今回は、RHC3社(Verizon、SBC Communications、BellSouth)の2005年第1四半期決算報告から読み取れる主な事柄を紹介する。3社のうち、SBC Communicationsだけは、CingularWireless(同社が60%の資本を所有)の収支を決算のなかに含めていない。
本論では、同社のCingularWireless持分の収支を推計・加算して他の2社と同一次元による比較が行えるようにした。
2005年5月末、QwestCommunicationsは、数ヶ月にわたったVerizonとのMCI取得合戦に破れ、同社獲得を断念すると発表した。今後の規制機関の決定にもよるが、観測筋はおおむね2005年末か、遅くとも2006年始めには、(1)MCIのVerizonへの統合(2)AT&TのSBC Communicationsへの統合が実現するものと見ている。
上記の統合にかかわるVerizon、SBC Communicationsの両社は、今後それぞれ、互いに覇を競い合う巨大電気通信会社になるであろう。しかし、両社ともに財務状況が悪化している長距離電話会社を抱えることは、財務上は減益要因をもたらすこととなる。この要因がなくても、両社ともにDSLに加えて光ファイバーによるブロードバンドの推進に全力を注いでおり、これに伴う投資、PR等の費用が嵩んでいるところである。従って、両社の増収・減益基調は、今後少なくとも1、2年間は持続するものと考えられる。最近、両社はジャーナリズムを賑わすことが多いが、格付け機関の評価は低く、両社の株価が上らないのはこの理由による。
またBellSouthは、両社に比し事業規模が約半分に過ぎず、Verizon、SBCCommmunicationsとは異なり、適当な吸収企業を物色してこなかった。同社の将来性はいっそう暗く、早晩何らかの対応(多分、中堅通信事業者の合併あるいは提携)を迫られるだろう。
堅実に進むデータ・携帯電話事業への移行
まず、RHC3社の事業が、音声からデータ・携帯電話事業等新規分野にどの程度、移行が進んだかを次表(表1)に示す(注1)。括弧内は、2004年末(わずか3ヶ月前)からの増減数であり、3社が意図的に努力しているデータ・携帯電話分野への移行が急ピッチで進んでいるさまが伺える。
表1 新規事業への移行を示す指標(単位:万、2005年3月末、括弧内は2004年末からの増減数)
項 目 | Verizon | SBCCom | BellSouth |
長距離加入者数 | 1800(30) | 2200(110) | 650(40) |
DSL回線数 | 390(30) | 560(50) | 230(20) |
アクセス回線数 | 5220(-220) | 5240(+50) | 2120(-20) |
パッケージ率 | 58%(+2%) | 64%(+3%) | 不明 |
携帯加入者数 | 4550(+164) | *3024(+84) | *2016万(+56) |
* SBCCom及びBellSouthの携帯電話加入者数は、Cingular Wirelessの携帯電話加入者数
5040万を同社に対する両社の株式持分比率、それぞれ60%、40%により配分したものであって、
両社が発表した数字ではない(注2)。
表1より、次の諸点が読み取れる。
新規事業への移行のテンポがもっとも早く、これまで最強と考えられていたVerizonを追い抜いたのは、SBCComである。Verizonは上表5項目のうち、4項目において、Verizonに追い抜かれてしまった。しかも、唯一、SBC Comより優っている携帯電話加入者数も、事業運営体単位で見ると、周知のとおり、Cingular WirelessがVerizon Wireless(Verizonの携帯部門を運営する子会社)を加入者数で上回っている。
Verizon、SBC Comの長距離加入者数は、その増勢は鈍ってはいるものの、依然、増加を続けている。売上げ高では、はるかに及ばないにせよ、加入者数においては、ほぼ、AT&T、MCIに追いついているはずである。Verizon、SBC COMは、それぞれ、MCI、AT&Tを買収することで、当事者間で合意が成立したが、すでに主としてMCI、AT&T住宅用加入者の事実上の吸収は着々進んでおり、吸収合併の既成事実化が進んでいるといえよう。
表1から見ても、BellSouthの新事業への展開のテンポは相変わらず鈍い。2大長距離電話事業者をそれぞれ手中におさめるVerizon.SBC Comの両社がこれら事業者とのネットワークの統合を完了し、米国全土を対象として本格的な市場争奪に乗り出してくる暁には、BellSouthは、すでに赤字に悩まされている今ひとつのRHC、Qwest Communicationsとともに、財務の決定的な悪化に見舞われる危険性がある。
Verizon−対照的な固定通信部門の不調と携帯部門の好調
次表(表2)に、最近のVerizonの収入状況を示す(注3)。
表2 2005年第1四半期、2004年第1四半期、2004年第4四半期におけるVerizonの部門別収入(単位:億ドル)
項 目 | 2005年第1四半期 | 2004年第4四半期 | 2004年第1四半期 |
国内有線通信 | 95(-2.1%) | 97 | 96 |
携帯電話 | 74(+1.4%) | 73 | 62 |
情報・海外 | 13(0) | 13 | 13 |
総 計 | 182(-0.6%) | 183 | 171 |
(2005年第1四半期の括弧内数値は、前期(2004年4四半期)に対する増減率を示す。)
Verizonは2005年第1四半期の決算報告において、同社の純利益は前年同期純利益の12億ドルに対し18億ドルと、63%増加したと発表した。確かにこの利益額だと純利益率は10%(米国では純利益率が2桁台に入らないと成長企業とはみなされない)に迫り、この数字だけを見れば、同社社長Seidenberg氏が誇示するように、Verizonは幸先の良い2005年のスタートを切ったといえる(ただし4半期ごとの純利益はさまざまの操作 - たとえば負債償還計上の時期繰越等 - により、かなり調整できることも勘案する必要がある)。
問題なのは、未だ事業の中核を占める国内有線事業である。この部門は、減少する音声通話収入をデータ収入の増で補い、2004年度にはようやく、わずかながら増収ベースになるところまで持ち込んだ。しかし、2005年第1四半期には、前期に比し2.1%の減少を示し、これまた意外に不振であった携帯電話収入(VerizonWirelessの収入)により補いを付けることができず、総計で0.6%の減収を招いている。
この収入の微減は、前項の表1で紹介した新規事業への移行を示す諸項目において、Verizonの数値が特にSBC Comに比して軒並み劣っているのと、密接に関連する。次項以下で述べるとおり、RHC他社のSBC Com及びBellSouhは、両社ともに前期に比し、収入は伸びており、Verizonとは対象的である。
固定通信部門が停滞しているのに比し、Verizonの携帯部門(Verizon Wireless)は、きわめて強力である。ライバルのCingularWirelessが2004年末、AT&TWirelessを吸収合併したため、加入者数において同社に首位の座を譲りはしたものの、2005年第1四半期、サービス水準の高さ、取消率(チャーン)が低く、しかも毎期改善を続けていること等において、Verizon Wirelessは、米国においてもっとも優秀な携帯電話会社だと評価されている。
Verizonは、国内有線部門と携帯部門との純利益の分計を発表していない。しかし、携帯部門の営業利益率20.8%は、国内有線部門の営業利益率16.9%を大きく上回っている点が注目される。後述するとおり、今期Cingular Wirelessがわずかながら赤字を計上したのと対照的である。
いずれにせよ、他社に比して有線通信部門が冴えないものの、成長を続け利益率の高い携帯部門を有している点が、SBC Communications、BellSouth(CingularWirelessにそれぞれ60%、40%の資本を有する)に比しVerizonの最大の強みである。
SBCCommunications - 効を奏している有線通信部門の強化策
表3に最近のSBC Communicationsの収入状況を示す(注4)。
表3 2005年第1四半期、2004年第1四半期、2004年第4四半期におけるSBC Communicationsの部門別収入
(単位:億ドル)
項 目 | 2005年第1四半期 | 2004年第4四半期 | 2004年第1四半期 |
有線部門 | 102.5(-0.4%) | 102.9 | 93.8 |
携帯電話 | *49.4(+15.7%) | *42.7 | 23.8 |
総 計 | 151.9(+4.0%) | 145.6 | 117.6 |
(2005年第1四半期の括弧内数値は、前期(2004年第4四半期)に対する増減率を示す)
* CingularWireless収入の60%を計上した。
表3と前表(表2)を比較すると、SBC Communications有線部門の2005年第1四半期の収入は、ほぼVerizonと同等の規模になっていることが明らかである。SBC Communicationsの有線部門は、前期に比し微減(-0.4%)であるが、第1四半期が第4四半期に比し、日数が2日少ない点を勘案すると、実質的には微増であったとも考えられる。これに対しVerizonの有線部門は-2.1%と明らかにSBC Communicationsに比し、減少率が高く、今期の総収入が前期に比し減となった原因の一つとなっている。
次に、SBC Communicationsの携帯電話部門は、前年同期に比し、大きく収入が増えた(23.8億ドル→49.4億ドルへと207.6%の増)が、これはもちろんCingular Wireless(AT&TWirelessより収入が大きかった)を取得した結果によるところが大きい。
最後に、表3には計上していないが、SBCCommunicationsの純利益は、2005年第1四半期に前期の19.37億ドルから8.85億ドルへと54.3%減少した。この数値は、Cungular Wirelessの純利益を含んでいないものである。この期、同社はCingular Wirless(持分60%分)で推計49億ドルの損失を出している。この損失分を加えると、純利益額はさらに減少することとなる(注4)。この損失の多くは、AT&TWireless合併に伴う諸経費分計上にともなう点が大きいであろうが、ともかくSBCCommunications及びBellSouth両社は、今後Cingular Wirelessの収支改善を大きく迫られることとなろう(注5)。
BellSouth - 堅実経営により辛うじて現状を維持
表4に最近のBellSouthの収入状況を示す(注6)。
表4 2005年第1四半期、2004年第4四半期、2004年第2四半期におけるBellSouthの部門別収入(単位:億ドル)
項 目 | 2005年第1四半期 | 2004年第4四半期 | 2004年第1四半期 |
通信グループ | 45.2(-0.7%) | 45.5 | 44.9 |
その他グループ | 5.0(-0.6%) | 5.3 | 4.9 |
携帯グループ | 32.9(+15.7%) | 28.5 | 15.9 |
総 計 | 83.1(+4.7%) | 79.3 | 65.7 |
(2005年第1四半期の括弧内数値は、前期(2004年第4四半期)に対する増減率を示す)
上表によれば、BellSouthは2005年第1四半期に、前期(2004年第4四半期)に比し、携帯グループの収入(Cingular WirelessへのBellSouth持分40%分が計上されている)が大きく伸び、その他通信部門・電話番号部門等の減少を補いあまりがあった。
ただし利益は、前期の8.88億ドルから7.19億ドルへと19.1%の大幅に減少している。これは、SBC Communicationsの場合と同様、AT&TWirelessをCingular Wirelessに統合するに要する経費が多く掛かったことによるものであろう。
(注1) | 新規事業への移行を示す指標を列挙しての分析は、本年3月にも2004年次決算についても試みた。2005年3月1日号テレコムウォッチャー、「寡占化が強まる米国電気通信市場 - 2004年次の決算から」 |
(注2) | 2005年3月15日号テレコムウォッチャーの表3には、2004年末の同一指標についての数値が掲載されているので参考にされたい。なお、この表3では、SBC COMのアクセス回線の数値を誤表記(5190とすべきところを4150)してしまった。ここで訂正させていただく。 |
(注3) | 2005.4.25付けのVerizonのプレスレリース、"Verizon Reports Continued Strong Results With EPS Growth of 8.6%, Revenue Growth of 6.6%."及び、同日付け"1st Quarter 2005 Earnings Conference Call" |
(注4) | 2005.4.25付けのSBC Communicationsのプレスレリース、"Invester Relations"、及び同年4.20付けのCingular Wirelessのプレスレリース、"Cingular Wireless Posts Solid First-Quarter Results" |
(注5) | SBC Communicationsは、2005年第1四半期の携帯部門の赤字額を0.43億ドルと発表しているので、この数値を基にして推計した。 |
(注6) | 2005.4.21付けのBellSouthのプレスレリース、"BellSouth Reports First Quarter Earnings"、及び同年4月20日付けのCingular Wirelessのプレスレリース、"Cingular Wireless Posts First-Quarter Results" |