DRI テレコムウォッチャー


Verizon、有線・携帯の両面でブロードバンドの拡大に懸命

2005年9月15日号

 Verizonはここ数年来、DSL、光ファイバーの拡大を最大の戦略目的とし、その実現に邁進している。2005年8月末にも、この施策推進の重要な一環として、低速DSL料金、EV-DO標準(CDMA2000のバージョンアップ)による3G携帯電話サービスの拡大、料金引き下げを実施した。
 低速DSL料金の引き下げは、2005年6月に実施されたSBC Communicationsの大幅なDSL料金引き下げに追随したものである。この引き下げにより、低速DSL料金は、米国の大手RHC2社において、大方のダイアル・アップのインターネット料金より安くなり、これにより米国のDSL利用が大きく高まることが期待される。
 Verizon、SBC Communications等RHCの懸命の努力にもかかわらず、ブロードバンド加入者数の較差(2005年6月末現在、MSO:1776万、RHC:1005)は依然として大きい。しかも、CableVision、TimeWarner(Verizonと営業地域の競業率が高い)は、最近、電話加入者の獲得によりVerizonの加入者を奪取しつつある。今回のVerizonのDSL料金値下げは、このようなケーブルテレビ事業者(MSO)との熾烈な競争に打ち勝つため、自社加入者を囲い込む必要から実施されたものである。
 同じく2005年8月末、Verisonは、2003年から他社に先駆けてサービス提供を開始したEV-DO標準による携帯電話3Gサービスの料金引き下げ、サービス地域の拡大をも行った。3Gサービス提供では、米国は、わが国、欧州主要諸国に比し後進国であり、現在のところ提供されているサービスは、ビジネス加入者が主体であるようである。
 しかしVerizonは、2006年には3Gサービスの提供エリアを全国に拡大するとともに、住宅用加入者向けのサービスメニューも開発する計画であり、総じて有線、無線両面において、米国のブロードバンドをリードしようとの意気込みがうかがえる。
 本文では、上記について、さらに詳しくその概要を紹介する。

低速DSL料金を大幅値下げ:MSOに対抗するための加入者囲い込み

 Verizonは2005年8月22日、低速DSL料金の引き下げを発表した。その骨子は、次の3点である(注1)。

  • 下り768キロビット、上り128ビットの低速DSL月額料金を14.95ドルに引き下げる。
  • 契約者は、最低1年間、解約しないことを条件とする。
  • 早期申し込み(いつまでか、不明)の利用者には、最初の1ヶ月間、利用料金を無料とする(Verizonのホームページによる、終期は不明。)。

 そもそも、DSL料金の引き下げに最も積極的であったのは、SBC Communicationsであった。SBC Communicationsが2005年6月、低速DSL料金を29.95ドルから14.95ドルへと大幅引き下げした時点では、Verizonは、DSL料金の安売り競争に批判的だったのである。しかし、今回のVerizonの料金引き下げは、同社がコストを度外視してDSLシェアの拡大に本腰を入れ始めたことを意味する。
 なお、料金額が同一である点からすると、VerizonがSBC Communicationsに追いついたかのように取れるが、SBC Comのサービスは下りのスピードが1.5メガであって、品質はVerizonより高い(注2)。
 今回のVerizonの料金値下げを、前回のSBC Communicationsの料金値下げと合わせて考察すると、(1)米国大手RHC2社の低速DSL料金が韓国、日本等の一部ブロードバンド先進国と並んで、国際レベルに到達したこと(2)この料金水準は、多分、米国の幾社かのダイアル・インターネットサービスの料金(最大手はTimeWarner傘下のAOL)より安く、今後、米国の低速ブロードバンド利用者の増大が大いに進むであろうこと(3)他方、いまやRHCの最大の競争相手になったMSO(大手ケーブル会社)がRHCよりはるかに高い料金(おおむね月額40ドル以上)のケーブルモデム利用のブロードバンド・サービスを提供し続けながら、さほどシェアを減らしていないこと(つまり、現在のところブロードバンド競争では、MSOがRHCに対し有利な立場になること)の諸点が重要である。
 (3)について補足すると、ここ数年来、SBC Communications、VerizonをはじめとするRHCは、サービスを先行実施し米国最大のブロードバンド業者になっているMSOに対し、競争を挑み、シェアの拡大に努めてきた。確かに、加入者の増大こそRHCの方が多くなっているものの、まだブロードバンド加入者数の格差が大きい。しかも、最新の2005年第2四半期の加入者獲得のシェアは、RHC52%、MSO48%であって前四半期のシェア獲得率より下回ったことが、RHCにはショックであった(本稿末尾の参考「ケーブルモデム、DSLの加入者数比較」参照)。
 ところで、Verizonは5.5%、SBC Communicationsは4.8%と、過去1年間(2004年6月から2005年5月末までの期間)に加入回線を大きく減少させている。特にVerizonは、2005年第2四半期だけで3.8%も加入者回線を減少させた(5220 万→5069万へと151万の減少)。筆者は、加入回線の減少はこれまで、携帯電話への移行が主体であって、Verizon、 SBC Communication、BellSouthの3大RHCはそれぞれ、米国最大の携帯電話会社2社(Verizon Wireless、 Cingular Wireless)を傘下に有しているのであるから、自社の固定電話加入者が携帯電話加入者に振り替わる分が大きいと見てきたのであるが、上記の大幅なVerizon加入者の減少からすると、MSOによるRHC加入者への侵攻作戦は効を奏し始めたようである。この点について、ある情報オンライン誌は次のように解説している(注3)。
 「Cablevision System(第5位のMSO)とTimeWarner(第2位のMSO)は、これまでの2年間で110万の電話加入者を獲得した。両社ともに、多くの地域でVerizonと競合している。しかも、上記加入者の大半はここ半年の間に得られたものであり、電話加入者獲得のピッチは早い。TimeWarnerは現在、一週間2万の比率で加入者数を増やしているという。いまのところ、最大のMSOであるComcastは、まだ電話サービスを開始していないが、2006年には大々的にこの市場への進出を行う計画を立てている。Verizonの小売市場グループの社長、Bob Ingalls氏は、これまでの経験から、一度ブロードバンドを使用した加入者が他社に移る比率は低いので、加入者の囲い込みのため、今回の低速DSLの大幅引き下げを行ったと述べている」。

 ところで、VerizonがDSLサービスと並んで、もっとも力を入れている光ファイバーを使用したFiOSサービスは、営業免許取得に期間を要し、大掛かりなサービス提供が妨げられているのであるが、ようやく最近サービス提供が始まった(注4)。
 Verizonは、光ファイバーによるブロードバンド・サービスの実施、定着化こそが当初より期間が掛かろうとも、同社サービスの本命であるとしている。この観点からすれば、今回の低速DSLの料金値下げは、将来、光ファイバーに移行する加入者の確保であるとの位置づけもできる。

3G携帯電話サービス地域の拡大、料金の引き下げ(注5)

 VerizonWirelessは、EV-DO標準による月額無制限サービス料金を25%引き下げ、月額60ドルとした。ただしこのサービスは、携帯端末による音声サービスの同時利用が条件となっている。同時に同社はデンバー等7地域に、このサービスを拡大すると発表した。
 同社は2003年10月、サンディエゴ、ワシントンを皮切りに3Gサービスを開始し、逐次サービス提供エリアを拡大しており、今回の地域拡大で、米国の3分の1のエリアをカバーした。
 ちなみに米国では、携帯電話において3Gサービスはもちろんのこと、データの利用も少ない。2005年7月現在、VerizonWirelessのEV-DOサービス加入者数は約50万である(Reuter社調査)。また、VerizonWireless社の69億ドルの収入(2005年第2四半期)のうち、データ収入は7%に過ぎない。
 VerizonWirelessのサービスはビジネス用が主であり、ホットスポットが増えつつあるWi-Fi利用と競合するものと見られている。端末も携帯電話ではなく、ラップトップ・コンピュータが主体。住宅用加入主体のサービス提供は、今後の課題である。
VerizonWirelessが音楽配信サービスを近々提供するとの噂も流れたが、同社はこれを否定し、2006年にこのサービスを提供するといっている。

参考:ケーブルモデム、DSLのブロードバンド加入者数比較(注6)

表1 ケーブルモデム、DSLの加入者数(2005年及び2004年第2四半期、単位:万)
 2005年第2四半期末2004年第2四半期末増加率(%)
ケーブルモデム2225177625.1
DSL1385100537.7
3610278128.8


表2 MSO及びRHCのブロードバンド加入者数(2005年第2四半期期末)
MSO加入者数(増数)RHC加入者数(増数)
Comcast771(30)SBC Com600(36)
TimeWarner432(20)Verizon*410(28)
Cox285(10)BellSouth240(12)
Charter202(4)Qwest Com120(8)
(括弧内の数値は、2005年4月から6月の期間の加入者増を示す)
* Verizon括弧内の28万は、DSL+Fiosの数値である。


上表から、汲み取れる主な事実を列挙する。
  • 表1に示すとおり、これまで1年間でケーブルモデム、DSLによるブロードバンド加入者数は、2780万から3610万へと28.8%上昇した。DSLの上昇率は37.7%でケーブルモデムの25.1%を大きく上回っている(ここではブロードバンドのうち、ケーブルモデム、DSLのみを扱っていることに注目してほしい)。
  • しかし、ケーブルモデム+DSLを100とした構成比率で見ると、これまで一年間で、ケーブルテレビ:63.8%→61.8%、DSL:36.2%→38.4%と、さほど大きな変動を示していない。しかも、2005年第2四半期におけるRHCのシェアは52%であって、アナリストの予測56%を下回った。この程度のシェアの増大では、ケーブルテレビ加入者数にRHC各社が追いつくのには程遠い。
  • これは、一つにはケーブルモデム提供のケーブルテレビ業者が10社を超えているのに対し(ここでは紹介を省いたが、MSOは表2に示したほかケーブルモデム加入者10万以上の業者だけで11社がある。
  • 表2により、ケーブルテレビ会社4社とRHC4社の加入者数を比較してみると、Qwestの大きな立ち遅れは別として、RHC3社がそれぞれ対応するケーブルテレビ会社に追いつきつつあるが、なお優位に立てていない状況にあることが明らかである。

(注1)2005.8.22付けReuter.Com, "Verizon to offer slower DSL to gain broadband users"
(注2)SBCのDSL料金値下げについては、2005年7月1日付けDRIテレコムウォッチャー、「ますます激化するRHCとMSOのブロードバンド競争」
(注3)2005.8.27付けMarket Watch, "Verizon casts a wary eyes at cable"
(注4)Verizonは、2005年第2四半期の決算報告で、Fios、DSLのブロードバンド総加入者の増が28.6万であることを発表した。しかしこの数値は、DSLだけの同社の数値を下回り、同社のFiosサービスが始まっているとともに、開始後の加入者獲得が軌道に乗っていないことをも示すものである。
(注5)本稿は、主として2005.8.29付けYahoo.com、"Verizon Cuts Price Tag For Wireless Data"によった。
(注6)本稿は、Verizon、SBC Commuinications、BellSouth3社の決算報告(2005年第2四半期)および、2005年9月1日付けCable Digital News, "Cable Operators,Baby Bells See Big Drop in Data Gains For Q2" によった。

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