今回のMarket Snapshotでは、ここ半年ほど前から頻繁に耳にするようになったPodcasting(ポットキャスティング)についてご紹介したい。依然として売上好調なApple社のiPodは、音楽ファンの必需品とされてきたが、近年では、これにラジオ等の音声コンテンツをダウンロードする動きが盛んになっている。勿論、インターネットを利用したラジオやオーディオプログラムは目新しいものではないが、ネットラジオの音声を自動収集するPodcastingでは、専用のソフトウエアにネットラジオ局を選択しておけば、各サイトに更新された最新の放送コンテンツが自動的にダウンロードされる。これらのコンテンツはiPodをはじめ他のMP3プレイヤーに直接、自動転送され、いつでも視聴することができる。その手順は非常に簡単で、MP3プレイヤーをコンピュータに接続し、ネットを介してPotcastingサービスに好きなフィードをリクエストする。実際の音声コンテンツは、配信元からアグリゲータ経由でユーザに伝送される仕組みだ(RSS:Really Simple Syndicationを利用し、XML形式でコンテンツの概要を説明)。
米国では現在、DVR(デジタルビデオ・レコーダ)の代表ブランドTiVoに高い人気が寄せられている。あらかじめ選択しておいたテレビ番組の最新コンテンツが自動的に録画されるため、好きな時間に視聴できるという合理的な技術である。Podcastingの機能は、このテレビを利用したTiVoの概念をネット上の音声コンテンツで展開したものに近い。視聴者は、コンテンツ提供側のスケジュールに合わせるのではなく、各自の予定を優先しながら様々な音声コンテンツが楽しめる。これが大きな魅力である。
このPodcastingの誕生は、80年代にMTVのビデオジョッキーとして登場していたAdam Curry氏がRSS技術の将来性に着目した事がきっかけとなった。その後、同氏はブログの世界で知られるDave Winer氏(RSSの共同考案者)と協力し、昨年、iPodder.orgというサイトを立ち上げた。同サイトでは、Curry氏自身が運営するサイト(利用者は約5万人)も含め、現在、2,500件のPodcastが掲載されており、その数は日ごとに増えている。このようなサイトは既に多数存在するが、中でもPodcasters.org、Podcast.net、iPodderX、Loudpocket.com等は人気が高い。コンテンツの種類はニュースから音楽、政治関係のディスカッションなど幅広いが、米国内では、今のところハイテク業界関連のトークショーが主流とされる。
Podcasting熱が実に短期間で上昇した背景には、主に3つの要素が考慮される:(1)Apple社のiPodが現象的な好業績を確立したこと。簡単なMP3プレイヤーから出発したこのデバイスが、オンラインのミュージックストアの土台を造り、携帯用のフォトアルバム/オーガナイザーとしての機能も果たすようになった。Podcastingは、こうしたiPodの柔軟性と可能性を実証する新しいメディアとして自然的に発生した現象である。(2)一般ユーザが長年抱いてきた、媒体の個人所有に対する夢を実現できる環境が整ってきたこと。つまり公共の媒体を介さずに個々人の「声」を伝えるための技術が既に存在する。(3)先に述べたTiVOと同様、時間の効率利用に対する人々の意識が、技術の進展と共に高まってきたこと。自身の行動における優先順位は、メディアのスケジュールに委ねるのではなく、視聴者が決める時代になってきた。また、メディアのコンテンツを楽しむ姿勢についても、受身的でなく、飽くまでも選択したものを好きな時間に再生するといった能動的なものに変化してきている。
Podcastingは非常に新しい現象であり、クオリティに関してはコンテンツの種類や内容によって大きな差がある。しかし、今後、クオリティが向上し、個人レベルの域を脱して大手メディア企業が介在するようになれば、ひとつの市場に発展する可能性はある。
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