米(ベイ)エリアIT通信


電力線ブロードバンド技術 市場確立の本格始動【前編】

2005年11月号

メタリックケーブル、光ファイバー、無線に続くブロードバンド回線の選択肢として、電力線の利用がにわかに脚光を浴びている。技術面だけではなく、規制緩和、業界、投資家などさまざまな面での後押しが始まっている。Market Snapshotでは、こうした米国における電力線ブロードバンド技術の現状について前編・後編の2回に分けて検証していく。

ブロードバンド技術の普及において、ラストワンマイルの高速化を確保する事は依然として難しい。大規模な範囲で光ファイバを敷設すれば解決できる問題かもしれないが、費用の面で実現しがたい。こうした現状に直面し、世界各国では90年代から、既存の電力線を伝送路として高速データ通信およびインターネットサービスを供給するBroadband over Power Line(以下BPL)‐電力線通信(電線ネットや電力線搬送通信とも呼ばれる)に取り組んできた。世界全体におけるBPLの導入規模は、2004年の5,710万ドルから2011年には44億ドルへと大幅な拡大が予想される(出典:Telecommunication Trends International)。現在のところ、スペインやポルトガルが牽引する欧州の他、シンガポールや香港などアジア地域での実用化が進んでいる。大規模な導入に成功している海外国の多くでは、240Voltの電力線が使われており、一台の変圧器で200〜250世帯への電力供給が可能である。一方、米国では120Voltを標準とするため、各変圧器では8世帯弱しか対応できない。米国では、ケーブルやDSLに続く高速インターネット接続技術の新たな選択肢として期待されていたにも関わらず、技術面(特に無線電波との干渉問題が大きく採り上げられてきた)やコスト面での課題を抱え、広範囲での実用化を懸念する向きの方が強かった。

しかし、今年の7月、BPLサービスを提供する新興企業のCurrent Communications Group社(メリーランド州ジャーマンタウン市:http://www.currentgroup.com)に対し、Google社をはじめGoldman Sachs、 Hearst等が総額1億ドルを投資した事を受け、その様相がにわかに変化し始めた。これに続き、IBM社でも電力会社CenterPoint Energy社(テキサス州ヒューストン市:http://www.CenterPointEnergy.com)との間で提携を組み、ヒューストン地域の約220世帯を対象に8月末までBPLの試験サービスを実施すると発表。IBM社では、今後、BPL関連機器に向けたシステム統合や管理ソリューションの展開に期待を寄せている。勿論、BPL技術に本腰を入れているのは、先に挙げた巨大企業に限らない。現在、米国内では20社を超える電力会社が試験サービスの実施を計画しているが、地域によっては既に商用化を開始したところもある。事実、2004年においては、全米で25万世帯に対しBPLサービスへの加入が既に選択肢として与えられていた(出典:Electric Utility Week誌)。

Research and Markets社の調査結果によると、米国内のブロードバンド加入者がBPLサービスを選択する割合は、2012年までに既存顧客で13%、新規では33%に達すると予測される。消費者側の将来的な期待は、宅内のコンセントから直接、手頃な料金でトリプルプレイサービス(音声/ビデオ/データ通信の統合)を受信できる点にある。また、BPL市場も2006年から2012年にかけて106%の複合年間成長率で拡大すると見込まれている。この数値を裏付けているのは、ブロードバンドサービスの供給を検討する電力会社の割合が、2000年の6%から2003年には20%に増加した事実である。これら企業の大半では、5年〜6年以内にブロードバンドサービス市場の2割を獲得できると見通している。では、通信技術を専門としない電力会社が、BPL事業に力を入れている理由とは何か?それには、運用面での管理強化とコスト効率の引き上げがある。BPL技術を敷設すれば、電力網の設置機器が双方間で通信可能になる−つまり、グリッド環境を組成する事もできる。概して、電力会社がエネルギー供給先の状態を把握するのは難しいものだが、この環境を利用すれば、電力メータの自動読み取りや関連装置の常時監視、ネットワークの状態分析等を管理できる。時間や労働力の削減はもとより、停電の可能性を的確に予測したり、復旧作業の迅速化を図る上での価値は大きい。(本記事の続きは次号の後編にてご紹介いたします)

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