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FCC、市内アクセス新規則についての裁定を下す - 狭められた競争事業者によるILCs回線の利用

2005年1月1日号

 FCCは、2004年12月15日、標記の案件についての裁定を下した(注1)。ただ、当日に発表された裁定文は、A4判2枚の簡潔きわまりないものである。これに、FCC委員4名(共和党Martin議員を除く、共和党、民主党それぞれ2名ずつ計4名)の単独意見が添付されている。
 今回の裁定は、FCCがあらかじめ期限(2004.12.15)を定め、FCC共和党議員3名と民主党2名の委員の激しい意見対立の結果、しかも多数派の共和党委員(委員長Powell氏を含む)は、結局民主党委員2名を説得できず、3対2の多数決をもって採択されたものであった。従って、裁定文は結論だけが示されているだけであり、その根拠が示されていないので、まだ理解に苦しむ点が幾つかみられる。FCCはこの裁定に基づくアクセス規則作成完了の時期を明示していないが、多分早くとも、後2、3ヶ月を要するものと考えられる。
 しかし、筆者が2004年8月、FCCが本件に関する暫定裁定を下したときに断定したように、FCCはこれまで推進してきたUNE-Pモデル(LECsが競争業者に自社回線を安い料金によりリースさせることによりICLと競争業者相互間の競争を推進する)の重要部分を放棄し、新たな規制体制に進む方向に向けて大きく踏み出したのは確かである(注2)。ブッシュ第2次政権の成立に伴い、本年はPowell氏の後も、共和党のFCC委員長の就任が確実であるので、Powell氏の実績を踏まえてのUNE-Pモデルの全廃が、多分、後任委員長の最大の責務となろう。
 今回の裁定に当っては、民主党委員2名は、Powell委員長をはじめとする共和党3名の委員とかなり激しい論戦を交えた模様である。事実、多数派も、民主党委員の意見に相当耳を傾け、取り入れるべき点は取り入れた(ビジネス市場について、トラヒックの多いところは市場テストによりICLにアンバンドリングを取り入れる余地を残したこと、アンバンドリングの義務化実施までの準備期間「12ヶ月ないし18ヶ月」を設けたこと等)。
 しかし、UNE-P体制を従来通りFCC規制の基本に据えるか、あるいは廃止するかは、本来的に妥協できないいわば信念、哲学の問題である。UNE-P体制を1996年電気通信法の中核とみなし、これを支持してきた民主党FCC委員、1996年以降の電気通信市場の変化(特に異業種からの市場参入による競争の激化)により、この制度を廃止すべきであるとする共和党FCC委員が、その議論の基本において折り合えるはずがない。このため、Powell委員長はFCC委員満場一致の採決を切望したが、結果は委員の党派別投票に従った多数決に終わってしまった。
 以下、本論では、裁定の趣旨、FCC多数派(共和党)委員と少数派(民主党)委員の意見対立の主要点、LECs、長距離通信事業者、消費者団体等利害関係者の意見等について、簡潔に紹介する。なおこの裁定内容は、今後制定されるアクセス規則により、多少の修正が加えられる可能性がある。改正点等については、別途紹介することとしたい。

FCC裁定の概要

 表1にFCC裁定の概要を示す。

表1 市内アクセス新規則についてのFCC裁定の概要
項 目
裁定の概要
住宅用市内ループ
1、交換機能
交換機能(厳密には交換機能+回線機能であり、交換機能・回線のセットの卸売りといってよい)を競争事業者に提供するLECsの義務を免除する。
(1)競争事業者には、猶予期間として1年間が与えられる。ただし、既設加入者に対してのみ。
(2)競争事業者は、猶予期間内に、(i)2004年6月15日現在に課されていた料金(ii)2004年6月15日からこの命令が発効する日までの間に、州公益事業委員会が料金を設定する場合は、その料金のいずれかの料金のうち高い額+1ドルで、交換機能を利用できる。
2、その他のUNE(ネットワーク機能)
LECsは、現状どおり、州公益事業委員会が設定する料金により、その他のUNEの提供が義務付けられる。
ビジネス用アクセス回線
1、局間中継線
交換機能(厳密には交換機能+回線機能であり、交換機能・回線のセットの卸売りといってよい)を競争事業者に提供するLECsの義務を免除する。
(1)競争業者は、一般にDSI専用線へのアクセスを受けなければ競争力が阻害される(つまりDSI専用線へのアクセスを認められる)。ただし、光ファイバー・ベースの4基以上のコロケータあるいは3.8万回戦を超えるビジネス・アクセス回線があるワイアー・センター間のルートは例外(つまりLECsにアクセス義務を課する)。
(2)競争業者は、DS3専用線あるいはダークファイバーへのアクセスを受けなければ、競争力が阻害される(つまり、これら回線へのアクセスを認められる)。ただし、3基以上のコロケータあるいは2.4万回線を超えるビジネス回線をそれぞれ有するワイアー・センター間のルートは例外(つまり、LECsにアクセス義務を課する。
猶予期間、猶予期間の料金
1、猶予期間
競争業者に対しては、DS1、DS3回線の場合は12ヶ月間、ダークファイバーの場合は18ヶ月間の猶予期間が与えられる。ただし、既設加入者に限る。
2、猶予期間内の料金
競争事業者は、猶予期間内に(i)2004年6月15日現在の料金(ii)2004年6月15日からこの命令が発効するまでの期間に、州公益事業委員会が定める料金のうちのいずれか高い方の料金の15%増の料金で回線を利用できる。
2、高容量回線
(1)競争業者は、DS3ループへのアクセスを受けなければ競争が阻害される(つまり、DS3ループへのアクセスを認められる)。ただし、3.8万以上の回線、4以上のコロケータを含むワイアー・センターのサービス・エリア内のビルに対するアクセスは例外(アクセスは認められない)。
(2)競争業者は、DS1ループへのアクセスを受けなければ競争が阻害される(つまり、DS1ループへのアクセスは認められる)。ただし、6万以上の回線、4以上のコロケータを含むワイアー・センターのサービス・エリア内のビルに対するアクセスは例外(アクセスは認められない)
(3)競争業者は、ダークファイバーについては、いかなる場合も、アクセスを受けなくても、競争を阻害されない(つまり、ダークファイバーへのアクセスは認められない)。
猶予期間、猶予期間の料金
1、猶予期間
競争業者に対しては、DS1回線、DS2回線の場合は12ヶ月間、ダークファイバーの場合には18ヶ月間の猶予期間が与えられる。ただし、既設加入者に限る。
2、猶予期間内の料金
競争事業者は、猶予期間内に、(i)2004年6月15日現在に課されていた料金(ii)2004年6月15日から、この命令が発効するまでの間に州公益事業委員会が設定する料金のうちの高い方の料金の15%増の料金で回線を利用できる。

 上表の重要なポイントを現行アクセス規則(2003年8月制定、現在凍結中)との比較で示すと次の通りである。

1、住宅用ループについては、事実上、競争業者へのLECsに対するUNE(回線要素)提供義務は免除されたといってよい。UNEの核心は「交換要素」にあったのであり、これまでの議論の経過のなかで、LECs側もFCCも、交換要素の提供義務を解除すれば、事実上、UNE-P(アンバンドリングによるLECsから競争業者に対する回線、交換機のリースの仕組み)が崩壊するということは自明の理としていたからである。現アクセス規則では、住宅用ループをアンバンドリングするか否かの決定は、FCCが定める評価基準の下で、アンバンドリングを廃止しても、競争に支障があるかいなかのテスト(impairment Test)をそれぞれの市場ごとに、州公益事業委員会が行うこととなっていた。しかし、FCCの定めた基準がきわめて厳格なものであるため、事実上、LECsにアンバンドリングの義務が解除される可能性はきわめて薄く、競争業者は、従来通りおおむねアンバンドリングの利用が認められるだろうと評価されていたものである。
従って今回の裁定は、1996年電気通信法が施行されて以来、民主党FCC委員長の下で、着々と実施に移されてきたUNE-Pが、Powell共和党大統領の下で、住宅用市場において事実上消滅する方針が確定したという点に、最大の意義が認められる。
2、ビジネス用アクセス回線については、FCCは、「局間中継線」と「高容量市内アクセス回線の双方について、それぞれ、通常の市場とすでに相当量のトラヒックが疎通されており、一定の交換装置(ワイア・センター)、回線が設置されている市場とを区別し、前者については、LECsに競争業者に対してのアクセス義務を課し、後者に対しては競争条件が整っているとして、アクセス義務を解除するとの方針を取った。この措置は、CLEC、長距離通信事業者さらにFCC民主党委員からの強い要請に基づき、定められたのであるが、妥協的産物であるだけに、利害関係者のいずれをも満足させない結果に終わっている。
3、最後にFCCは、今後策定するアクセス新規則を現規則の改定として準備し、現規則の枠組み、ツールを踏襲する模様である。例えば、現規則制定時にもすでに悪評が高かった「アクセスを利用しないで、競争業者が競争を阻害されることがないか」のテスト(impairemennt test)の概念を今回も使用している。
しかし、このテストにより結論を出す主体がFCCであって、その結論が米国全州に一律に適用されるために、実のところ、今回の裁定文から見る限り、テスト適用に当っての説明は示されておらず、きわめて恣意的に適用された印象を受ける。アクセス規則において、FCCがどのようにアクセス・テストを利用したかを説明するかは、興味が持たれるところである。

FCC多数派委員と少数派委員の見解対立
 3対2の多数決で可決された今回のFCC裁定は、賛成する多数派共和党委員(Powell、Abernathy、Martinおよび民主党委員(Copps、Adelstein)との激しい討論の末に、一部の地術的案件については、妥協(例えば猶予期間の場合、多数派は6ヶ月、これに対し少数派は3ヶ年をそれぞれ主張し、結局12ヶ月あるいは18ヶ月に落ち着いたといわれる)、主要点については最後まで平行線を辿った。
 裁定本文に付随し、発表された各委員の個人意見により、論点の差異が明確に伺えるので、表2に対立点の概要を示す(表3)。

表2 FCC裁定に賛成した委員、反対した委員の対立点
項 目
多数派意見
少数派意見
目的の達成
今回の裁定は、アンバンドリングを制限することにより、既設・新規の事業者の投資インセンティブを高めるものである。今後、イノベーション、持続的競争が促進される。固定通信分野での競争は大きく阻害されよう。
ワシントン連邦地裁
判決との関連
ワシントン連邦地裁が、定める条件は、この裁定で十分満たされる。8年間も続いた訴訟合戦に終止符を打つ必要がある。ワシントン連邦地裁の判決に対しては、そもそも最高裁にこの事案を上程して、現行アクセス裁定の適法を主張すべきであった。FCCとして行うべきことをやらないで、今、裁判所からの拘束を述べるのはおかしい。
電気通信法との
関連
競争促進を最大の目標に掲げる1996年電気通信法の趣旨に沿った裁定である。電気通信法から、甚だしく逸脱した裁定である。
裁定がもたらす
インパクト
自前設備による競争こそが、本格的な投資を誘発する。今回の裁定は、投資誘発効果が大きい。現に、AT&T、MCIが裁定の改定を予期して、住宅用市場からの撤退を表明していることからも、競争事業者に対する負のインパクトは、明らかである。
CLECはこれまで、自社設備とRHCが提供するアンバンドリング設備を組み合わせることによって、LECsに対抗してきたのであって、アンバンドリングには、大きな投資誘因効果があった。
住宅用はもちろん、ビジネス用市場でも、トラヒックの多い市場での回線リースが認められなくなるので、今後、CLECの倒産、通話料金の値上げにより、通信字業界の事業者の集中化が進み、また通話料金も値上がりするだろう。

利害関係者の反応(注3)
 AT&T、競争業者の利益団体、消費者団体等は、次の通り今回のFCC裁定を批判している。

AT&T:今回の裁定では、当社は競争の根幹をなす割引料金での独占ローカル設備へのアクセスができない。米国の住宅用加入者は、もっとも肝要な、場合によっては唯一の通信の代替手段を失った。また、ビジネス用局間中継線、専用線へのアクセスの制限もAT&Tには痛手である。AT&Tは670万のビジネス回線が影響を受ける(AT&T副社長、Len Cali)。
CompTel:ClECの市場の幾%が影響を受けるか調査中、20%というものもあれば7%というものもいる。しかし、今後のIPネットワーク、VoIPに影響が及ぶことは確実である。
米国消費者連盟(Consumer Federation of America): FCCは今回の裁定で独占を強め、電気通信分野の競争を抑制する規制を継続した。今後、ブロードバンド、IPの分野でも、RHCの市場支配は強まるだろう。
CLEC:FCCの民主党議員2名と同様、専門家筋は、今回の裁定で廃業するCLECも相当数生じると見ているが、2004年5月にワシントン連邦地裁が、FCCの現行アクセス規則を支持しない旨の判決をくだし、さらにその後、FCCが判決に沿った新規則の準備を始めたことから、すでに今回の裁定内容を予期して、自前の設備に対する投資、ワイアレス、VoIPサービスへの移行を計画、実行しているCLECも多い。しかし現在、UNE−Pを利用しているCLEC回線は、今後減少していくことは間違いない。
RHC(Verizon、SBC Communications、BellSouth、Qwest):RHC4社は、長年の念願であった住宅用市場におけるUNE-Pが事実上消滅した点に、満足の意を示している。しかし、トラフィックの大きいビジネス市場における市内アクセスの義務が残された点については抗議している。
例えば、Verizonの上級副社長、Susanne A.Guyer氏は、「FCCは、少数の事業者(推察するにAT&T、MCI等であろうか)に対する補助に固執し、これの延命を決定した。この決定は自社設備による競争を妨げ、投資を抑制することとなろう。

 今回の裁定に対するインパクトは、今後数ヶ月で予定されるアクセス新規則の原文が発表された時点でさらにフォロー・アップすることとしたい。


(注1)2004.12.15付けFCC.News,"FCC adopts new rules for network unbundling obligations of incumbent local phone carriers"
なおこの案件は、2003年2月、FCCが現アクセス規則についての裁定を下して以来、約2年近くの経緯を踏まえており、テレコムウォッチャーでは次ぎの通り、その時々の規制、裁判所判決の概要を紹介している。
2003年3月1日号「FCC、RHCが提供する市内アクセスの枠組みを大幅に改正―パウエル委員長の目指したUNE-Pの廃止は不成功」
2003年9月1日号「FCC、市内アクセスの枠組み改正についての規則を發出」
2004年5月15日号「市内アクセスの枠組み変更(規制から当事者交渉へ)を推進するFCC
2004年9月15日号「FCC、UNE-P体制の消滅を推進へ」
(注2)2004年8月1日号テレコムウォッチャー「住宅市場から撤退するAT&T、追撃するVerizon」
(注3)共和党委員のMartin氏だけは意見を発表しておらず、今回の裁定に当り、どのような語論を展開したか不明である。
(注4)本項では、主として次の資料を使用した。
2005.12.14付けCBS NarketWatch,"FCC to unveil new phone-leasing rules"
2005.12.15付けITWorld.com,"FCC adopts new network-sharing"
2005.12.17付けLight Reading,"FCC Access Ruling Puzzles"
2005.12.17付けRed Nova,"FCC Ruling to Cut Ohio Choices for Local Phone Services"

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