DRI テレコムウォッチャー


合併相次ぐ米国の携帯電話事業者 - ナショナル・キャリアは4社体制へ

2005年1月15日号

 2004年後半以来、米国の携帯電話業界では集中化に向けての動きが大きく進んでいる。
 まず、業界第2位と第3位の携帯電話会社、Cingular WirelessとAT&TWirelessが予想以上に早く統合作業を遂行し、2004年10月28日に統合を発表した(注1)。
 さらに、上記発表の2週間ほど後の同年12月15日、業界4位、5位の携帯電話会社2社、SprintCorp及びNextelCommunicatonsIncが対等合併について合意に達したと発表した。
 携帯電話事業者合併の波は、2005年に入っても引き続き起こっている。新年早々、1月10日には、大手地方通信事業者のAllnetCorpが、中堅独立系携帯電話会社、Western Wirelessを取得することで合意したと発表した。AllnetCorpは、この合併によっても全国にサービス提供を行う大手携帯電話事業者と同一視することはできないにせよ、加入者数は1000万を超える。西部を中心として、固定・携帯・インターネットを総合的に提供する総合的な電気通信事業者としての同社の存在感がますます強くなった。

 上記の2件の合併が承認されると仮定しての米国の大手携帯電話者の加入者数を次表に示す。この表に示した5社で、米国携帯電話数の88%がカバーされるという。

表 米国5大携帯電話事業者数とその加入者数(2004年9月末)
携帯電話事業者
加入者数(単位:万)
Cingular Wireless
4760
Verizon Wireless
4210
Sprint/Nextel
4830
T-Mobile
1630
AlltelCorp/Western Wireless
1000
(各社の決算報告等による)

 このように、携帯電話業界の合併を通じての集中化は大きく進みつつあるが、これは電気通信業界における競争が、サービスのマルチメディア化への急速な動きにつれて、業者が規模の経済を追求する傾向がますます強まってきたことによるものであろう。
 今のところまだ顕在化していないものの、事業者合併にむけての動きは、固定通信の分野にも早晩現れるものと思われる。2004年は、米国電気通信業界において波乱の多い年であったが、2005年も集中化への動きをも含め、波乱含みの年になるであろう。
 以下、本論では、上記2件の携帯電話事業者の合併の案件の概要について紹介する。

SprintCorps、NextelCommunications Inc両社の合併合意の概要、目的(注2)

SprintCorps、NextelcommunicationsInc両社の合意概要
 Sprint Corpは2004年12月15日、NextelCommuinicationsと株式交換をベースにした対等合併を行うことについて両社の役員会が合意したと発表した。合意の概要は次のとおりである。

  • 対等合併:SprintとNextelは、両社の価値を同等と評価し、この評価に基づき両社株主にそれぞれ新会社のSprintNextelの株式を割当てる。割当て比率は、Sprint株主に対しては1対1、Nextel株主に対しては1株に対し1.3株のほか、若干の現金(合併の直前に価格が定まる)を交付する。
  • 新会社名、本社所在地:新会社名は、SprintNextel。営業上の本社は、カンサス州のOverland Park市(現、SprintCorpの本社所在地)、役員の本社はバージニア州Reston市(現、Nextelの本社所在地)。
  • 役員の構成:社長兼CEOは、Gary D.Forsee氏(現、SprintCorpの会長兼CEO)が、また会長には、TimothyM.Donahue(現、Nextel Communications Incの会長兼CEO)が、それぞれ予定されている。役員会は、SprintCorp、NextelCommunicationsからそれぞれ6名ずつ12名のメンバーから構成され、対等合併の原則が貫かれている。
  • 合併の時期:2005年第2四半期。
  • SprintCorpsの固定通信部門の取り扱い:合併の対象となるのは、SprintCorpの携帯部門とNextelCommunications Incである。SprintCorpsの固定部門は分割し、Sprint Nextelの子会社にする。

両社が合併により得ようとしている効果
ネットワークの強化・周波数帯の補完性:現在、Sprint Corpは、Qualcom社の技術によるCDMA仕様によるネットワークを運用しており、今後、1、2年のうちに、3G段階のCDMA EV-DOネットワークに切り替えようと準備を進めている。これに対し、NextelCommunicationsIncは、本来、無線呼出しの技術であるモトローラ社のiDENをベースにしたネットワークを使用してきた。このネットワークにより、単にボタンをプッシュしただけで、即、通話ができる利便性が建設業界を始め、一部ビジネス用加入者の好評を博し、これによりNextelCorpはニッチ市場を中心として発展を続けてきた。しかし、この方式では高速のデータ、ビデオを伝送することができず、Nextelが3Gネットワークを単独で構築するには、投資の大きさに耐えられないという隘路が生じた。
 今回、Nextelは、サービスエリアの類似するSprintCorpと合併することにより、大きく投資を削減することが可能になる。この意味で、合併の必要性は、SprintCorpよりもNextelの方が強いといい得るかもしれない。
 SprintCorp、NextelCommunicationは、両社が現にFCCから割り当てを受けている2.5GHの3G用周波数帯域の電波により、米国トップ市場100のうち85%の地域にサービス提供が可能になると自信のほどを示している。
 また、SprintCorpは、国内、国際の巨大な光ファイバーネットワークを有する固定通信事業者であって、これらワイアレス、固定通信のネットワークを利用することにより、新会社は、単なる携帯電話会社にとどまらず、マルチメディア会社に変貌していくとしている。

合併によるシナジー効果:SprintCorpsは、以下の合併要因に基づくシナジー効果から、120億ドルもの節減がもたらされるものと推計している。

  • 基地局、交換機の縮減によるネットワーク運営経費の縮減
  • SprintCorpsの設置済みのEV-DOネットワークを延伸(新設でなく)することによって得られる投資の節減
  • Nextel發のトラヒックをSprintCorpsの長距離網により疎通することによる経費減
  • 高品質を保持しながら、顧客サービス、課金、IT経費を最適なものにすることにより、得られる節減
  • 販売・マーケティング経費の節減
  • 事務費・管理費の節減

予期される"クオドラプル・プレイ"についてのケーブルテレビ会社との提携

 長距離電話事業者の地盤が決定的に沈下した現在、すでに電気通信業界の花形はRHC3社となっており、しかもこれら3社が目指す市場は、音声、インターネット、データに加うるにビデオ(放送)である。2004年まで喧伝された"トリプル・プレイ"は、RHC3社のビデオ(放送部門)への進出の開始に伴い、2005年から"クオドラプル・プレイ(quadruple play)"に進展するのは必至と見られている。
 SprintCorpがMVNO(Mobile Virtual Network Operator)として、携帯電話設備を契約相手方(AT&T、Qwest Communicaions等)にリースし、この分野でかなりの成果(2004年9月末で42.9万加入者)を得ていることについては、すでに2004年10月に紹介した(注3)。
 TimeWarnersは、SprintCorpとすでにVoIPサービスの提供について、提携関係にあるのであるが(注4)、米国のジャーナリズムは、2004年暮れから2005年初めにかけて、SprintCorpと大手ケーブルテレビ会社が携帯電話サービスの側面での提携について、協議を行っていると報じている。特に、TimeWarnerとSprintCorpsの提携の進展が進んでいる模様である(注5)。
 この提携が、(1)SprintCorpが長距離通信事業者幾社かと結んだような、MVNOの提供となるのか(2)長距離電話サービスの場合のように、一層緊密な提携関係にまで踏み込むこととなるのかは、目下のところ不明である。しかし、まもなく成立するSprint Nextelが今後、ケーブルテレビ会社の側からのRHC各社に対する"クオドラプル・プレイ"を組み込んでの攻勢に全面的に加担することになれば、これまでの「RHC対ケーブルテレビ会社の競争の図式は、「RHC対ケーブルテレビ会社/1部携帯電話会社の競争」の図式へと移行することになり、ケーブルテレビ会社は、競争上強力な助っ人を得て、相対的に有利な立場を得ることとなる。見方を変えれば、通信事業者相互の垣根の崩壊に伴い、"電気通信事業者"、"長距離通信事業者"、"RHC"といった旧来の呼称自体が無意味となってきているのであって、上記の携帯電話会社とケーブルテレビ会社の提携の可能性は、この事実を端的に示す典型的な事例として捉えることができよう。

Alltel、Western Wireless買収で同社と合意(注6)

 2005年1月10日、米国の西部・中西部を地盤とする地域通信事業者のAlltelCorp(本拠は、アーカンソー州リトル・ロック市)は、同社に隣接する営業地域を持つ独立系携帯電話会社、WesternWirelessを買収することで合意したと発表した。Western Wirelessは、西部19州に140万ほどの加入者を有する携帯電話会社で、本拠はワシントン州Bellvue市。同社は、6カ国(主としてオーストラリア、アイルランド)でも計140万の携帯電話の運営を行っている。
 買収金額は、Western Wirelessの負債(15億ドル)引き受け分をも含め44億ドル。Western Wirelessの加入者は、同社1株について0.535株の比率でAlltelCorpが発行する新株を受け取る。このほか、株式でなく現金を受け取るオプションも用意されている。買収に当たっては、Western Wirelessの株主の同意、および規制機関の承認が必要であるが、特に支障が生じるとは思われず、AlltelCorpは2005年半ばには買収を完了したいとしている。
 AlltelCorpはもともと、西部・中西部の過疎地域で電気通信事業を営んでおり、携帯電話のほか、固定の市内・長距離通信・インターネットも提供する総合通信事業者である。しかし最近は、携帯電話事業に力を入れている。今回のWestern Wireless取得の取り付けにより、携帯電話加入者数は、ほぼ1000万に乗り、業界第5位の地位を確実なものとした。WesternWirelwess吸収により、同社は米国33州の7200万の人口(全人口の25%)、面積において48%をサービス地域に持つこととなる。
 もっとも、米国のほぼ全土をサービス地域にしている大手ナショナル・キャリア4社に比すると、地域携帯電話事業者(そのトップであるにせよ)であるという限界は、いかんともしがたい。AlltelCorpの社長兼CEOのScottFord氏は、自社を"トップ携帯電話業者にローミングサービスを提供するトップ地域携帯電話事業者"であると自社の役割を定義している。
 同氏はまた、さらなる買収の可能性を否定してはいない。今後も買収を続けていくことができると言明している。また、テレコム・アナリストのRick Black氏は、今回のAlltelCorpによる発表が、ルーラル地域における携帯電話業者間の力のバランスを崩すことになる結果、この地域におけるM&Aは一層活発になるだろうと予測している。


(注1)2004年11月15日号DRIテレコムウォッチャー「Cingular Wireless、AT&TWirelessを取得」
(注2)本稿の記述は、おおむね、2004.12.15付けSprintCorpのプレスレリース、"Sprint and Nextel to combine in merger of equals"によった。
(注3)2004年12月15日号DRIテレコムウォッチャー「評価が高まるSprintCorpsの新市場獲得作戦」
(注4)2004年1月1日号DRIテレコムウォッチャー「こぞって住宅用インターネット電話市場に参入する米国の大手通信事業者、ケーブルテレビ業者」
(注5)) たとえば、いずれも2004.12.29付けのFT.com, "Sprint in cable talks on mobile phones" および The Motley Fool.com, "Cellular Cable Camaraderie?"
(注6)本稿はいずれも2005.1.10付けのAlltelCorpプレスレリース、"Alltel to purchase Western Wireless in $6 Billion Transaction" および Yahoo!News, "Alltel Buying Western Wireless for $4.4B" によった。

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