメリット、合併がもたらすディメリットを考量比較して、前者が後者を上回るから合併を認めるというものであった。すなわち、合併は大なり小なり弊害をもたらす側面があるとの企業性悪説に基づいていた。しかし今回は合併自体が善であり、あたかも弊害が全然ないかのごとき論理が展開されている。
 第2に上記と関連するが、多分、上記の論拠は、ほぼ合併を申請したVerizon、SBC Communicationsの主張を全面的に受け入れた(というより、FCCとVerizon、SBCが意気投合した)ものと思われる。
 最後に、ここでは2002.9.11以降の米国がテロ勢力との戦時体制にあるとの危機意識が反映されている。この緊急事態においては、強い、統合された電気通信事業者こそが善であり、事業者の統合を推進することは米国の国益にかなうのである。

主要サービス分野における合併がもたらす効果
 特別アクセス(専用線の卸売りサービス)、ビジネス向け小売サービス、一般消費者向けサービス、インターネット・バックボーン・サービス、卸売り長距離サービス、国際サービスの6つの部門について、FCCは競争業者の存在を指摘し、合併が反競争的効果をもたらすことがないことを指摘している。

合併に際しVerizon、SBC Communicationsに付した条件
 FCCは今回の合併承認に当たり、13項目にわたるVerizon、SBC Comが遵守すべき条件を列挙した。
 この条件は、法的にはFCCが付した条件ではなく、Verizon、SBC Comが自発的に遵守することを約束した条件であって、これら条件の遵守をFCCが強制し得るものだという法的な位置づけがなされている。つまり、裁定に含まれているが、法的には他の部分より位置づけが下位にある扱いをされている。
 実のところ、これらの条件はすべて、Copps、Adelsteinの民主党両委員の提案になるものであって、これをVerizon、SBC Communicationsが受け入れたものであることは、別項に紹介する本裁定に関するFCC4委員の意見により明らかとされている。
 ここで、これら条件をいちいち紹介することは省略するが、その内容は、Verizon、SBC Communicationsが合併後提供するサービスについて、1年から30ヶ月ほどの暫定期間について、現行料金の凍結、特定サービスの実施(たとえばDSLサービスを音声サービスと切り離し、単独で提供すること)、サービス品質の測定の実施、両社に対しての年々の約束履行の確認の声明発表など、かなり広範囲なものとなっている。
 つまり、今回のFCC裁定は、(1)将来に向けての条件が付されない合併の承認(FCC共和党の意思)(2)期限を限りFCCが履行を強制できるとしたVerizon、SBC Communicationsの約束(競争業者の意見を十分に吸収した上でのFCC民主党委員の意思)の両部分が含まれており、次項のFCC4委員の意見に見られる通り、2名の共和党委員、2名の民主党委員は、互いに激しく相手の主張を攻撃しながら、しかも裁定を全員が可決したところに特色がある。したがって、今回のFCC裁定は、前代未聞の4名のFCC委員たちの妥協の産物であるという他ない。逆にいうと、これはFCC委員の意見が両極に分かれるほどに、通信政策策定についてのコンセンサスが得られにくくなっていることを示す。

両極化したFCC委員の意見

 裁定に当たり4名の委員は全員、声明(要旨は次表)を発表した。声明は色濃く党派別な色彩を帯び、Martin、Abernathy(共和党)の両氏、Copps、Adelsteinの両氏の意見がそれぞれ類似し、さらに共和党、民主党委員相互間の批判が過熱しているのに注目されたい。

 いかに議論が白熱したかは、「この裁定は、1996年電気通信法の墓碑銘である」とのCopps氏の発言からも伺える。

表 4名のFCC委員の声明要旨
声明発表委員声明要旨
Martin委員長
(共和党)
今回のメガマージャーにより、国内的にもグローバルにも強い競争力を持って事業運営を行う強力なグローバルキャリアが出現する。
もちろん、合併により競争会社に対する影響がでるのではないかとの懸念が生じているが、この懸念は(1)司法省が付した合併に当っての条件(2)Verizon、SBC Communications両社がUNEと特別アクセス料金に付したそれぞれ2年間、30カ月の料金凍結により、解消されるはずである。
Abernathy
(共和党)
電気通信市場は、最近のサービス相互間の垣根の解消、技術革新により大きく変化しており、ワイアレス、ケーブル、VOIPプロバイダー等によるサービス提供により、広範にわたる規制を行う根拠は崩れている。
今回のメガマージャーに対するFCC裁定は、このような背景の下で行われたものであり、FCCとしては、司法省が合併に条件を付した以上、これに対し、なんらの付加条件を付する必要がなかった。
私は、Verizon、SBC Communicationsが行ったサービス提供に当っての自己規制の約束は、市場が要求してもいない無用の規制を課することになりはしないかと懸念するものである。
Copps
(民主党)
端的に言って、今回のメガマージャー承認は、われわれが1996年電気通信法がもたらすと考えていた競争に対する墓碑銘であると考えてしかるべきものである。
私としてできることは、暫定的にせよ、この合併がもたらすと考えられる競争に対する被害を最小に止めることであった。もっと、多くの歯止めを掛けたいと考えたのであるが、力が及ばなかった。
Adelstein
(民主党)
私は、今回のメガマージャーにより、競争圧力の減少がもたらす弊害は大きいものと考えており、当然、合併によって生じるダブった資産の売却をVerizon、SBC Comに命じるのが適切だと考えた。
FCCがこの方策を取らないというので、われわれ民主党委員2名は、次善の策として、幾点かの反競争歯止め策を提案したのである。Verizon、SBC Communicationsが、これらを遵守する約束をしてくれたことは喜ばしい。


(注1)当時の合併合意の条件とその意義については、2005年2月15日付けDRIテレコムウォッチャー「創業125年のAT&T、SBC Communicationsに売却へ」及び、2005年3月1日付けDRIテレコムウォッチャー「VerizonもMCI取得で合意」を参照されたい。
(注2)競争業者に対し、Verizonが19の州に有する256のビルにおける光ファイバーのリースを行うこと。
(注3)多くの報道記事があるが、たとえば2005.10.27、TMC net、"Mega-Merger Transforms into AT&T"
(注4)2005.10.30付けFCCプレスレリース、"FCC approves SBC/AT&T and Verizon/MCI Mergers"

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