DRI テレコムウォッチャー/「IT・社会進化論」

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  Skypeで音声コミュニケーションはどう変わる?  (IT アナリスト 新井 研氏)
2005年3月1日号

■ 概要
 インターネットにさえつながっていれば、地球上のどこにいてもメールをやりとりできるのが電子メールだ。同様に音声だってやりとりしてもいいじゃないかというのがインターネット電話。最近、インターネット電話の一種でSkypeというソフトウエアが静かなブームを引き起こしている。全世界のどこにいても無料で通話できるし、国際電話業者の通話料金と比較にならないほどの低コストで一般加入電話や携帯電話への通話をも可能にしている。最近では企業にIPネットワークを利用したIP電話への移行が進んでいるが、このIP電話と比較しても圧倒的に低価格だ。Skypeなどのソフトウエアによる通信手段は我々のライフスタイルにどのような影響をもたらすのだろうか。

■ ブロードバンドのキラーアプリ
 VoIPによるインターネット電話は、音声品質や安全性などの面でまだまだ音声コミュニケーションの主役にはほど遠い。しかし、個人も法人も既存の電話料金に対する割高感には辟易しているに違いない。携帯電話も今や重要なビジネスツールだが、高額な通話料金も企業にとっては今や3Kの一つだ。と言うわけで、一部企業の間では、現在の一般加入回線よりは割安なIP電話への移行を進めているが、これは法律的にはあくまでも“電話”であり、一定の音声品質とセキュリティ技術などを具備したものだ。そこでもっと安価なソフトフォンだ。ソフトフォントはパソコンやPDAなどの上でソフトウエアのアプリケーションとして作動し、音声をやり取りするもので基本的に通話料は無料だ。Yahoo!やMSNのメッセンジャー機能の音声機能といえばわかりやすいだろう。

■ 音声コンテンツの関わり
 Yahoo!やMSNのメッセンジャーはクライアント同士のソフトウエアでピアトゥピアでコミュニケーションを行う。パケットがインターネット上を行き交うわけだから、どのルートを通っていくかはわからないだけに安全とは言いがたく、それだけに盗聴の危険もあり、このあたりがIP電話と異なるところだ。さてメッセンジャーの仲間であるSkypeだが、電話ほどの安全性はないが、信じられないほど音が良い。メッセンジャーの音声機能はほとんど昔のAMラジオだが、SkypeはFMラジオのようなクリアな音でやり取りできる。ここまでだったら多少音が良いだけでYahoo!やMSNのメッセンジャーと変わりがない。実はSkypeは音声コミュニケーションや音声コンテンツのあり方を革命的に変えてしまうかもしれない可能性を秘めている。
 たとえば、離れたところにいる5人の証券アナリストがSkypeでディスカッションした会話を音声コンテンツとして配信する。配信する仕組みは今AppleのiPodで話題のPodcastingというやり方だ。つまり、iTuneで検索できるようにしておくわけだ。この仕組みはネトラジといわれる個人で手軽に解説できるネットラジオの仕組みににている。ネットラジオは個人が音楽を流したり、ディスクジョッキーをやったり、どうでもいい会話を流したりしており、いうなればブログの音声版だが、現段階ではどうも暇人がやっているとしか思えない内容だ。しかし、ブログがいまやメディアとしての一定の地位を確立し、ビジネスモデル化されたようにネトラジもどこでどう化けるかわからない。
 そうなるとiPodは単なるウォークマンではなく、さまざまな音声コンテンツの端末と言うことになる。朝起きたらお気に入りのネトラジのニュース番組を自動的にiPodにダウンロードして通勤途上に聞くとか(地下鉄はラジオが入らないので都合がよい)、あるいは英会話レッスン・コンテンツ、株式情報、業界ニュース、講演コンテンツなどを聴くことができる。つまり、Skypeとネトラジが結びつくシナリオだ。

■ 低コスト電話としてのSkype
 さてSkypeのコストだがSkypeを搭載しているPC同士なら全世界どこでも無料、SkypeOutという機能を使えば、日本から米国への加入回線だと、1分間に2.4円、携帯へも同価格、韓国へは3.3円、携帯で8.3円、ブラジルでも6円程度だ。というわけで純粋に通信手段としてのシナリオも浮上する。
 Skypeの低コストに目をつけた一部テレマーケティング会社やコールセンターが、Skypeで電話を掛けることで通信費を節約できないかを実験している。あるいは、このSkypeだけで仕事ができないものかを本気で実験している企業もあるようで、もしうまくいけば通信業界は大混乱というか大乱戦になるかもしれない。すでに海外ではSkype版イエローページのようなものも公開されており、Skypeの用途は広がりつつある。情報の重要性という視点で見ると、ティーンエイジャーのお友達同士のどうでもいいおしゃべりやメールに高額な携帯電話を使うのはなんと贅沢なことだろう。月に1万円使っている中高生などざらだ。PDAにSkypeをインストールすればよい。
 これまで企業は漏れてはいけない情報もいい情報もすべて高額で安全な加入回線などで行ってきたが、今後はその重要度に応じて音声通信手段を選び、コスト低減をにらみながら最適化する時代が来るであろう。そのときSkypeのような技術はきわめて重要なツールになると思われる。
 余談だが、Skypeに力を入れているのは日本ではPC周辺機器メーカーのバッファローと、今なにかと話題のライブドア。同社はネトラジにも力を入れており、今後どういったビジネスモデルを描いてくるのか興味深いところだ。


データリソース社では、「Skype」について記載のある下記のレポートをお取り扱いしています。


ビジネス向けVoIP市場:ビジネスチャンスと課題
Business VoIP Market - opportunities & challenges (フランス イダテ社)

住宅向けVoIPサービス:分析と予測(第2版)
Residential Voice-over-IP: Analysis and Forecasts (Second Edition)  (米国 パークスアソシエイツ社)

VoIPとネットワーク統合
Voice over IP and Network Convergence (米国 ジュニパーリサーチ社)



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