DRI テレコムウォッチャー


Verizon、テキサス州ケラー地区でFiOSTVサービスをキックオフ

2005年10月1日号

 Verizonは2005年9月22日、モデル地域に指定してこれまでテストを行ってきたテキサス州ケラー地区においてFiOSTVの加入者の受付を開始した。サービス実施も近々始まるものと見られる(「ハリケーン」Ritaの影響で多少遅れるかもしれない)。これは、テキサス州で9月初旬に制定された州政府の権限による電話会社へのTV免許一括付与の法律により、Verizonが他州に先駆けてテキサス州全土にFiOSTVサービスを提供できるようになったことが大きく関係している(注1)。
 なおVerizon、SBC Communicationsによる光ファイバー利用のテレビサービス提供については、連邦議会、FCCはきわめて協力的である。これは一つには、これまでケーブルテレビ会社の料金が継続的に引き上げられており、またサービス品質についての苦情が多いことにもよる。このような事態を是正するためには、強力な事業者からの競争のインパクトが必要だとのコンセンサスが形成されつつあると見られる。また、ブロードバンドの推進、普及は、今やブッシュ政権自体が推進している国策でもある。この国策遂行の大きな主役は、まさにMSOとRHCなのであって、現在、劣勢にあるRHCをサポートすることが必要であるとのコンセンサスも出来つつある模様である。
 FCCのMartin委員長も、RHCの免許付与問題には大きな関心を抱いており、最近、FCCスタッフに、放送法の解釈で免許付与を簡素化することができるかどうかの検討を命じた。また議会にも、一括免許付与を可能にする法案が提出されている。
 しかし、MSOとMSOを代弁するテキサス州業界団体のTCTA(Texas Cable&Telecommunications Association)は、営業免許の一括付与に強く反対している。TCTAは早速、成立したばかりの営業免許一括付与法律は電話業者を不当に利するものだとして、訴えを提起した。また、営業免許付与が有力な利権(付与権限、免許料収入等)である地方自治体も、この権限を手放すことに難色を示している。幾つかの州でテキサス州と同様の営業免許一括付与法案が提出されており、また提出される予定があるようであるが、今後テキサス州に続いてこの種の法律を制定する州は、少数に留まるだろう。
 したがって、自社に有利な規制条件取得をめぐっての電話会社、ケーブルテレビ会社相互間の争いは今後も州、連邦の段階で継続するものと考えられる。
 いずれにせよ、Verizonは2005年末までにFiOSTVサービスを提供すると確約したが、この約束は守られた。今回のVerizonによるテレビ事業への進出は、トリプルプレイ(音声・ビデオ・データ)のパッケージ・サービス提供について、ようやくVerizonがMSO諸社と対等の立場に立つ端緒をつかんだという重要な意義を持つ。SBC Comも2006年早期(2005年末の計画であったが、少し計画実施が遅れている)には、同社のLightspeed(IPTVサービス)により、大々的にビデオ市場に参入する予定である。したがって2006年には、RHCとMSOがそれぞれ競争相手の中核市場(RHCからはビデオ市場、MSOからは電話市場)を奪い合うデスマッチが展開されることとなろう。同時にこの現象は、RHCとMSOの主業務が類似内容のものに収斂して行き、両事業体の事業区分自体が無意味になっていくことをも意味する。

概要が明らかとなったFiOSTVサービスのチャネル数、料金

 Verizonは2005年9月22日、テキサス州ケラー地区において同社初のFiOSTVサービスの申し込み受付を始めた。
 基本サービスのチャネル数、月額料金を他社との比較で示したのが次表である。同社は提供チャネル数が多く、しかも料金も安い。同社は、充分ケーブルテレビ会社、衛星通信会社との競争に勝てるとの自信を示している。なお、この基本サービスの他に、Verizonは12.9ドルの月額料金で15から35チャネルを利用できる格安サービスも提供する。
 しかし、後発でケーブルテレビ市場に参入したVerizonにしてみれば、このサービスの中身はあまりにもMSO、衛星通信会社のそれに類似しており、差別化の努力に欠けると評する向きもあるようだ。

表 テキサス州ケラー地区におけるVerizon及び同社と競争するケーブル・衛星通信会社の
TVチャネル数・料金の比較
(注2)
業者名提供チャネル数基本サービスの月額料金
Verizon18040ドル
Charter Communications9748ドル
Echo Star12038ドル
Direct TV15540ドル


 VerizonのCEO、Seidenberg氏は、今後のFiOSTVサービスの拡大について次のような計画を発表している(注3)。
  • 現在Verizonは、全州におけるサービス提供の認可を取得したテキサス州をはじめとして、カリフォルニア、フロリダ、バージニアの各州において約50万の顧客にサービスを提供する。
  • その他の州に対しては、地方自治体を通じサービス免許の提供申請を行うほか、テキサス州の場合のように州単位で免許取得ができるよう州政府、州議会への働き掛けを強めていく。
  • 州政府、さらには連邦段階で法的措置が得られれば、免許取得に要する期間は短縮されてサービス実施が早まり、Verizonには好都合である。

 上記はボストンの経営者に対し行ったSeidenberg氏のスピーチのなかから、FiOSTVについての部分を抜き出したものであるが、ここで、氏が必ずしも連邦段階の立法を必要とせず、逐次、地方公共団体からの面子を取得する方法によってでも、FiOSTVサービスの全面展開ができるとの強い自信を示した点が注目される。

テキサス州議会、RHCに対しテレビ免許を一括付与する法律案を可決

 テキサス州議会は2005年7月13日、RHCに対しテレビ免許を州単位で一括付与することができるようにする法案を可決した。また、同年9月2日、テキサス州知事Perry氏はこの法案に署名、この結果、この画期的な法律は他州に先駆けて成立した(注4)。なおこの法律には、このほか市内通話料金を自由化する内容も含まれているが、今回はこの点については説明を省く。この州法の骨子は次の通り。

  • 電話会社は、テレビの営業免許を州政府から一括して受けることができる(現在は各地方公共団体から個別に取得)。
  • 電話会社は、自社が好む地域において好みのサービスを提供することができる。
  • 営業免許を取得した電話会社は、収入に応じた免許料を支払う義務がある。
  • ケーブルテレビ会社の地方自治体との既存の免許協定は、期限切れの時点まで有効(それ以降は電話会社の場合と同様、州政府による一括免許付与制度に移行する)。

 この法律制定を強く推進したのはVerizon、SBC Communicationsの両社である。Verizonは、同社が計画しているFiOSTV提供のモデル地区がテキサス州内にあるので、この法律成立に執念を持つのは当然のことであった。また、SBC CommunicationsもVerizon同様、巨額と投じてサービス提供の準備をしているし、さらに同社の本拠は、テキサス州オースティンである。したがって、同社がこの法案可決に向けて精力を注ぐのは当然のことであり、事実、法案の起草自体にも深く関与した模様である。
 これに対し、法案に真向から反対したのは、州内のケーブルテレビ会社の利害を代表するTCTA(Texas Cable&Telecommunications Associations)である。また、TimeWarner、COX等州内のテレビ会社は、他州の場合も同様、自社の営業エリア内に強力な競争業者が有利な条件で参入することを警戒して、強い反対を続けている(後述の通り、法案成立後も訴訟を提起した)。
 消費者団体は、これまで継続的に料金を上げてきており、サービス面でも多々問題があるケーブルテレビ会社にあまり良い印象を持っておらず、おおむね法律制定に賛成した。

テキサス州公益事業委員会、営業免許一括付与法案に対し訴訟を起こす

 TCTAは、上記法律が制定された翌日の2005年9月3日、テキサス州知事のPerry氏及びテキサス州公益事業委員会委員3名(委員長のHudson氏を含む)を相手取って、連邦地方裁判所に訴えを起こした(注5)。
 訴訟の主要点は、次の2点において電話会社はケーブルテレビ会社より有利な取り扱いを与えているので競争上不公正であり、電気通信法、FCC規則に違反するというものである。

  • 電話会社に対し、地方団体からの個々の営業免許取得を必要とせず州政府から一括して営業免許を受けること。
  • 電話会社は、サービス提供地域を限定されることなく、任意の地域、任意の人々に対しサービス提供ができること。

 TCTAは、決して競争業者の市場参入を拒むものではないが、競争条件を平等にしてほしいと要求している。この主張自体はそれなりに筋が通っており、連邦地裁が今後どのような判断を下すかが注目される。

FCC、RHC営業免許取得の簡素化措置を検討中

 FCC委員長のMartin氏は、かねがねブロードバンド競争においてRHC側がMSO側に比し劣勢にある状勢にかんがみ、規制環境をRHCに有利にする方向でFCCが為しうる措置を検討中である。
 同氏は8月下旬、スタッフにRHC免許取得の手続きを容易にする方法を検討するよう指示した(注6)。
 FCCは、具体的には放送法の関連条文の解釈を示すことにより、この措置を講じることができるかどうかを検討している模様である。
 放送法621条(a)(1)には、「地域の営業免許を付与する機関は、競争業者に対する免許申請を不条理な理由で拒否してはならない」との規定がある。FCCは、この法文を根拠にして地方公共団体の認可をよりスムーズにできないかと考えているという。
 もっとも、認可権限を侵犯されたくないと身構えている地方公共団体は、FCCがこのような措置を講じれば、大きな反対行動が起こすことは必然である。したがって、FCCが実際にこのような手段に打って出るかいなかは定かでない。


(注1)VerizonによるこれまでのFiOSTVとの取り組みについては、2005年9月15日付けDRIテレコムウォッチャー、「Verizon、有線・携帯両面でBB拡大に懸命」、および2005年5月15日付けDRIテレコムウォッチャー、「Verizon、FiOSTVの準備に懸命」を参照されたい。
(注2)2005.9.22付けYahoo News, "Texas town gets first crack at VerizonTV" に記載された数値から作表した。
(注3)2005.9.21付けbiz.Yahoo.Com, "Verizon Chief Executive Calls for Updated TV Franchise Laws and Progressive Tax Policies to Spar Investment"
(注4)2005.7.13付けPlainview Daily Herald, "Senate passes telecom bill"
2005.9.7付けReuter.Com, "Texas Governer gives Bells Victory on TV services"
(注5)2005.9.8付けAustin Business Journal, "Trade Group sues over statesユtelecom law"
(注6)2005.8.23、付けUSA Today, "FCC chief considers forcing cable TV competition"

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