DRI テレコムウォッチャー


Verizon 、FiOSTVの準備に懸命

2005年5月15日号

 Verizonは、現在12の州における特定の地域で、2004年後半以来、FiOSプロジェクト推進のための光ファイバー引き込み工事を実施中である。同社は、2004年中に9つの州について、さらに2005年には残りの3州についても工事を開始した(注1)。
 Verizonの2004年末における光ファイバー利用可能加入者数の目標は100万であった。2005年に入り、3ヶ月を経過した今日、Verizonは2004年目標の達成数値について沈黙を守っている。ただ、同社のこの目標は達成できなかったはずだとの報道もある(注2)。Verizonの2005年末の光ファイバー利用加入者も目標数は300万であるが、すでに紹介したSeidenberg氏のケーブル業界における講演でも、この数値は絶対に達成すると約束している。
 Verizonは、慎重にもFiOSサービス(高次インターネットとFiOSTVの双方について)利用加入者獲得数の目標を示していない。多分、同社は、電気通信事業者がケーブルテレビ業界の市場に殴り込みを掛けて自らが放送事業者を兼ねる(言い方を換えれば、これまで通信事業者が敬遠してきたコンテンツ事業に深くコミットをして、エンタテインメント事業者になるという蛮勇を奮っての決断を実行する)という1大事業を推進するに当って、当初から獲得加入者の規模を想定できないと考えたためであろう。
 ところで、サービスの提供をいつから開始するかという点について、Verizonがモデル地区として指定したテキサス州Keller地区ですら、まだ明確なデッドラインを公表していない。ある報道では、2005年夏ごろ、高速ブロードバンド・インターネット・サービスは開始されると報じている。(注3)。

 VerizonのFiOSプロジェクトの取り組みは、2005年最大の米国電気通信字業界の出来事であるだけに、その準備の状況、VerizonのCEO、Seidenberg氏の発言、最近における同社のビデオ・コンテンツ取得についてのコンテンツ業者(ケーブルテレビ事業者、放送事業者、映画会社等)とのコンテンツ提供契約の提携、ケーブル業界、1部地方自治団体等からのFiOSプロジェクト推進に対する反発等についての記事が相当数、主としてネット上で入手できる。
 わが国でも、ライブドアによるニッポン放送株買占めの試みと関連して、にわかに「放送とインターネット」の融合の可能性が議論されるようになって来た。ソフトバンクの孫正義氏も、将来、放送業界と組んでInternetTVを提供したいとの抱負を語っている。わが国最大の電気通信事業者であるNTTは、終始一貫、放送事業への進出の意図はないと断言しているので、米国との比較では、ケーブルテレビと同等のサービスを提供しようとしているVerizonのFiOSの他、SBC CommunicationsのProject Light Speedの動向にも、今後、目が離せない。Light SpeedはFiOSと異なり、InternetTVサービスを主体とする考えだからである。もっとも、SBC Communicationsの目標は利用加入世帯こそ1800万世帯と大きいが、光ファイバー工事の終了を2007年末としており、実施はFiOSより2年遅れる(注4)。
 上記のような状況であるので、テレコムウォッチャーでは今後、FiOSプロジェクト、Light Speedに関する報道を継続して行っていくこととするが、今回本論では、報道量が多いVerizonによる最近のコンテンツ取得の動きを紹介することとしたい。

VerizonCEOのSeidenberg氏、米国放送業界にFiOSの意義を強調し協力を要請(注5)

 2005年4月18日、Verizon社CEOのSeidenberg氏は、米国放送事業者協会(National Convention of Broadcasters)で講演した。この講演の中で同氏は、FiOSおよびVCAST(2005年2月にVerizonが開始した3G携帯電話サービス)がいかに画期的な技術であってユーザに目覚しいサービスを提供できることになるか、また、このサービスを提供するに当っては、同社が大量のソフトを必要とすること、また、現在の自治体単位の放送免許取得に多くの手数、期間を要するのを改善するため、放送事業者の支援を必要とすると述べた。また、Seidenberg氏は、地域の顧客との関係を改善するためデジタル技術通信業界と放送業界がパートナーを組むのはごく自然のことであると強調している。
 こうして同氏は、FiOS推進に当たり、今や強敵となったケーブル事業者、また、必ずしもFiOSサービスに理解があるとは言えない一部地方自治体との対抗関係のなかで、放送業者との提携を強く呼びかけた。Seidenberg氏の講演のポイントは、以下の通り。

FiOSおよびVCASTの意義:FiOSにより下り100Mbps、上り5Mbpsの高速ブロードバンドを提供できる。これは、米国でスピードが最も速い双方向ブロードバンド・ネットワークである。従って、FiOSは、ケーブルテレビ会社が提供しているビデオサービスの強力な代替サービスとなろう。
 さらに、VerizonはV CASTサービスを提供している。これにより、利用者は、2005年末には1500万の携帯電話加入者がテレビ、映画、音楽、3Dゲームを享受できるようになっている。

放送業界の有するコンテンツの能力とVerizonの伝送能力の結合:Verizonは、FiOSによりあらゆる種類のローカル・コンテンツ、HDプログラミングを伝送する容量を提供できる。たとえば、家族のメンバーは、同時に(1)テレビの画面を見る(2)インターネットでメールを送受する(3)3Dのゲームを楽しむといったサービスが享受できる。
 従って、今後、RHCは、放送業者からのコンテンツ購入について、ケーブルテレビ事業者に優る買い手となる立場にある(注6)。

放送免許取得についての手続き簡素化について放送事業者に対する協力依頼:Verizonは、FiOSにより放送事業に進出するに当って、それぞれの地方公共団体から免許を取得しなければならない。もちろん、Verizonは、電話事業運営についての免許を有しているので、いわば、この免許は第2次の免許である。
 この免許取得を地方公共団体ごとに行うことは、煩瑣であるし、期間も掛かる。Verizonは、もちろん、この努力を継続するものではあるが、同時に、免許取得を州あるいは、連邦段階で一括して行えるようにしたいと考えており、この件についての働きかけを行っている。この件に関しての放送事業界のご支援をお願いしたい。

コンテンツ取得について放送事業者、映画会社との提携を推進するVerizon(注7)

 Verizonは、すでにコンテンツの入手について2004年後半以来、努力を続けている。その第一着手は、同年9月にICCI(Insight Communications Co)からマルチ・メディア業界、とりわけコンテンツの売買に通暁しているTerry Denison氏をスカウトしたことであった。Denison 氏は、現在、Verizonのビデオ番組、コンテンツ・マーケティング担副社長として、FiOSTVのコンテンツ整備に全力投球している。
 2005年3月から4月に掛けて、Verizonは、幾つもの放送会社、ケーブルテレビ会社と交渉し、コンテンツ利用についての契約(年数が明らかになっていないが、長期契約らしい)を結んでいる。
 その最大のものは、4月18日、NBC Universal Cable Channel(大手放送会社NBCの子会社)との契約であった。
 契約内容は明らかにされていないが、原則として、NBCが有するすべてのテレビチャンネル、商用に供しているコンテンツの利用権を提供するもののようである。 コンテンツ利用料も不明であるが、Denson氏は、他社のコンテンツ利用に当たっての政策として、他の大手テレビ会社、衛星通信業者が契約した料金を上回る料金を支払う用意があると言明している。
 上記NBCの提携と相前後して、Verizonは、Starz Entertainment Group(ケーブルテレビ会社Liberty Mediaの子会社で13チャネルの映画番組を提供)、Movielink(ペイテレビ用各種映画番組を提供)、A&ENetworks(テレビショウ提供会社)等とコンテンツ配信についての契約を提携している。
 さらに、もっとも最近のものとしては、Verizonは、Showtime Network Inc(Verizonが有するビデオ・ソフトを供給する同社子会社)と長期のソフト利用契約を結んだ。これは、その社名が示唆するとおり、テレビ・ドラマ(11チャンネル分)はもとよりのこと、HD向け、ビデオ・オン・デマンド向けのビデオの提供をも含む包括的な契約である。
 Showtime社副社長のMark Greenberg氏は、「当社は、テレビ番組配送の分野で、Viacomが大手業者の地位に立つ体制ができたということで、喜んでいる。また、Verizonも旧来の顧客から高い評判を得ている諸サービスに加え、手頃な料金で顧客に高速ブロードバンドによるビデオ・サービスが提供できることのなる」と述べ、今回の契約が、両社に取り、ウィン・ウィン・ゲームである点を強調している。
 Denson氏は、コンテンツの充実を図るため、今後も他業者との提携を進めると言明している。大手ケーブル・テレビ会社は、ペイテレビをも含めると100チャンネルものビデオ・コンテンツを入手しているのであって、これに対抗するためには、さらにVerizon、他業者にもアプローチする必要があるということであろう。


(注1)12州は、次の通りであるが、そのすべてが本来のVerizonの営業エリアであるわけではないことに注目されたい。同社の営業エリアは米国東北部13州に及んでいるがFiOSの設置地域は8州であって残り5州は対象から除外されている。また、SBC Communicationsの本来の営業エリアである州が3州、BellSouthの営業エリアが1州含まれていることに注目。FiOSは、本来的に大手ケーブルテレビ会社に対する侵攻作戦を主な狙いとしているが、同時にRHC、SBCCommunications.BellSouthに対する攻勢でもある。
Verizonの本来の営業地域:デラウェア、マサチューセッツ、ニューヨーク、ペンシルバニア、ロードアイランド、バージニア、ニューハンプシャー、メリーランド(計8州)SBC Communicationsの本来の営業地域:テキサス、カリフォルニア、インディアナ(計3州。BellSouthの本来の営業地域:フロリダ(計1州)
(注2)2005.1.24付けLight Reading, "Tracking Verizon`s FTTP Progress"
(注3)2004.5.19付けLight Reading, "Verizon Flaunts Fiber Plan"
(注4)2004年12月1日号テレコムウォッチャー、「大手RHC2社、社運を賭して光ファイバーブロードバンド推進へ」
(注5)本項については、2005.4.18付けVerizonのプレスレリース、"Verizon FiOSTV Will Offer a New Customer Experience ,Seidenberg Says"及び、同日付けのEE Times, "Verizon chief says carriers poised for video growth"を主として参照にした。
(注6)この部分の説明については、2005.4.4付けNew York Times, "Increasingly,The Bells See Their Future On a Screen"も利用した。従って、正確にはSeidenberg氏自身の説明でない部分が混在した点をお断りしておく。
(注7)本項では、幾つものネット情報を使用した。その主なものは次の通り、 2005.5.2付けBusinessWeek online,"Verizon's Video Vision"
2005.4.22付けClnet.News.Com,"Verizon racks up more TV deals"
2005.4.20付けYahoo!News,"Verizon TV service to have NBC Universal"
2005.4.21付けClnet.com,"Verizon calls メactionモ on movie downloasds
2005.4.26付けShow Timeのプレスレリース、"Verizon Signs With Showtime for Premium Movie Services"

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