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  本格的電子マネー時代の幕開け「お財布ケータイ」  (IT アナリスト 新井 研氏)
2005年8月1日号

概要
 私事で恐縮だが携帯電話を買い換えたのを機に、お財布ケータイの機能を使うことにした。これまで、Edyカードでのショッピング、JR東日本でのSuicaの利用、などで電子マネー的な使い方は体験している。しかし、むき出しのカードそのものを利用する形は、クレジット・カードを使っている感覚と変わらないため、どうも“電子マネー”の雰囲気は味わえない。このお財布ケータイは、携帯電話を使う分だけいかにも未来的な「電子マネー」を使っている気分が味わえる。今後お財布ケータイはどのように進化し、社会にどのようなインパクトを与えるのだろうか。

■ 手続きは意外と簡単
 ドコモのお財布ケータイ・サービスは昨年7月に始まっており、ちょうど1年がたつ。対応機種も当初の4機種からFoma含む十数機種になり、ようやく普及の緒についた。
 お財布ケータイの仕組みはソニーのFelicaカードを基盤に、ビットワレット社(ソニーが中心になって、ドコモ、トヨタ自動車、東京三菱銀など10数社で2001年1月設立)が行っているEdyカードのチップを携帯電話に内蔵したものだ。Edyカードはバッテリーもディスプレイもないが、お財布ケータイはバッテリーを内蔵、ケータイのディスプレイで残高照会などが行える。また、カードはEdyアプリケーションが初めから入っているが、お財布ケータイは、アプリケーションはダウンロードして使う。EdyのURLが内蔵されているので、ダウンロードし名前と住所など簡単な個人情報を入れれば、Edyカード番号が付与されすぐに使えるようになる。実際に本当にこれでよいのかと思うぐらい簡単であった。

■ 事件、事故ゼロ
 簡単なだけに安全性が心配だが、ソニーによるとこのFelicaカードはアジア各国で使われている。有名なのは香港の交通プリペイドカード・オクトパスだ。もちろん電子マネーのような使い方もされている。これまでシンガポール、インドネシア、香港、などで合計5,000万枚が使われているが、甚大な事件、事故の類はゼロという。その理由は、データの暗号化処理はもちろんだが、クレジットカードと違いプリペイド式に使うため、載せている金額は小額であり、犯罪が割りに合わない事だ。さらに、お財布ケータイでは暗号鍵が利用するたびに毎回生成されるため、スキミングして番号を盗み出しても使えない仕組みだ。これらのことから、事件ゼロと豪語するが、それだけ安全というわけだ。

■ メリット
 お財布ケータイの金額のチャージ方法はコンビニで現金を渡してその場でチャージする場合と、銀行口座、クレジットカードを登録して一定金額をチャージする方法があるが、後者は一度のチャージで手数料が105円も取られる。最大金額容量は5万円である。レジ脇のEdyボックス上に携帯をかざすだけでよく、チャリーンと音がして決済が完了したことを知らせる。隣のレジでおつりをもらっている人を横目にこの瞬間電子マネーを使ったというちょっぴり優越感に浸れる。
 使ってみてわかったが、メリットは、買い物がスピーディになったということよりも、小銭入れはよく家に忘れてくるがケータイだけは必ず持つので、ちょっとした外出でお金を忘れたときに助かる。また、今まで財布を自分のもっとも使いやすいポケットの位置、自分の場合は左のお尻のポケットといった指定席があったが、財布の利用頻度が減ったため、かばんに入れたり、お尻のポケットにホックをしっかりとかけ、スリや紛失対策を強化できたことだ。

■ 電子マネーのインパクト
 現在、am/pm、サンクス、サークルK、大丸ピーコック、などおもなコンビニ、また一部マクドナルド、コーヒーショップのプロント、マツモトキヨシのような小売店など、さらにプリンスホテル、全日空、ベスト電器などお財布ケータイの使える店舗は爆発的に増加している。
 お財布ケータイが普及すると今後どういったことが起こるだろうか。つまり、金額的価値が個人に簡単に移動できるようになる。たとえば、コーヒーショップのプロントは5000円分使うと500円をもらえる。東京三菱銀行は同行経由で金額チャージすると抽選で5000円プレゼント。今回お財布ケータイ購入でEdyに入会したがそれでご祝儀ポイント100円がもらえた。また、現在Edyではすべからく利用金額の5%還元中だが、こういったキャンペーンが簡単に行える。
 確かにこれまではクーポンや会員カード発行、あるいはスタンプなどで客寄せのマーケティングを実施してきたが、やはりキャッシュでない分だけ、あるいはその店でしか使えないため迫力に欠けた。しかしお財布ケータイは、これらのキャンペーンでどこでも使えるお金がもらえる。複数のキャンペーンで貯めこんで好きに使えるだけに、これまでのクーポンなどでリピート顧客を増やす手段は続かなくなる可能性がある。また本当に品質の高い商品やサービスしか生き残らなくなることも考えられる。
 私の友人に「いつも思うんですが、日本人1億人あまりだけど、私に一人1円くれるだけで、1億円長者になれるのに」と荒唐無稽なことを口癖にする男がいるが、そんなことがもしかしたら可能になるかもしれない。今年7月からEdy to Edyという機能が使えるようになり、メールアドレスや電話番号でその相手に金額を移動できる。つまり寄付やお金の移動が全国津々浦々から簡単にできる。現時点では移動金額の1%(最低50円)がかかり、上限5万円なので、1億円は集まらないが、将来的にはこの上限は増えるだろうし、原理的に全国の人から簡単にお金を集めることができるようになる。現金書留、銀行振り込みなどが長期的には大きなインパクトを受けるし、金融機関の役割も大きく影響を受けることになるだろう。お財布ケータイでブレークしそうな電子マネーだが、金融システムにも大きな影響を与えることになりそうだ。



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