DRI テレコムウォッチャー/「IT・社会進化論」

「IT・社会進化論」は毎月掲載!!


  ついにブレークしたワイヤレス・モバイル、ブラックベリー  (IT アナリスト 新井 研氏)
2005年6月1日号

概要
 ワイヤレス・モバイル電子メールサービスを提供するカナダのリサーチ・イン・モーション社が2004年度、前年比倍増の売り上げを達成し、ついに北米を中心とする世界市場でブレークした。日本の携帯電話による電子メール・マーケットはすでに大ブレークを終えており、どうせ「遅れてきた携帯メールブームでしょ?」と冷ややかに見る向きもあるが、実はわが国の携帯電子メールは若年層を中心とした消費者向けであったのに対し、かの国のブレークは、企業の一般ビジネスマンはおろか経営幹部層も積極的に利用できる本格的なビジネス・モバイルであり、どうやらビジネス分野ではわが国は後塵を拝する可能性が出てきた。

■ RIMとは
 RIM(リサーチ・イン・モーション)社とは、1984年、カナダのオンタリオ州ウォータールーでマイク・レザリディス(現在のCo-CEOの一人)が学生時代に設立したベンチャー企業である。当初はページャー(ポケベル)サービスを手がけていたが、携帯電話の普及でページャー市場が圧迫されはじまったが、90年代半ばごろから双方向ページャーを進化させたメール専用端末ブラックベリー(http://www.blackberry.com)を開発、サービス込みで提供するようになった。
 当時米国ではページャーは月額10〜20ドル程度と安価あり、親が子供に持たせるなどの根強い需要があり、携帯電話並みの月額50ドルのサービスであるRIMのブラックベリーは高嶺の花であり、高所得ワーカーのぜいたく品と見られており、普及は限定的であり、ニッチ製品といった趣であった。
 しかし、2004年突然前年比94%増の600億円を達成した。米国の調査会社ガートナーの発表でもこの第1四半期に71万台のブラックベリーを売り上げ、HPやパームを抜いて1位に躍り出ている。現在では欧米30カ国、50のネットワーク上でサービスが展開されており、100万契約者という。2000年からリファレンスモデルを公開、2002年にはAnalogDevices社が通信機能とJavaアプリケーション機能をサポートしたシングルチップを製造業者に提供している。製造パートナーにはソニーエリクソン、モバイルコミュニケーションテクノロジー、サムソン、ノキアなどが名を連ねている。日本では3年ほど前に当時のコンパック社(現HP社)が、国内販売の構えを見せたが、携帯電話全盛で普及の糸口すら見つからず、ブラックベリー不毛の地として現在に至っている。

■ ビジネスニーズを満たしたRIM
 ブラックベリー特徴は、端末下部に小型のQWERTY(クウェルティと読む。標準配列のキーボード)を配列し、左右親指で入力できるようにしたことが特徴だ。日本の携帯メールは片手親指で同じキーを何度も打つが、欧米のビジネスマンにはこれが耐えられなかったようで、ブラックベリーは両手親指でPCのように入力するスタイルであることだ。携帯電話は片手操作で、慣れてしまった我々からすればそれになりに確立したスタイルであり、両手で一心不乱にメールを入力する姿はゲーム機で遊んでいるようで、あまりかっこよくないが、米国ではそちらのほうがクールらしい。
 大きく普及した要因はいくつかあるが、まずPCのように立ち上げに時間かかからない“オールウェイズオン”で携帯同様、メール到着アラームがなりリアルタイムにメールチェックができること。つぎに企業のメールに安全なキャリアのネットワークを介してアクセスできる。現在ではGSM/GPRSをサポート、ワイヤレスソフトフォンにも対応している。さらにBES(Blackberry Enterprise Server)をメールサーバーにモバイルゲートウエイとして導入すれば、企業のメールシステムにシームレスなモバイル環境を提供できることだ。実はこの企業メールとモバイルとのシームレス機能が今の日本のモバイルワーカーからも求められているが、携帯電話のメールをつなぐよりは、ノートPCの小型軽量化が進んでいるため、PHSカードのリモートでPCのメールをみられるようにしている企業が多いようだ。現在BESを導入している企業は4500社にのぼる。
 また、ブラックベリーはPIM機能やWeb機能もあるが、基本的には双方向ページャーのメール機であり、通信サービスを別に契約する必要がなく手軽に導入できることである。このあたりがPDAよりメールの取り回しで導入がしやすいといえる。
 ブラックベリーは機能が豊富なPDAに対し現時点で優位性を見せているが、このあたりを、ハーバードビジネススクール教授で“ビジネスの神様”とも崇められているClayton Christensenは、「行き過ぎた技術開発が顧客ニーズを上回ってしまったときに、低技術レベルながらも低価格で顧客ニーズに対応するソリューションが出てきたとき、危機に陥る。これを破壊的イノベーションという」と、語っている。要するにPCの機能を圧縮する形で発展してきたPDAやポケットコンピュータは、シンプルにユーザーニーズを満たしてしまったブラックベリーに破壊される対象といった見方をしている。

■ ブラックベリーのこれから
 とはいえ、テクノロジーを奉ずる企業としては、新たな付加価値の提供と技術開発は宿命である。ブラックベリーは2002年にJ2ME(Java 2 Micro Edition)をサポートし、iModeのようにJavaアプリをダウンロードして利用できるようになったり、カラー化、大画面化、無線LAN対応など、需要を取り込みながら高機能化の道をたどっている。現時点では破壊的イノベータとしてアンチPDAの代表格になってきたが、ブラックベリーもいつか破壊されるのだろうか。いや、まだPDAとの戦いが終わらないうちからそのような言い方をするのは早計すぎる。だが実は100万契約者に過ぎず、わがiModeやAUに比べれば物の数ではない。しかし、企業でこれだけ受け入れられたモバイルワイヤレスは注目に値する。しばらくはブラックベリーの動向に注意したい。



「IT・社会進化論」 のバックナンバーはこちらです

COPYRIGHT(C) 2002 DATA RESOURCES, Inc. ALL RIGHTS RESERVED.