グローバルに展開する激安中古PC市場 (IT アナリスト 新井 研氏)
2005年9月1日号
20インチ液晶付TVパソコンが30万円前後で売られているかと思えば、64ビットデスクトップPCの新製品が5万円前後で手に入るようになった。PCの市場は実に幅が広くなってきているが、こういった現象は主に先進国、特に日本に特有な傾向といえ、実はもっと低価格なPCを求める市場もある。旧東欧、中東、ラテンアメリカ、一部のアジアなどの新興地域では、国民一人当たりの所得が低く、PCはもっともっと安くならねば手に入らない。そこで今超低価格となる先進国の中古PCに熱いまなざしが注がれている。
■ 買い取りも激安
私事で恐縮だが、4年前趣味で始めた自作PCがついに立ち上がらなくなり、マザーボードを交換した。先日秋葉原で消費税込みで約6千円也で買い換えた。
これ以外にも4年の間に、DVD-RAM、静音空冷ファン、TVチューナー、増設ハードディスクドライブなど、購入時の金額に加え、こまごまと部品を買い集め、都合15万円くらいは投資しているだろう。
ところで、なぜ6千円も出して古いPCを直したかというと、使うためではなく、売りに出すためである。中古品は動かないとスクラップの金額になるので一応動くようにしなければならないからだ。修理が済んで、さて、とある中古PC買取サイトに問い合わせたところ、なんと6500円であった。AMD AthronXP1800+, 512MB RAM, 32MB AGPグラフィック、100GB HDD2台内蔵、CD-RWとDVD-RAM内蔵、それに15インチ液晶モニタである。累計15万円が、数日前に買ったマザーボード1枚と同額であった。つまり売るために6千円投資して6千円を回収する事態に陥ったわけだ。考えてみたら無理もない。最新型64ビットパソコンが6万円もしないのだ。ほとんどガラクタ扱いの古いPCなどそう簡単に買い手はつかないだろう。少なくともこの国では。
■ 価格下落を歓迎する新興地域市場
と、思っていたらやはり、海外、特に旧東欧、中東、ラテンアメリカ、一部のアジアなどの新興地域に需要があるらしい。そこでは、1台平均300ドル前後で取引されるという。仕入れ価格で100ドルを切らないと現地でこの価格にならないため、中古PCは今非常に値崩れしているという。特に日本では捨てる費用だけで2,000円かかることも圧力となって中古価格を押し下げている。2,3年前から大手のPCベンダーが一斉に中古PCやリサイクル事業を始めたが、採算性のある事業というよりはある意味社会貢献的な意味合いの事業と化してしまっているところもないではない。しかし、このような先進国での中古PCの価格下落を歓迎するのが前述の新興地域のPC市場である。
■ 新興地域ならではの装備も
新興地域市場での中古PC市場は、実はこれまでは期待ほど伸びていなかった。技術進化が激しく、性能の陳腐化が頻発したためだ。ここで注意しなければならないのは、新興地域市場とはいえ、先進国同様、インターネットやOfficeなどのアプリケーションを使う点では変わらない。しかし、最近では性能の陳腐化が緩和され、事実上の製品寿命が延びており、このために先進国並みにアプリケーションが使える安価なPCが出回り始めたことから、新たな中古市場が形成されつつあるのだ。しかし、これら新興市場では、ソフトウエアの違法コピー、コンテンツの海賊版などを助長するだけだとする見方もあり、市場自体が健全に発展することはありえないとする見方が多いのは相変わらずだ。また気温や空調などのない過酷な環境で使われることか多いことから、簡単に壊れ簡単に捨てられるケースも多いという。
先ごろインテルはこういった厳しい気候や環境に対応したPCをCommunity Computerとして提案してきた。通風ファンにフィルタをつけ、埃っぽいところや虫の多い環境でも使えたり、気温が38度になっても動くPCでという。おそらくインドやアフリカなどを意識した製品である。こういった新興地域では、先進国とはまた異なった装備が必要となることもあり、ベースとなる本体価格はますます安価にならなければ普及しない。またこのような対環境を意識したPCが登場してきたことも、新興地域市場でのPCの普及に役立つであろう。PCは先進国を中心にここしばらく年間1億台以上も生産され続けており、30%は中古市場に回っているという。つまりここに来て中古PCの価格の安定した下落が始まり、2,3年のうちに新興市場に巨大な中古PC市場が形成されるであろう。PC市場がグローバルに幅が出ることになる。筆者が体験したPC下取りの激しい価格下落はその予兆といえよう。
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