DRI テレコムウォッチャー


新生Sprint Nextel、ワイアレス・ブロードバンドに賭ける

2005年9月1日号

 2005年8月12日、米国第3位と第5位の携帯電話事業者SprintとNextelの合併が実現し、新生SprintNextelが船出した。SprintがFCCにNextelの統合を申請したのは2004年12月15日のことであったから、10ヶ月強の短期間でこの大型合併が実現したことになる(注1)。なお、Sprintは固定通信部門を有しているが、この部門は、SprintNextelから切り離され、別資本の企業になることでFCCの承認が得られている。分離の時期は2006年になる見込み。
 2005年後半に至るまで、米国の大携帯電話事業者は6社体制であり、市場規模が世界最大であるとはいいながら、過当競争だと言われていた。ところが2004年10月末、業界第2位のCigular Wirelessが業界第3位のAT&TWrelessを統合、今回、再び、SprintNextelの統合が実現することによって、2004年から2005年に掛けて米国の大手携帯電話会社は4社に収斂した。この4社を分類してみると、次の通りとなる。

  • RHCの子会社:Verison Wireless及びCingularWireless
  • 独立の米国携帯会社:Sprint Nextel
  • 外資系携帯電話会社:T-MobileUSA(DTの携帯電話部門であるT-Mobileの米国部門)

 上記4社のうち、RHC系のVerizonWireless及びCingular Wirelessの両社は、その業務の主体を固定電話サービスとの連帯、提携による"パッケージ・サービス"提供の担い手となる点においており、見通しうる将来にわたり、少なくともほどほどの業績を保つことができよう。これに対し、新生SprintNextelとT-MobileUSAは、携帯電話サービスに特化しているだけに、これら強大2社に比しては、どうしても競争上不利な立場に立っている。
 SprintNextelは、大量の高速ブロードバンド免許(2.5GHz)を所有している利点を生かし、今後、ワイアレス・ブロードバンドに社運を賭する決意を明らかとした。この点については、FCCとの間で、大量のブロードバンド加入者への切り替えを約束している。ユビキタスなブロードバンド環境については、一部先進国でその理念が追及され、事実、そのサービスも実現されつつある。これまで、マーケティングの面ではいずれも高く評価されてきたものの、技術面での評価は必ずしも高くなかったSprint、Nextel両社の合併企業が、米国では強豪VerizonWireless、CingularWirelessに先んじて、ワイアレス・ブロードバンドに実現に突き進むことは、特筆すべき現象であり、米国ジャーナリズムでは、さまざまな論評が行われている。
 本文では、上記の事項について、より詳しく紹介する。

FCC、SprintとNextelの統合を承認 − 条件はワイアレス・ブロードバンド加入者の開拓のみ

 FCCは、2005年8月3日、SprintによるNextelの統合を承認した。FCCによるこの承認は、SprintによるNextelの周波数ライセンスの取得は、公衆の利益、便宜、ニーズに資するものであり、合併によりもたらされる可能性の強い利益は、公益に対する潜在的な害を償ってあまりあるとの結論に基づくものである点を強調している。FCC承認の骨子は次の通りである(注2)。

  • FCCは、2005年12月にSprintが申請したNextel統合を承認する。
  • FCCは、SprintにNextelが有するすべての周波数帯(800MHz、900MHzのほか、ブロードバンド無線サービス用の2.5GHz周波数帯も含む)の譲渡を認める。
  • FCCは、両社合併にあたり、資産、ネットワークの売却等の条件を課さない。これは、今回の合併が、大手携帯電話会社3位(Spring)、5位(Nextel)相互のものであって、合併が行われても、総じて、統合会社の営業地域には、他の競争業者が存在するからである。
  • FCCは、2.5GHzの周波数帯利用を次のように加入者に提供するよう求める。4カ年内:1500万加入者、次の6カ年内:1500万加入者。
    自社のコントロールが及ばない事由により、この目標遂行ができなくなった場合は、この義務は免除される。
  • Sprint、Nextelは、申請において、Sprintが有する固定電話部門は、将来、LTDHolding Company(仮称)としてSprintNextelから分離する意図を示している。FCCはこれを認めるが、分離に当たり、LTD Holdingへの負債、資産の配分が公平に行われるとの約束(コミットメント)に留意する。

 このFCC承認で注目されるのは、2.5GHzの利用について、大幅な加入者獲得の目標を新生SprintNextelに受け入れさせたことである。うがった見方をすれば、FCCはこの条件と引き換えに、他の資産、ネットワーク売却条件(数地域はあるはずである)を付さなかったのかもしれない。
 この条件付与は、民主党Adelstein委員の提案になる点が明らかとされており、今回もまたMartin委員長は、民主党委員の見解をよく取り入れ、超党派的な運営を行っている点が看取される(注3)。

Sprint Nextel、社運を賭してワイアレス・ブロードバンドを推進へ

 FCCからの承認を受けた後、わずか1週間後の8月12日にスタートした新生SprintNextelは、Cingular、Verizonとほぼ拮抗する規模の携帯電話会社となった(参考:米国4大携帯電話会社の経営規模比較参照)。
 同社のCEO兼社長には、Gary Foresee(Sprintの前CEO)が就任した。また、NextelのCEOであったTimothyM.Donahue氏は、執行会長(executive Chairman)に就任した。
 両社の責任分担はまだ明らかにされていないが、それぞれ携帯電話業界で大きな業績を挙げ、また今回の合併をスムーズに進行させた実績を有するだけに、今後、互いに協力しあって新生SprintNextelの舵取りに当っていくものと見られている。
 Sprint、Nextelの両社はこれまで、VerizonWireless、CingularWirelessの2大強豪会社の間にあって、あるいは思い切った他企業への卸売りの実施(Sprint)、あるいは無線呼出しサービス提供からスタートした利点を生かしてのビジネスユーザーを中心とした携帯呼び出しサービス等の特色あるサービスを提供して、事業を成長させてきた。
 しかし、Verizon、Cingularの両社が、特にケーブルテレビ会社との対決の必要性からして、提供するサービスの中心をパッケージ・サービス(音声、データ、携帯のいわゆる"トリプル・プレイ")においている現在、従来のままの路線では成長を続けることは期待できない。これまで欧州、日本に比し携帯電話の普及率が低かったため高い成長を持続していた携帯電話市場がいよいよ飽和に近づきつつある状況から、ますます新生SprintNextelは、大掛かりな路線変更に迫られることになる。
 FCCに約束した2.5GHz周波数帯の利活用(換言すればワイアレス・ブロードバンドへの転換)こそが、新生SprintNextelの将来路線に他ならない。
 この点についてGary Foresee氏は、SprintとNextelの合併完了を宣言したプレスレリースのなかで、「本日は偉大な日である。SprintNextelは、顧客に対し、メディア、娯楽のコンテンツを備えた革新的なワイアレス・データを提供するつもりである」とその決意を語っている(注4)。ちなみに、SprintNextelは全米の80%をカバーする2.5GHzの周波数免許を所有しており、この点で他社の追随を許さないとのことである。
 すでに同社は、ワイアレス・ブロードバンドの展開についてさまざまな構想を練っており、また幾つもの関連企業、メーカとの接触を行っている模倣であるが、具体的にどのような戦略を展開していくかは、興味のある問題である(注5)。

参考:米国4大携帯電話会社の経営規模比較(注6)

表:米国4大携帯電話会社の経営指標(2005年第2四半期または2005年6月末)
 CingularVerizonSprintNextelT-Mobile
収入(億ドル)86(204%)78(14.6%)40(11.8%)38(16%)34(23.8%)
利益(億ドル)*1   1.1*2   9.2*3   10.81.1*4   30.6%
加入者数(万)51604740266017801924
*5   加入者数増(万)11019058.876.397.2
取消し率(%)1.81.22.21.4不明
1. 収入のカッコ内数値は、前年同期(2004年第2四半期)に対する増率である。
2. *1 は営業利益である。
3. *2 は、推計純利益(Verizonの総利益を同社の携帯電話部門、その他の営業利益により案分比例して算出。
4. *3 は、営業利益である。
5. *4 は、EBITDA(金利・税金・償却前利益)である。
6. 加入者数増は、2005年第2四半期中(4、5、6月の3ヶ月間)における増数である。

以下、上表を基にし、各携帯電話会社の経営状況について、多少、コメントをしておく。

  • 米国最大の携帯電話事業者は、2004年10月にAT&TWirelessを統合して規模を倍増させたCingular Wirelessである。しかし、加入者数の伸び率、利益額は、第2位のVerizon Wirelessに比し、大きく見劣りがする。上表で明らかな通り、2005年第2四半期における加入者の増数は、Cingular WirelessはVerizonの約半数に過ぎない。現在420万の差異がある加入者数は、現在のピッチでのVerizonWirelessの追い上げが続けば、今後1年半もすれば、Cingular Wirelessは首位の座をVerizonに譲り渡さなければならぬ事態すら生じかねないだろう。また、Cingular Wirelessは純利益を発表していないが、前期に引き続き、実質赤字であった可能性も高い。
  • これに引き換えVerizonWirelessは、加入者の伸び、利益率、取り消し比率のいずれの指標からみても、米国でもっとも優れた携帯電話会社である。
  • T-MobileUSAは、DT(ドイツテレコム)の携帯電話部門、T-Mobile Internationalの重要な一翼を担っている。T-Mobile Internationalは、ドイツ本国はもとより、米国、英国、オランダ、オーストリア、チェコ、ハンガリー、スロバキア、クロアチア等の各国で携帯電話事業を運営しており、2005年第2四半期には、ついに総加入者数が8000万を超え、DT各部門のなかでもっとも成長率が著しく利益も高い部門となった。上表に示すとおり、T-MobileUSAは、米国携帯電話事業者のなかでは最小の規模ではあるが、他の競争業者と遜色のない業績を収めている。しかし、3Gサービス提供の準備が出ていない同社は、今後1両年のうちには、(1)3Gに向けて大幅な投資を行うか(2)他社に売却するかの2者択一の選択を迫られるであろう(注7)。


(注1)SprintがFCCにNextel取得を申請した当時の状況については、2005年1月15日付けDRIテレコムウォッチャー、「合併相次ぐ米国の携帯電話事業」
(注2)2005.8.3付けFCCプレスレリース、"FCC consents to Sprint corporations acquisitions of Nextel Communications licenses and authorizations"
(注3)ついでながら、2代前のFCC委員長(民主党)であったKennard氏は、RHCに対し、長距離電話事業への参入を認める条件として、数回、DSLの拡大を約束させたこともあり、この種の政策は明らかに民主党FCC委員のお家芸だったと考られる。次期委員長Powell氏(共和党)は企業政策へのFCC関与を嫌い、この種の措置を一切取らなかった。
(注4)2005.8.12付けSprintのプレスレリース、"SprintNextel complete merger"
(注5)2005.8.12付けYahoo! News, "Big Qwestions Swirll At News Sprint-Nextel About Wireless Plans"
(注6)本稿に掲示した表の作成にあたっては、2005年第2四半期における各社の決算報告の資料を使用した。
(注7)2005.7.27付けUSAToday, "New Sprint Nextel will focus on phones"

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