DRI テレコムウォッチャー


事業者間接続料金制度の抜本的刷新の決断を迫られるFCC
-Bill and keep方式は採択されるか-


2005年5月1日号

2005年3月3日、FCCは業者間相互接続補償に関する第2次調査を開始した(注1)。PowellFCC委員長は、同月17日に辞任したので、この調査告示が同委員長の下における最後の大きな調査告示の発出であったこととなる。
 ところで、この調査告示は、
20014月にFCCが開始した業者間相互補償に関する調査の継続である(注2)。
 第1次調査の開始に当りFCCは、2つの改正案を提示し、利害関係者の意見を求めた。第1は、現行の相互接続制度(発着信事業者が相互に着信通話接続に伴うコストを相手方事業者から分単位の事業者料金により徴収し合う方式)をベースにして、これを統合し、また、適用範囲も広げる(たとえば、従来は除外されていたISPに事業者料金を課することとか)というものである。第2はBill and keepという抜本的な事業者料金制度の改革案であって、発信側加入者にそれら加入者が属する発信事業者コストのすべてを負担させる(具体的には、発信事業者が発着トラフィックの取り扱いに要したすべてのコストを自社加入者に課金し、徴収する)ものである。
 2次調査告示は、第1次調査開始以来、4年近くを経過するもののFCC委員の意見がまとまらず(深刻なことに、Bill and keep方式により調査の終結を強く主張するPowell前委員長と採択を焦らず、今一度利害関係者の意見を聞くべきであるとする他のFCC意見が対立)、退陣を前にしたPowell氏は多数委員に押し切られ、第2次調査開始に賛同せざるを得ないという背景の下で発出された(注3)。
 2次調査告示では、問題のBill and keepは、FCC自体の提案からFCC有線・競争局のスタフの個人提案という形で、調査告示のなかに組み込まれ、いわば、第1次調査のときより格下げとなった。FCCは新規則が備えるべき4件の要件を提示した上で、第1次調査時に利害関係者から寄せられた意見のうち、7件を紹介し、これら意見についての利害関係者の意見を求めることとした。 利害関係者からの意見提出は、調査開始後60日間、FCCは、これら意見に対し、その後30日で回答を出すこととなる。

   事業者間相互接続(筆者注:FCCは今回、この言葉を使ったが、これは、200412月に一応の解決を見た「市内アクセス」区別するためであろう。俗には、相互接続も“アクセス”と呼ばれることがある)は、米国だけでなくわが国でも、欧州でも、事業者が受け取る収入、一般電気通信料金に大きく影響するために、業者間ではなかなか決定できず、常に電気通信規制上の最大案件の1つである。さらに、国際料金においては、事業者接続料金の水準、清算は長年にわたり確立した制度となっている。また、特に、米国においては、事業者接続料金のなかには、ユニバーサルサービス確保の観点から、ルーラル地域、高コストの通話地域に対する資金の補助(ユニバーサル基金への拠出という形で)が含まれているため、ルーラル地域電気通信事業者(RLEC)は、きわめて高い関心を有している。

 このように相反する思惑を有する利害関係者の関心が高いため、今回発出された第2次調査案件の調査審理も難航するものと見られる。 本文では、本調査の目的、第1次調査で寄せられた利害関係者意見の概要、Bill and keepに対する評価、今後の調査の見通し等について解説する。 

FCCが示した新規則の目的及び新規則が備える要件(注4)

 現行のキャリア間相互接続料支払い方式(分単位、従量制)は、キャリアの種類、サービスの種類(市内、市外、固定、携帯等)ごとに異なっており、またサービス提供のコストと関連がないものである。しかも、インターネット、定額制のパッケージ・サービス等の新サービスは対象から除外されている。この古色蒼然たる現行制度を競争市場、新技術に適合した単一の制度に置換へるのが、FCCの目的である。

 2001年にFCCが開始した本件に関する第1次調査の過程で提出された共通的な利害関係者からの意見から引き出された新たな支払い規則の共通要件は、次の4点である。   

競争を促進し、ネットワークの効率的使用ができること
  ルーラル地域に住むユーザーに手ごろな料金によるサービス提供を可能にするユニバーサルサービス支援の体制を保持すること
技術、競争の観点からして中立的な内容のものであること
  規制機関の関与が最小に留まるべきものであり、1996年電気通信法に定められた競争・規制撤廃方針に添ったものであること。詳細な規定、規則を要請するシステムより、業者間協定に委ねる方がよい場合もありえよう。

  第1次調査期間中にFCCに寄せられた主要意見 

 FCCは、さらに、FCCの相互接続料金提案について、回答を寄せた7つの事業者、団体の名称、及びこれらの簡潔な提案の要旨を掲載した。

 次表は、その翻訳であるが、ICF,EPG,CHICCについては、これら3社からのFCCに対する回答の要約が入手できたのでこれに基づき筆者が補足した(FCCの第2次相互接続提案には、より詳しい説明があるが、詳しすぎて要約に時間を要するので利用しなかった)。 

表 FCCが提示した7意見提出者及びその意見の要旨

組織名・事業社名

意見の概要

*1 ICF

Bill and keepに賛同

具体的には、次のように3年計画で相互接続料金を廃止する。
l
 諸種のキャリアを同一の規制対象下に置く(新制度のスタート、2005.7.1
l
 すべてのキャリアについて、新制度に移行(2008.7.1日)
l
 着信相互接続料金をゼロにする(全面実施、20117.1日)
l
 相互接続料及びSLC(電話加入者がユニバーサル・ファンドのために月々負担している付加料金)の引き上げでユニバーサル・ファンド不足分を補う。
 なお、上記第3項について
RLECには例外を認める。

*2 EPG

FCCRLECの今後のコスト増大に応じるべきであって、EPGは次のステップによる措置を提案。なお、Bill and Keepには、絶対に反対。

 1段階(可及的速やかに実施)
  現行制度を継続のほか、ISPの接続料支払いを義務化
 第
2段階(2005年7月1日)
  
ARC (Access Restructure Charge)のシステムを導入(訳者  
    
注:ルーラル地域事業者の要望を入れた補助資金の引き上げを意味する)
 第3段階(
ARC導入2年後)
 *3 パケット方式進展に基づき、接続料金の算出根拠を従量制から、回線容量方式に変更

4 ARIC ARICの計画書(FACTs:Fair Affordable Comprehensive Telecom Solution)では、従量制料金を埋没コスト方式の計算に統一することを提案
*5 CBICC

すべての種類のトラヒックについて、着信コスト計算に基づいた接続料金制度を提唱。なお、埋没コストは提案せず、マージナルコスト方式のTERLICを主張。

なお、CBICCは、強力なBill and keepに対する批判を展開した。
*6 Home/PBT 現行接続制度での従量制課金を回線に対する課金に変更すべきである。
7 Western Wireless 4年かけて、Bill and keepを実現する。
*8 NASUCA 5年かけて、一部相互接続料金の引き下げを提案
*1ICF (Intercarrier Compensation Forum)は、キャリア有志9社による相互接続料金改定を検討のするため設立された組織。構成メンバーは次のとおり。 AT&T Corp, General Communications, Inc. Global Crossing North America ,Inc. ,MCI Communications, Inc. SBC Communications Inc.  Iowa Telecom  Level3 Communications, Inc. Sprint Corp. Valor Telecommunications
*2EPGExpanded Portland Group)は、RLEC(Rural Local Carrier)及びRLECの地域で営業するコンサルタント・グループの連合体である。
*3FCCプレスレリースは、EPGの意見として、この料金算出方式の変更提案にみに触れている。
*4ARIC(Alliance For Rational Carrier Compensation) は、高コスト地域における規模の小さいRLECを代表する団体である。
*5CBICC (Cost-Based Intercarrier Compensation Coalition)は、CLECが組織した団体である。
*6Home Telepfone Company及びPBT Telephoneは、共に、RLECである。
*7NASUCA (National Association of State Utility Consumer Advocates)は、州公益事業を対象にした消費者団体である。

第1次調査意見の分析―特にBill and keepについて  

4グループに分かれる意見  

表1で紹介した7つの意見は次の4種類に集約されよう。

1. ICF/Western WirelessBill and keepに賛成
2. CBICC:Bill and keepに反対、現行制度を基礎にしての具体的な刷新案を提示
3. EPG/ARICRLECであるこの2社は、ルーラル市域キャリアの設備の近代化等の必要性を力説、ユニバーサル・ファンドに対する補助金の増額を提案
4. Home TelephoneCompany/PBT Telephone:マイナーな提案(回線容量・回線数に基づいた課金の提唱、一部相互接続料金の引き下げ)

 FCCは、現行のユニバーサルサービス制度を保持する旨言明しているものの、補助金を増額する意図はさらさらないので、2は、無視してよかろう。また、4もマイナーであるので、当面、本論では考慮外においてよい。
 結局、今後、利害関係者の意見提出となる主な提案は、
(1)RHC及び長距離通信事業者の一部をバックとして、期間をかけてではあるが、Bill and keepへの移行を意図するICF/Western Wirelessのグループ及び(2)Bill and keepを否定し、現行制度をベースに改善を図ることを意図するCBICCの意見となる。
 従って、第2次調査のポイントは、第1次調査のときに
FCCが諮問した項目に対する諮問の繰り返しにほかならない(FCC提示の2提案をICF/WesternWireless及びCBICCが代行するという形で)。 

Bill and keepに対する是非論  

 FCCスタフは、今回の調査告示の付録Cにおいて、13ページにわたり、Bill and keepシステムのもたらすメリットを力説している(注5)。
 まず、
FCCスタフによるBill and keepの定義を次に示す。
Bill and keepは、料率をゼロにした統一的な事業者間接続料金補償制度である。Bill and keepの制度の下では、キャリアは、発着信トラヒックに対し業者間料金を支払わない。キャリアは、自社の加入者から発着料金のコストを徴収する。」  

 
FCCスタフのコメントは詳細にわたるので、ここでその内容を逐一紹介することは避ける。ただ、スタフが自画自賛するように、確かに、この改革案は、すべてのキャリアを平等に扱う統合的な仕組みであることは確かである。なにしろ、旧来の制度を廃止して、そのすべてを発信事業者の料金設定にゆだねてしまうのであるから、当然至極のことといえよう。市場原理主義者、PowellFCC委員長がいかにも、好みそうな提案ではある。
 
Bill and keepに関して、われわれ凡人は、すぐさま、発着信トラヒックが均衡している場合には、発着信事業者のコールは相殺されるから業者間の着信通話取り扱いのコストゼロと考えてよいが、現実に、トラヒックに相違があるからこそ、現在のシステムが必要であると考える。しかし、この点について、FCCスタッフは、そもそも、通信は、発信者、着信者の双方があって成り立つものであって、特定の通信事業者の加入者がこの受益の対価を発着通話のコストとして料金の形で負担するのは当然だとの新理論を主張しており、特定2通信事業者間の発着トラヒックの不均衡は、Bill and keepの実行になんら影響しないとの立場を取る。
 ところで、
Bill and keepについては、CBICCが、実に要領良くしかも説得力がある批判を展開しており、私は、Bill and keep批判は、この論で尽きていると考える(注6)。
 
ただ、一点、CBICC意見でBill and Keepは、業者間ネットワークの相互接続義務と相互接続料金の相互支払いを定めた1996年電気通信法251条に違反すると指摘している点は重要である。結局、Bill and keepは、仮に、コンセンサスがFCCで得られても、通信法の改正を待たずには実施できないと考えられる。さらにいえば、国際通信についての料金清算制度は国際規約に基づいて行われている。このため、仮に国内で相互接続料金を廃止し、国債通信の料金精算制度を放置したとすれば、国内・国際の双方のシステムが乖離するとの矛盾が生じる。 

 今後の見通しー加熱が懸念されるBill and keepの是非をめぐる論議

   さて、今後この、第2次調査はどう推移するであろうか。この調査の1つの提案であるBill and keepに対しては、たとえば、(1)CLEC,RLECから、強烈な反対を受けること(発信トラヒックに比し、着信トラヒックが多いこれら中小業者は、相互接続料金による収入を加入者に転嫁することが出来ない)。(2)現在、幾つもの地方公益事業委員会において、Verizon,SBC Communicationsからのプレシャーにより、両社の市内通話料金を引き上げる動きが見られる。通話利用者の側からしても、これにBill and keepのインパクトによる料金の引き上げを受容するゆとりはない(この件については、いずれ、テレコム・ウオッチャ−において論ずる予定である)。(3)すでに触れたように、1996年電気通信法違反の批判を受けることも確実である(第2次調査のなかで、FCCはすでに、この点については、「規制の差し控え」の論理で逃げる手もあるとのほのめかしを行っているが、あまりにも姑息の手段である)等の点からして、FCCは導入を避ける方針を取るだろう。FCC第2次調査の見通しについて、米国のジャーナリズムは論じたものは、今のところ少ない。筆者が目にしたあるネットの資料によれば、さるコンサルタント会社(Regitsky & ssociates)の社長のRegitskyは、主としてバランス・オブ・パワーの観点及び新FCC委員長Martin氏の戦略からして、FCCは、たとえ、内部のスタフ、ICFをはじめとする 強硬派の圧力があっても、Bill and keepの採択は避けるだろうとみている(注7)。ちなみに、現在、9つのキャリアを会員としていたICFは、発足当時、Verizon初め他のキャリアを含んでいたが、その後、会員の脱落が多く、今日に至っている。 

 ただ、電気通信事業者をめぐる市場環境が従来と抜本的に変化した今日、RHCに対する規制を全面的に撤廃すべきであるとの主張(この主張に基づけば、事業者間料金の規制撤廃を目指すBill and keepの導入の方向も当然に歓迎ということになる)は、RHCだけでなく、米国の財界の一部からも強い支持を受けつつある模様である。最近、この方向に向けての電気通信規制の改革を認める組織、“TeleConsensusが発足した。米国商工会議所が主導し、RHC3社(Verizon,SBC Com,BellSouth,National Cable&Telecommunications Association,(ケーブルテレビ会社の利益を代弁する団体、最近、Telecommunicationsを入れ、改称した)National Association of Manufacturers(米国機器製造業者協会)等を会員とするこの団体は、FCC第2次調査においても、強くBill and keep方式の採択を主張することが予想される(注8)。
 
従って、筆者あるいはRegitsky氏の観測は甘く、第2次調査において、両極の意見はますます対立することになるのかもしれない。

 FCC第2次調査は、片や、Bill and keepの採択(事業者料金も含め、通信料金の全面撤廃を認める主張と言い直してもよい)を強く迫る財界主流、RHC,ケーブル事業者、通信機器メーカ、片や、コストをこれまでどおり、事業者相互間でそれぞれの着信トラヒックに応じ、適正水準の料率適用により徴収する現行方式を維持すべきだとするCLEC,RLEC,消費者団体、それにおそらくは大部分の週公益事業委員会の熾烈なFCCへの働き方を通じ、この両極の厳しい意見対立のなかで、進行する可能性も大いにある。  調整能力抜群との期待のなかで、登場した新FCC委員長の力量が問われる調査ではある。

(注1) Further Notice of International Compensation” 2005/3/3
(注2) Developing a unified Intercarrier Compensation Regime” 2001年4月
(注3)

2次調査開始に当って、Martin委員(共和党の現FCC委員長)を除く4名のFCC委員が意見発表を行った。これら意見発表で特徴的であるのは、(1)発表者全員が、現行の事業者間料金補償制度は、市場の急激な変化に追いついておらず、抜本的かつ早期の改定が必要なこと(2)Bill and keep方式に賛意を表しているのは、Powell氏だけであり、民主党Copps,Adelsteinの両氏が反対の意志表示をしているのはもとより(辞任するPowell氏に対する配慮からか、婉曲な表現を使っているにせよ)、共和党のAbernathy氏すら、この件については、中立的な発言をしている。意見を提出しなかったMartin委員の考え方はわからないが、次期FCC委員長の席を約束されていた同氏が、この段階で積極的にPowell委員長を支持する必要はなく、中立の立場に回ったものであろう。あるいは、同氏が2年前の市内相互接続に関するFCC裁定の場合と同様に、民主党委員2名とタイアップして、今回の第2次調査の告示内容を事実上取り仕切った可能性も大いにある。

(注4) この項の記述は、調査告示発出に先立って2005210日にFCCが発表したプレスレリース、“FCC moves to Replace outmoded Rules Governing Intercarrier Compensation”によった。
(注5) 2次調査告示のAppendix C ” A bill-and-keep approach to intercarrier compensation reform”
(注6) 2004年9月2日付け、CBICCからFCC事務局長、Mrlene R.Dortch氏に宛てた書簡、“Developing a unified intercarrier Compensation Regime”
(注7) 2005.4.1日付けWireless Week、“The Bill and keep ICC Hot Potato”
(注8) 2005.4.18日付けYahoo! News,”New RBOC Ally Jumps into Telecom-Reform”

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