DRI テレコムウォッチャー


ますます激化するRHCとMSOのブロードバンド競争 - MSOはなおも優位

2005年7月1日号

 大手長距離通信事業者2社(AT&T、MCI)への大手RHC(SBC Communications Verizon)の合併が当事者間で取り決められた現在、今や、RHC4社とMSO(大手ケーブル会社)相互間のブロードバンド利用加入者争奪戦に、ますます注目が集まっている。
 早期にネットワーク近代化に対する大掛りな投資を行っていたMSOが、後発のRHCに対し、これまでブロードバンド競争では圧倒的に優位に立っていた。しかし、RHC側からのここ1、2年来の懸命な努力が実って、MSOとRHC間のブロードバンド加入者数の格差は大きく縮まって来ている。
 しかし現在のところ、MSO各社は多少減速したとはいえ、なお高料金の下でブロードバンド加入者数を伸ばしており、RHC各社に対する優位は揺らいでいない。さらに、最近発表されたOECD統計によれば、米国のブロードバンド加入者数は、2004年末、3725万に達し、2位、3位の日本(1909万)、韓国(1192万)を大きく抜いて第1位であるものの、人口100人当たりの加入者数でみると韓国(1位)はおろか、日本(8位)の後塵を拝した第12位という2桁台の順位である。この順位はIT・電気通信で世界のトップを目指している米国として、到底受け入れられるものではない。
 6月下旬、ブッシュ大統領は、商務省においてかなり詳しくブロードバンド推進の必要性を強調するスピーチを行ったが、これは多分、前述のOECDの統計数値を意識したものであろう。
 本論では、以上の諸点をさらに詳しく紹介する。

MSOを追い上げるRHC2社(SBC CommunicationsとVerizon)

 表1に、MSO、RHCそれぞれ上位4社における最新のブロードバンド加入者数(MSOはケーブルモデム、RHCはDSL)を示す(注1)。

表1 MSO及びRHCのブロードバンド加入者数の状況(2005年3月末現在、単位:万)
MSO
加入者数(増数)
Comcast
740(41)
TimeWarnerCable
412(21)
Cox
275(18)
Charter
198(9)
RHC
加入者数(増数)
Verizon
560(50)
SBC Com
390(30)
BellSouth
230(20)
Qwest Com
110(不明)
(括弧内の数値は、2005年1月から3月の期間の加入者増を示す)。

 上表から、(1)上位4社のMSOはいずれもブロードバンド加入者数の絶対値において対応するRHC各社に優っていること(2)それにもかかわらず、2005年第1四半期の加入者増では、RHC3社(不明のQwestを除く)がそれぞれ対応するMSO各社を凌いだことがわかる。すなわち、RHC各社は、料金の引き下げ、速度のアップ等により激しくRHC3社を追い上げており、2004年第4四半期に引き続き、ケーブルMSOを上回る成果を収めた。
 この結果、3年前には、ブロードバンドで65%のシェアを有していたケーブルMSOのシェアは、今期59%にまで低下した(注2)。なお、米国のブロードバンド加入者総数は、2005年3月末で約3800万程度に達した模様である。
 ところで、RHCからの攻勢を受けて立つMSOの側は、シェアの縮小にさほど動揺している様子もない。MSOのブロードバンド月額料金は、おおむね月額40ドルから50ドルの幅にあり、RHCの料金が30ドルから40ドルにあるのに比すれば10ドル程度高く設定されている。MSOからすれば、ケーブルモデムによるブロードバンドはそもそもDSLより高速なのであるから、料金が高いのは当然であるし、シェアが減りつつあるとは言っても加入者の純増が続いているのであって、収益を減らしてまで料金値下げを行う必要はないという考えのようである。
 事実、一部のMSOにおいては、すでにブロードバンドは大きな収益源となっており、総収入に占めるブロードバンドの地位は高まっている。たとえば、2005年第1四半期、最大手MSOのComcastは51億ドル(前年同期対比9.7%)のブロードバンド収入を上げたが、このうち9.25億ドル(前年同期に比し325%の増、総収入の18.5%)はブロードバンド収入であった。Comcastはブロードバンドの収支を発表していないが、多分、黒字であると見られ、この点、料金引下げを大きな販促手段としているため引き続き赤字を出していると見られるRHC各社とは好対照である(注3)。

大掛かり安値競争を仕掛けたSBC Communicationsとそのインパクト

 このように、MSOとRHCの競争が激化する最中にあって、SBC Communicationsは、2005年6月初旬、同社のDSLサービス(スピードが遅い1.5メガのもの)を月額26.95ドルから14.95ドルへと一挙に25%引き下げると発表した。この10ドル台のDSL料金は、米国での大方のダイヤルアップのインターネット接続サービス料金(たとえばAOLのダイアルアップ料金は月額23.90ドル)を下回る低水準である。また、これまで米国のDSL料金は、国際的に見て割高であると批判されてきたところであるが、この料金水準なら、日本・韓国等と並び、世界で最低の部類に属するものであろう。
 このSBC CommunicationsのDSL料金大幅引き下げは、アナリスト、他のRHCから、コストを無視した料金競争を誘発するものとして、強い批判を受けた。しかし、SBCCommunicationsの立場からすれば、RHC最大のDSL提供業者として今後もMSOに対抗して、ブロード分野での主導権を確保していく上に、どうしても料金値下げに訴えざるを得ない次のような理由があった模様である。
 SBC側は、DSLサービスの戦略的重要性を強く意識しており、DSLの固定顧客を確保しておけば、これら顧客に対しては、さらにその他さまざまのブロードバンド、IT関連の諸サービスを販売できると見ている(注4)。このためSBCは、自社のダイアルアップによるインターネット利用加入者をDSLの利用者に誘導したいわけである。さらにMSO加入者を自社加入者に転換できればとの意欲も強く有している。この点について、SBC消費者マーケティングの上級副社長、Scott Helbing氏は、「消費者は、娯楽サービスについて、新たな選択、より高い価値を求めている。ケーブルテレビサービスの月額料金の引き上げが未だ進んでいる折から、顧客が計算をしてみれば、どの選択をすべきかは容易に判定できる」(注4)と述べている。
 また、今回のSBC CommunicationsのDSL料金引下げには、2005年5月末にテキサス州議会が、光ファイバーによるブロードバンド提供に当っての認可を地方自治体単位ではなく、州単位で一括して行えるようにする法案(Verizo、SBC Communicationsが強く可決されることを望んだ法案)の否決が影響しているものと見られる。この法案は、Verizon SBC Communications両社が、現在、強力に推進している光ファイバー架設による超高速ブロードバンドの商用化が規制上の障壁により、容易ならざる難関にぶつかっていることを予想させるものであった。SBC Comはこの法案の挫折により、光ファイバー敷設が計画より大幅に遅れることを計算に入れて、DSLの一層の推進を決意したものと筆者は考える(注5)。
 ところで、SBC CommunicationsのDSL料金値下げはすでに一部のRHC、MSOに多少のインパクトを及ぼしている。
 当初、SBCの料金引き下げを批判していたVerizonは、6月中旬、パッケージサービスの一部としてDSLサービスを利用し、オンライン申し込みをする加入者に限って、次の通り、料金を引き下げると発表した(注6)。

  • 3ヶ月間、19.95 ドルに(それまでは29.95ドル)
  • 6月13日から7月27日の期間、取り付け費用19.95 ドルを無料に

 MSOの側は、前述の通り基本的にはコストをカバーできる料金でRHCより優れたサービスを提供することで、RHCに十分に対抗していけると考えている模様であるが、一部MSOには影響が及んでいる。たとえば最大手のComcastは、相対契約において、特定加入者に対し、月額料金(通常月額35ドル)を3ヶ月間に限り14.95ドルにすると決定した模様である(注7)。

ブッシュ大統領、改めてブロードバンドの普及促進の重要性を強調

 他方、ブッシュ大統領は、2005年6月23日、商務省でさまざまのブロードバンド 設備を見学した後、ブロードバンドが米国の社会・経済にもたらす重要性を強調した(注8)。その主要点は次の通り。

  • ブロードバンドの普及は労働者の生産性を向上させ、経済を成長させる。
  • ブロードバンドをさまざまの手段(主流であるRHCによるDSLのほか、無線のWi-FiさらにはBPL(電力線利用ブロードバンド等)を通じて推進する必要がある。
  • ブロードバンド推進の目標は、2007年3月末までに米国民すべてがこれを利用可能にすることである(この点はブッシュ大統領が2003年次の年次教書ですでに表明済み)

 ブッシュ大統領が、このようにブロードバンド普及の必要性をかなり具体的に強調した背景としては、OECDが最近に発表した世界のブロードバンドに状況についての報告書の影響がある模様である。
 米国はブロードバンド加入者の絶対数では群を抜いて世界1であるものの、表2に示したとおり、普及率では第12位に過ぎず、しかも、3年前の4位から大きく後退している(注9)。IT・ブロードバンドの創始国であり、この技術により今後も世界をリードするとの強い意向を示している米国として、この低位の数字は我慢ができないということなのであろう。
 さらに、大統領は演説のなかで、ブロードバンド推進のため、RHCにフリーハンドを与えて、DSLリースの義務付けを解除したFCCの裁定に触れ、これを高く評価したことは注目に値する。この発言は、同大統領が、今後もFCCによるRHC寄りの政策(さらに具体的にいえば、RHC、MSOの両巨大事業間の競争を通じてブロードバンドを推進する政策)を支持するサインを送ったものと見ることができよう。

表2 上位12カ国のブロードバンド普及率(2004年末OECD発表資料、単位:万)
1、韓国(1)
24.9
7、ベルギー(5)
15.6
2、オランダ(7)
19.0
8、日本(11)
15.0
3、デンマーク(5)
18.8
9、フィンランド(14)
15.0
4、アイルランド(8)
18.8
10、ノルウェー (13)
14.9
5、カナダ(2)
17.8
11、スエーデン(3)
14.5
6、スイス(12)
17.3
12、米国(2)
12.8
(国名の次の数字は、2000年末のブロードバンド普及率。)

(注1)本表のMSOの数値については、2005.6.1付けhttp://www.cabledatacomnews.com,"Cable IP Phone Subscriber Count Reaches 1 Million"及び各社の2005年第1四半期決算発表時のプレスレリース、またRHCの数値については、各社の2005年第1四半期決算発表時のプレスレリースによった。
(注2)2005.5.15付けInvesters.com, "Battle for high-speed Net users intensifies"
(注3)2005.4.28付けComcastのプレスレリース、"Comcast Reports First Quarter 2005 Results"
(注4)2005.6.5付けFT,"Broadband providers battle for consumer dollar"
(注5)2005年6月初旬に、この件については、米国のジャーナリズムが大きく取り上げた、たとえば2005.5.31付けhttp://news.yahoo.com,"Verizon,SBC Find TV Venture a Tough Go"
(注6)2005.6.15付けVerizonのニュースレリース、"New Introductory Pricing and Superior Content Make Verizon Online DSL a Great Value in Broadband"
(注7)2005.6.7付けhttp://news.com,"Comcast can match SBC's deal−for a while"
(注8)2005.6.24付けhttp://www.infoworld.com,"Bush details broadband goal"
(注9)2005.6.16付けhttp:// money.cnn.com,"Broadband lag could hurt the US"から孫引き。


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