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  e-文書法はビジネススタイルをどう変えるか  (IT アナリスト 新井 研氏)
2005年2月1日号

■概要
 2005年4月に施行されるe-文書法は、文書帳票の紙による現物保存の規制を緩和し、電子的な保存を認めようというものだ。この法律が画期的なところは、始めから電子的に作成された文書だけでなく、既に紙で作成していた文書を過去にさかのぼってOCRやスキャナで読み取って電子的に保存に変更して構わないといった点であり、これまでは“絵に画いた餅”だったペーパーレスオフィスが前進することは間違いない。また、従来相手方に郵送していた契約書、請求書なども紙でやり取りする必要がなくなり、電子メールの添付ファイルの機能がフル活用されそうだ。

■e-文書法とは
 2005年4月に施行される法律としては個人情報保護法が知られているが、e-文書法が同日に施行されることを知っている人は意外と少ない。実はこちらもビジネススタイルに大きく影響を与えるものだ。国税に関する帳簿については1998年に電子帳簿保存法が施行され、電子的な保存が認められている。ただこの法律は融通が利かなく、始めから一貫してコンピュータで作成されたものに限っており、過去に遡って電子化して保存はできない。
 今回のe-文書法は過去に紙で作っていた帳簿や、相手から紙で渡された領収書などもOCRやスキャナで電子化して保存することが認められ、企業の文書保存コストを根本的に改善できることだ。
 この法律は政府の行政ワンストップサービスやパスポートのICチップ化などを実際の利用を促進するe-Japan加速化パッケージの一環としてあげられていたもので、商法や医師法など省庁にまたがって存在する関連法250種に対し、通則法(共通事項を定め複数の法律に適用)という形で対処するため、前述の電子帳簿保存法のような個別法によらず、手軽に効力を発揮できる。これにより、病院カルテ、財務諸表、議事録、営業報告書、など広範囲に及ぶ。免許書や許可証など現物で見せなければならないものは対象外だが、3万円以上の領収書が対象外となったのはいささか画竜点睛を欠く感がある。

■e-文書法成立の背景
 民間ビジネスでの文書の電子化はもはやあたりまえだが、政府や自治体は文書の電子化は真実性と見読性が確保できないとして紙にこだわってきて、官と関わる届け出、許認可に関する事務部分がボトルネックになっていた。ここにきて技術の進化とe-Japan加速化パッケージの追い風もあり、原則電子的保存を認めるようになったわけだ。
 この法律を後押ししたのが経団連だ。経団連の試算では上場2,000社の国税関連帳簿の保管コストは面積にして約3,000坪、年間約3,800億円が文書保存のコストになっているという。一般的にこれを電子的に置き換えると、紙文書とその保管スペースや管理コストは削減される。その分新たなIT機器やサービスなどへの投資を相殺しても60%〜70%は削減できるといわれている。
 新たに導入されるIT関連機器やサービスには、まずは視認性や見読性を保証するためガイドラインには「パソコンのディスプレイとプリンタを整備」とあるが、民間企業ではいやというほど行き渡っているため問題ないだろう。ただし真実性確保や偽造、改ざんを防ぐためには、新たにPKI(公開鍵暗号基盤)やタイムスタンプなどのサービスが重要になっており、関連ベンダーは虎視眈々とチャンスをうかがっている。

■ビジネススタイルはどう変わる
 コスト削減以外にどのようなことが起きるだろうか。
 まず第一に、電子申告、電子納税への移行が進むであろう。電子納税は2004年6月から全国的に始まったが、e-文書法との相乗効果が期待される。
 第二に、文書の電子保存だけでなく文書の起票からして電子的に作ってしまおうといったように、ビジネスプロセスに大きな変化がおきるだろう。電子的な商取引というとe-MarketplaceやEDIが想起されるが、通常の商取引が限りなく“e化“し、ビジネスは加速するであろう。おそらくは電子メールにファイルを添付するケースやより強固なドキュメントシステムの需要が高まるだろう。実際問題3万円以上の領収書が対象外というのは問題であり、いずれこの規制も緩和されることを期待したい。
 そして第3番目には、企業のほとんどの文書類が電子化されるということは、企業内にあるあらゆる情報が電子的に検索されたり、加工されたりする。極論すれば企業自体がデータウエアハウス化することになり、新たなマーケティング戦略の手段となる可能性が出てきた。検索サービスのグーグルは最近テレビ番組の検索サービスを開始するなど、検索対象の範囲はどんどん拡大している。最終的にはこの世のあらゆる情報を検索すると信じられないことをいうが、今回のe-文書法の展開次第でグーグルのシナリオはまんざらでもないかもしれない。新たな知の管理と活用は企業の価値を左右するほどに重要となってくるのかもしれない。



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