2004年次、DT(ドイツテレコム)は表1に示す通り、2003年次に比し大幅に利益、収入を増やした(注1)。
表1 2004/2003年次におけるDTの利益・収入(単位:億ユーロ)
項 目 | 2004年次 | 2003年次 |
利 益 | 46(+353%) | 13 |
収 入 | 579(+3.7%) | 558 |
このDTの好調な業績は、主として携帯電話の堅実な伸び、東欧諸国における投資の成功、徹底したコスト削減等により実現されたものである(注2)。なお、負債の返還も急ピッチで進んでおり、この1年間で負債額は114億ユーロ減り2004年末における負債額は352億ユーロへと減少した。この好調な決算を背景として、DTの役員会は1株当り0.62ユーロの復配を発表している。
DTのCEO、Ricke氏は、決算報告発表に当っての声明において、2004年次のDTの業績は力強いものであると自讃しながらも、「今日の成功は明日の成功を保証するものではない」と警告した。
Ricke氏はさらに、「電気通信分野はすさまじい技術変化に見舞われている。旧来のビジネス領域は重要性を失っており、新規市場が成長している。DTは、欧州で成長力がもっとも強く、利益率が高い総合電気通信事業者となることを目指す」と述べた。
なお、DTが意図している目下の最大の組織問題は、株式を一部上場しているDT子会社、ISP(インターネット・サービス・プロバイダ)のT-Onlineを社内部門化することである(注3)。
その後、この措置はT-Online株式とDT株式を交換(DT株式1株に対しT-Online株式0.52株)する方式で着々進行しており、DTはすでに90%を上回るT-Online株式をDT株と交換したと発表している(注4)。
DTは、今回良好な業績を発表したものの、同社の固定電話収入の落ち込みは大きいし、最近ほぼ収入において固定電話部門と同一の規模になった携帯電話事業も競争がますます激化し、成長率が鈍っている。従って、Ricke氏が指摘している通り、同社の将来は必ずしも安泰ではない。
DT自体は、未だその方針を打ち出してはいないが、あるアナリストはDTが固定、携帯、インターネットの3部門を自社事業部門に吸収し終わった暁には、米国流の“トリプルプレイ”(固定・携帯・インターネットの3サービスをパッケージにして、月額定額料金で提供するサービス)戦略の展開を図るだろうと見ている(注5)。
本文では、主として2004年次のDT決算の部門別収入を紹介する。
DTの部門別収入
表2 DTの2004年次部門別収入(単位:億ユーロ)
項目 | 2004年次 (括弧内は前年対増減比、%) | 2003年次 |
総収入 国内 海外 | 578.8(+3.7%) 351.5(+1.3%) 227.3(+7.5%) | 558.4 346.9 211.5 |
T-Com(固定通信) | 244.3(-2.8%) | 251.2 |
T-Mobile(携帯電話) | 240.9(+11.7%) | 215.7 |
T-System(大口加入者) | 72.4(+0.8%) | 71.8 |
T-Online | 17.9(+7.9%) | 16.6 |
本部等 | 3.4%(+10.5%) | 3.0 |
表2から、おおよそ次の事実が読み取れる。
- 2004年の総収入は、2003年に比し3.7%増加した。この増加は、収入においてDT最大の部門であるT-Com(固定通信)の収入減(-2.8%)を他の諸部門の収入増(とりわけT-Mobile(+11.7%)、T-Online(+7.9%)が、上回ることによって実現したものである。
- またこの傾向は、わが国、米国における主要電気通信キャリアにおけると同様に、DTにおいても、固定通信から携帯電話、ブロードバンド(DSL)への進展が大きく進んでいることを意味する。
- 2004年次、DTにおける海外における収入の占める比率は39.3%に達し、2003年次の37.9%を上回った。この数値は、東欧を中心としたDTの事業運営が成功しており、また国内事業よりその伸び率が高いことを示している。さらに、米国、日本のキャリアの海外事業が必ずしも成功していない中にあって、DTはTelefonica(スペイン)と共に、海外進出にもっとも成功している大手キャリアであることを示す(注6)。
- 2004年次には、さらにT-Mobileの収入(240.9億ユーロ)がT-Comの収入(244.3億ユーロ)にほぼ匹敵する規模になったことが注目される(もっともわが国を含め多くの国において、収入における携帯電話部門優位の現象はすでに数年前から生じている。
DT主要3部門の加入者数の増減状況等
T-Com
表3 2003・2004年次におけるT-Comの回線数(単位:100万)
項 目 | 2004年末 | 2003年末 |
回線数合計(狭+広帯域) | 60.8(+2.2%) | 59.5 |
広帯域(DSL)回線数 | 6.1(+48.8%) | 4.1 |
狭帯域回線数 計 | 54.7(-1.5%) | 55.5 |
国内 | 47.9(-1.5%) | 48.7 |
東欧 | 6.8(-0.5%) | 6.8 |
- DTの狭帯域回線数は他の諸国におけると同様に減少しているが、減少率は低い。
- 広帯域をも含めた固定回線数が増加しているのは、DSL回線数が大きく増加しており、増加数が狭帯域回線の増加数を上回っているためである。もちろんDTの競争業者はあるものの、ドイツではDTはほぼ独占業者に近い強みを発揮している模様である。
- 回線数の増にもかかわらずDTの収入が減少しているのは、固定部門が2003年8月以降、市内分野での競争が本格的に始まり(わが国のマイライン)DTの料金が下がり、また市内、長距離分野のシェアが下がったことによるところが大きい。市内市場におけるシェアは2004年中に12%低落し、75%から67%に低落した(注7)。
- DTは部門別の純利益を発表しておらず、利益の指標として発表しているのはEBITDAだけである。2003年次に比較し、T-ComのEBITDAは収入の落ち込みにもかかわらず、実質1.1%増加した(103.6億ユーロ→104.7億ユーロ。これは人員の削減等コストの縮減によるところが大きい。)
T-Mobile
表4 2003・2004年次におけるT-Mobileの加入者数(単位:100万)
項 目 | 2004年末 | 2003年末 |
ドイツ国内 | 27.5(+4.3%) | 26.3 |
英国 | 15.7(+15.3%) | 13.6 |
米国 | 17.3(+32.0%) | 13.1 |
チェコスロバキア | 4.4(+10.5%) | 3.9 |
オランダ | 2.3(+13.8%) | 2.0 |
オーストリア | 2.0(+0.6%) | 2.0 |
その他 | 8.2(11.4%) | 7.2 |
- T-Mobileは2004年次に大きく加入者数、収入を伸ばし、DT業績向上の牽引車となった。2004年の実質EBITDAは51%と大きく上昇した(70.2億ユーロから106.0億ユーロへ)。つまり、T-Mobileは一挙にEBITDAにおいてT-Comを抜いた。
- 加入者数、収入がもっとも大きいのは、もちろんT-Mobileがトップの業者となっているドイツ市場であるが、最近この市場における加入者数はやや伸び悩んでおり、第2位のVodafoneと加入者数においてほぼ並んだと見られている。もっともT-Mobile側は、これはプリペイド方式の携帯電話の販売(単金が安い)を意図的に抑制していることによるものであって、加入者増の落ち込みは加入者単金の増により十分カバーされていると説明している。
- 業績が一番著しいのはT-MobileUSAであって、2004年に大きく加入者数、利益を伸ばした。数年前、DTがT-Mobileの前身であるVoiceStreamを買収したとき、当時の経営陣は果たして採算が取れるのかと批判されたものであるが、今やDTにとり最有料部門となった。海外進出成功事例の一つである。
- 加入者増が著しく鈍いオーストリアを例外として、他の市場でもおおむね携帯事業の成長は順調である。ただし欧州諸国では、急速に携帯電話の普及が飽和に達しつつあるので、2005年度以降はこれまでのような成長が見込めないこと、2004年次から主要携帯電話加入者が開始し、現在熾烈な競争が展開されている3Gサービスの販売の実態について、DTがなんらの公式発表を行っていない点(故意に3Gに触れるのを避けているのではないかとも思える)が懸念される。
T-Online
T-Onlineの加入者数は年間120万増加し、2004年末1350万に達した。T-Onlineは終始欧州における最大のISPであるが、これまでの投資が大きいため赤字続きであるといわれてきた。しかしある資料によれば、2004年次には4.09億ポンドの利益を計上したといわれる(注8)。
すでに述べたとおり、DTはT-Onlineの株式買収を進めており、同社を部内事業部門化する計画である。さらに部内事業化の後は、T-Comへの合併が行われるものと予想される。
(注1) | まえがきの記述に当っては、DTのプレスレリースのほか、2005.3.3付けIT World.comの"Deutshe Telekom continues on profitability"に負うところが大きかった。 |
(注2) | なおDTは、ここ1、2年来、従来は聖域(組合の反対により)であって手を付けていなかった従業員のリストラの分野にも踏み込んで、コスト削減を計っている。2004年末のDTの従業員数総数は約12.5万人であって、2003年末従業員数約13.9万人に比し1.4万人(6.9%)減少している。リストラにより利益の拡大を図る動向はドイツの大企業で一般的に進行しており、ドイツの失業率の増大の大きな原因になっているといわれる。いわば、DTも旧国営企業の経営方式から脱皮して、通常の企業並の行動を取り始めたということであろう。 |
(注3) | 2004年10月1日号テレコムウォッチャー、「業績好調なDT、年内に復配へ」 |
(注4) | 2005.3.10付けYahoo!News, "Deutsche Telekom to re-integrate internet arm T-online by end-September" |
(注5) | 2005.3.6付けFinancial Times DT, "Neue Chance fur "Triple Play" |
(注6) | Telefonicaの中南米市場におけるシェアが推計35%程度に達している点については、2004年7月15日号テレコムウォッチャー、「堅実経営で成果を上げるテレフォニカ」を参考にされたい。 |
(注7) | 2005.2.16付けSpiegel online, "Telekom spurt Schmerzen im Ortsnetz" |
(注8) | 2005.4.8付けhttp://hoovers.com , "T-Online International AG" |