DRI レポート
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      メッシュネットワークの未来(1)トロポスvs.ベルエア
竹内 敬治  データリソース社 シニア・アナリスト

2005年6月13日号

無線LAN(Wi-Fi)サービスの提供エリアを低コストで拡大する技術「メッシュネットワーク」の実用化が進んでいる。FMC(Fixed Mobile Convergence)の鍵として、通信事業者が採用の動きを見せる一方で、自治体による、広域のWi-Fiインフラ構築の動きも出てきた。メッシュネットワークの最新動向を解説する。

メッシュネットワーク技術とは

 通常のWi-Fiでは、アクセスポイント(AP)毎に必ず有線バックボーンとの接続が必要である。APと同数必要となる有線バックボーンの敷設コストが、公衆Wi-Fiサービスの提供エリア拡大のネックとなっていた。
Wi-FiのAP間を無線で接続する技術が、メッシュネットワーク技術である。AP間が無線で繋がれば、有線バックボーンの敷設数はAP数よりも少なくて済む。トラヒックをAP間で適切にルーティングし、環境が変化しても常に安定したスループットを維持するソフトウェア技術が実用化の鍵となる。

        左図:通常のWi-Fi (6つのAPに対して、有線バックボーンも6本必要)
        右図:メッシュネットワーク(6つのAPに対して、有線バックボーンは1本)

トロポス・ネットワーク社

2002年頃、メッシュネットワークのブームがあり、各国の通信機器ベンダや通信事業者がWi-Fiサービスに取り組んだ。しかし、結局実用レベルには達せず、事業化は実現されずに終わった。
 ところが、メッシュネットワーク技術の実用化に成功した企業が現れた。米国トロポス・ネットワーク社である。同社は2004年末時点で8カ国に40社の代理店を持ち、顧客数は150を越える。2005年には、日商エレクトロニクス及び住友電設と代理店契約を結び、日本への進出を果たした。導入実績としては、ミネソタ州チャスカ市の事例が有名である。
 ミネソタ州チャスカ市では、Wi-Fiによる住民向けのISPサービスを提供している。25平方キロメートルのエリアに、トロポス社製のAPを230設置しているが、バックボーンに接続しているAPはそのうちの36である。1ヶ月15.99ドルのISPサービスには、サービス開始後1ヶ月間で住民の3割以上が加入したという。

メッシュネットワークの原理

 メッシュネットワークの原理は、簡単に言えば、「伝言ゲーム」である。あるAPが話すのを隣のAPが聞き、それをさらに隣のAPに伝える。バックボーンに接続したAPに辿り着けばゴールである。
 APは、思い思いに話すので、声が届く範囲のAPが同時に話すと聞き取れない。小学校で、生徒が思い思いにしゃべっている、騒々しい教室のようだ。
 この騒々しい教室でも、「伝言ゲーム」はできる。しかし、小学生時代、「伝言ゲーム」をやったときには、もっと違った話し方をしていたのではなかったか?例えば耳打ち?

もうひとつのメッシュネットワーク技術

「伝言ゲーム」では、まわりにも聞こえる声を出す必要はないし、その声が、かえってほかの伝言を妨害してしまう。伝言は、それを伝える相手にだけ聞こえればよい。 「指向性アンテナ」を用いて、これをメッシュネットワークで実現できる。隣接するAP間を、対向する指向性アンテナで繋げば、周りのAPと干渉せずに通信できるため、周波数の利用効率が増す。また、同じ出力でも、指向性アンテナの方が、AP間の距離を長くとることができる。
この技術を実用化した企業がある。トロポスの最大のライバル、ベルエア・ネットワーク社である。

ベルエア・ネットワーク社

ベルエア・ネットワーク社は、カナダの無線LAN機器ベンダーである。 ベルエアの製品BelAir200には、8本の指向性アンテナがあり、最適の方向のアンテナを自動的に選択する。周波数の有効利用により、他社のメッシュネットワーク製品と比較して、5倍から10倍の帯域が得られるという。
指向性アンテナなど幾つかの技術要素で、ベルエアはトロポスに勝っている。ベルエア社の製品が広域サービスで実用に耐えることが実証されれば、トロポスを越えて普及する可能性も高い。指向性アンテナの自動制御が鍵である。

今後の動向

免許不要の無線LANがアクセス回線として利用できるので、通信事業への参入が容易になる。既存のキャリアにとっては脅威であるが、アクセス回線を獲得するチャンスでもある。NTTコミュニケーションズやフュージョンは既にトロポス製品を導入済みである。VoWiFiによる通話が実用化すればNTTドコモなど携帯電話事業者への影響は大きい。
今後、メッシュネットワークは、Wi-FiだけでなくWiMAXとも組み合わされる。トロポスやベルエアは製品化を目指しており、両社ともWiMAXフォーラムに加盟している。
また、今回は紹介しなかったが、ノーテルやファイアタイドなどは日本に進出しつつある。今後、FMC市場や自治体ネットワーク市場でどの企業が勝ち残っていくのか、興味深いところである。


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メッシュネットワーク:アドホックから固定インフラへ
Mesh Networks:Moving From Ad Hoc to Mesh Networks
 (米国 インスタット社)


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竹内 敬治   (データリソース社 シニア・アナリスト)

京都大学大学院修士課程(原子核工学専攻)を修了し、三菱総合研究所入社。通信分野では、欧米・アジア・オセアニア諸国の規制等調査、各種通信技術/市場の分析・予測、サービス戦略策定、各種データ分析、各種システム設計・開発、郵政省長期増分費用モデル開発などに従事。その他、エネルギー(電力、ガス、石油等)、公共、e-ビジネスなど様々な分野のプロジェクトに従事。OR・統計解析手法にも詳しい。
2005年5月、データリソース社シニア・アナリストに就任。

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