DRI テレコムウォッチャー/「IT・社会進化論」

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  進化するブログは本当に新しいメディアとなるのか?  (IT アナリスト 新井 研氏)
2005年4月1日号

 最近Yahoo!やグーグルでキーワード検索すると、7割ぐらいがブログ上からのヒットで、開いてみると素人の単なる日記に引用されていたりして、肩透かしを食ってしまうことがある。WebLogを語源とするブログというやつだ。最近ネット上に異常繁殖を続けているが、とりもなおさずインターネット上の新しいメディアとして注目されている。またブログの効用に目ざとい企業は、あらたな広告媒体として、あるいは安価なマーケティングツールとして活用しようといった試みがもたれている。ブログは私たちにどのような影響を与えるのだろうか。

■ ブログのおさらい
 いまさら「ブログとは何か」を語っても仕方ないと思っていたが、色々調べると案外わかっている様でわかっていない人が多いのがこのブログだ。まずその起源だが、「Hotwired Japan」によると、weblogという言葉を発明したのは、「ロボット・ウィズダム」を掲載しているジョーン・バーガー氏としている。またピーター・マーホルツ氏が1999年にweblogを「blog」と命名したと主張しているらしい。その日記を簡単にWeb上で作れるソフト、MavableTypeのようなソフトウエアが出てきたのが2000年ごろといわれているので、素人がかんたんにブログを構築できるようになったのを起源とすると5年前というのが妥当であろう。
 特徴は誰でも個人がWeb上に情報を簡単に発信でき、この意見に対して誰でもコメントしたり引用したりできる点が特徴だ。ネットの世界には“2チャンネル”のような有名なサイトがあり、個人が意見を発信できるブログと同様な役割を果たすが、こちらは定義上「掲示板」とされる。掲示板は運営者が個人に意見を発信させているのに対し、ブログはブログ主催者が自らが運営する点で異なるが、最近ではyahoo!や楽天、ライブドアなどが自分のサイト上にブログの開設をサポートしており、このあたりは掲示板と変わらない、ただし、トラックバック機能といって、自分のブログの意見がほかのブログに引用されたことが自動的にわかり、関連リンクが脳細胞のようにどんどん増えていく仕組みがあり、このあたりをもってブログと掲示板の大きな違いといった方がよさそうだ。
 ブログが米国で普及したのは2001年の同時多発テロの9.11といわれるが、日本では2002年にMovableTypegが日本語化され、2003年にNTTデータがDoblogなるブログをはじめたり、ライブドアやniftyがブログを開設したりして急激に広まった。

■ 第1世代から第2世代へ
 第1世代のブログとは、主に個人の情報発信で、趣味であるとか、日記の公開などが主体だったが、ブログ人口が増大するにつれ、新たなメディアとしての機能や企業にとって広告宣伝やマーケティングツールとしての役割を果たし、企業活動に多大な影響を与えるのではないかと考えられるようになった。
 ブログのもうひとつの利点は、掲示板より“お行儀”がよいことである。インターネットそのものが匿名性メディアであり、特に掲示板などでは無責任な誹謗中傷が日常茶飯事だが、ブログは特定のテーマについて議論を深めるため、無責任でいい加減な発言をする人は寄ってこなくなったり淘汰されたりしたことから、ネット上でも比較的まじめに議論でき、まともなメディアとして進化してきている。人気のあるコラムニストや経済評論家の木村剛氏などが率先してブログを開設していたことなども早めに市民権を得ることができた所以だろう。

■ 企業の広告、マーケティングとして
 米国ではインターネットユーザーの35%がブログを日常的に読んだり、書き込んだり、運営しているという調査結果がある。また、メディアメトリックスの調べでは、ブログツールをも提供する米国の3大ブログ・サイト、Blogger.com、TypePad、Xangaの合計利用者は、2003年9月には240万人だったものが2004年の8月には830万人に上っており、消費者のブログへの関心は急上昇している。またブログ専門の調査会社Technaratiという会社は現在世界中に410万のブログ・サイトがあり、7.4秒に新サイトが生まれているという。
 もちろん目ざとい企業は早速広告やマーケティングに生かそうとしている。基本的に広告には3種類のパターンがある。まず第1は「コンテクスチャル・アドバタイジング」。ヤフーのOvertureやグーグルのAdSenseのように、検索したとき上位にくるようにしておき、関連広告バナーが表示され、そのクリック頻度に応じて広告料金を受け取るというもの。当然当該テーマに関心の高い検索をしているため、広告効果は高くなる。通常はサイト運営者とブログ運営者が山分けする。
 2つ目は、「ダイレクト・アドバタイジング」。これはもっと直接的で、議論されているテーマに沿ったバナー広告をブログ内に直接置くものだ。うまくいけば広告効果は高いが、広告がここまで進入してくるとサイト自体の価値の中立性が疑問視されたり、スポンサーのバイアスがかかり自由な意見の交換に支障をきたしたりと両刃の剣となることもある。
 そして3つ目は「アドブログズ」といわれ、企業がスポンサーとなってブログを開設するものだ。たとえば、The Art of Speedといったナイキの広告ブログがあるが、ここではナイキが選んだ15人の若手映像アーティストにスピードをテーマにキャンペーン映像をつくらせるサイトだ。ただ話題性はあるもののそれほど多くの人がこのナイキのブログ・サイトを訪れていないので、効果のほどは?らしい。NewLineCinemaでは、ブログ・サイトで上映予定の映画に関して、見所やストーリなどについて議論させ、さまざまなアイデアを引き出し、人々の関心が高まるような世論操作を行うという。一般的に企業は自社に耳の痛いことを言われるブログは白眼視するかもしれないが、しかしブロガーたちは消費者の声を代弁しており、素直にブログと向き合うオープンな企業が生き残るであろう。企業が自社を扱うブログに対してどのような姿勢をとるかが重要な踏み絵となる。
 マイクロソフトは自社のブログを公開しており、自分たちが内部でどのような議論をしているかを見られるようにしており、オープンな企業姿勢をアピールしている。

■ 新たなメディアとして
 先日米国で初めてブログの記者がホワイトハウスに招待されたというニュースがあったが、すでに50のブロガーが合衆国下院からプレスパスを受けており、ニュースメディアとしての地位はほぼ確立したと見てよいであろう。
 新たなメディアというのは2つの意味がある。まず第1に、既存のメディアは一方的にニュースを流す。しかし長年築いてきたプロとしてのノウハウや権力との緊張関係、あるいは放送倫理規定や様々な法律に基づいて流している。一方のブログはプロフェッショナルのジャーナリストや言論機関の洗練されたニュースとしてではなく、プロの放送とは一線を画したニュースとなる。それを元に人々が議論し合い、意見を戦わし洗練されたものに収斂してゆくプロセスをとる点で、既存ジャーナリスムと異なり、多くのアマチュアの意見の集大成となる。
 第2に、既存のメディアはメディアを批判しないが、ブログはこの点自由である点だ。わかりやすい例が、ライブドアとフジテレビの争いに垣間見える。既存メディアは圧倒的にフジ寄りの姿勢であり新規参入を嫌っている。既存のメディア産業が新規参入のしにくい規制産業であり、膨大な利益を独占していること、強力な労組がありそのおかげで従業員の給料がべらぼうに高いこと。このあたりに言及しているメディアはあまり見たことないが、ブログにはある。よって既存メディアにはない“言論の自由”がある。

■ 知恵のデータベース資産生かせるか
 このようにブログというのは、新たなメディアとしての存在価値はある。多くの人々の知恵と知恵の融合やぶつかり合う場だ。しかし問題は、ブログは読むのに時間がかかることだ。関心のあるブログを登録しておき、自分に関心のある更新が出たときだけ知らせてくれるRSSというソフトもあるが、ブログは玉石混交であり、役に立つ意見かどうかは読まなければわからない。いずれにしても、新たな付加価値の知が形成され、ある意味では地球的規模で展開するブログは巨大な脳細胞のような役割を果たすことになるかもしれない。



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