DRI テレコムウォッチャー/「IT・社会進化論」

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  eBayのSkype買収でオークションはどう変わる  (IT アナリスト 新井 研氏)
2005年10月1日号

 9月22日、世界最大のオークションサイトeBayが、こちらも無料通話を提供して世界最大の利用者を持つようになったインターネット・テレフォニーのSkypeを総額40億ドルで買収することになった。e-bayは今回の買収を2003年の少額決済システムのPayPal買収以来の重要なイベントと位置づけている。今後オンラインオークションのスタイルはどう変わるのか。

■ 世界最大のオークションサイト

 アップルからスピンアウトしたGenaralMagic社で開発関係の仕事をしていたピエール・オミダイア(Pierre Omidyarが1995年に趣味で始めたオークションサイトがeBayの起源である。
 現在では登録者数1億3,500万人、アクティブ(実際に取引中の)利用者数が5610万人、出品者13億4,000万件、出品店舗7200万件(以上データはeBayのIR資料より)の規模を誇る文字通り世界最大のオークションサイトである。収入源は出品手数料、購入手数料、広告収入が主なもので、2004年度の売上金額は32億7,000万ドルであった。オークションだけに一切在庫を持たないため、7億8,000万ドルもの利益をたたき出す高収益企業である。最近では、Shopping.com、Rent.com、Mobile.comなどのショッピングサイトを買収し、不動産取引、車の売買のような専門的な販売サイトも手に入れ、膨張を続けている。欧州、アジア各国でも受け入れられているが、日本ではオークションではYahoo!、ショッピングでは楽天が強かったため2002年にあっさりと撤退している。

■ 世界最大のインターネットテレフォニー

 片やSkypeは、ルクセンブルグの二クラス・ゼンストロムが始めたPtoPのインターネット・テレフォニー・サービスである。ファイヤウォールやルーターのNAT(Network Adress Transport)を楽々乗り越え、世界中の誰とでもタダでお話でき、簡単に操作できて、音質も(FMラジオ並みに)優れているため、あっという間に普及した。Skypeをみた電話会社の幹部は「これで電話の時代は終わった」と呟いたほど、電話会社に脅威を与えるものであった。2003年のサービス開始以来登録者数5,400万人、ダウンロード回数1億6,400万回、同時利用者300万人、今なお1日15万人のペースで利用者が増えており、全米のテレフォニートラフィックの46%をSkypeが占めるようになっている。YahooメッセンジャーやMSNメッセンジャーなども無料で使えるが、時としてルーターを越えられなかったり、音質が良くないなどでSkypeの独走を許してしまっている。PC同士の通話は無料だが、SkypeInやSkypeOutといった既存電話網と接続でき、そのサービスが主な収入となる。2004年の売り上げは6000万ドルであった。

■ よりリアルに近づくネット取引

 今回の買収でeBayは、1.既存のカテゴリの拡大、2.新カテゴリの拡大、3.新市場のマネタイズ(eBayの取引を行うこと)、4.新地域への拡張、の4つの戦略を強化できるといっている。
 eBayでは現在オークションの売り手と買い手は電子メールで入金方法や送付あて先などに関する情報のやり取りを行っているが、Skypeをe-bayシステムに組み込むことで取引時間のスピードアップを期待している。
 たとえばこんなイメージだ。Skypeのプレゼンス機能で相手の接続状況がわかるので、買い手は売り手がつながっているときに出品内容について質問したり交渉できる。これまでも質問はメールでできるが、簡単なコミュニケーションに限られた。売り手は、買い手が質問してきたら、これ幸いにほかの商品を売り込んだり(クロスセル)、もっとよい品を進めたり(アップセル)などの機会となり(Skypeサービス利用の課金は出品者側にされる)、取引の活性化につながる可能性がある。
 このことはインターネット・オークションのスタイルがよりリアルな取引に近づく点では重要だが、取引がシンプルなオークションを好む利用者が、余計なものまで売りつけられたりしないかと、Skypeの利用を受け入れるかどうか疑問であり、eBayの売上増加に直接結びつくかは未知数だ。ただ、取引中に相手と音声通話できるだけに、取引のスピードアップにつながることは確かだし、文字だけでなく声でのコミュニケーションは詐欺的行為の抑止力につながる効果もあるとみられる。むしろ全世界6,000万といわれるSkype会員にeBayを“布教”する機会を持った意味の方が大きいのではないだろうか。詳細は不明だが日本再上陸のシナリオも描いているようだ。

■ Skypeの進化

 Skypeは国際電話などの通信料負担にあえぐ企業にとっても十分に魅力的だ。たしかに、SIPでもなく独自の通信プロトコルで、企業のNAT(Network Address Translator)やファイヤウォールを楽々突破し、誰でも簡単に接続できる利便性を提供している。ところがその接続手法はニムダやボットといったワーム系のウイルスの進入方法と似ていることから、その進入経路になりかねず、企業のネットワーク担当者にとっては頭の痛いところだ。だが、それでも海外に支店支社、工場などがあり、頻繁に連絡を取らなければならない企業にとっては、膨大な国際電話の通話料を削減できる効果は大きな魅力だ。また、SkypeIn、SkypeOutでの既存電話網との接続は有料だが、それでも国際電話の通話料の節減効果はきわめて大きい。eBayはSkypeの単独のビジネスも強化すると明言しており、e-Bayはソフトフォンをベースとした通信事業への足がかりをつかんだことになり、一方のSkypeはeBayの後ろ盾を持って潤沢な開発資金を得たことになり、技術進化は約束されたも同然だ。またGoogleにしても先ごろGoogleTalkを組み込むなど、強豪ポータルサイトの音声コミュニケーションも含んだサービス競争も激化しており、そのしわ寄せはいずれ電話/携帯電話事業に及ぶとみられ、既存の電話業者の脅威は変わらないだろう。




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