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地上波放送の巻き返しはあるか
   (ブロードキャスティングレビューシリーズ No.15)
2004年12月20日号

米国における地上波放送の地位は衰退している。全米1.08億のテレビ視聴世帯の内,ケーブルTV放送の再送信で地上波放送を受けている世帯は68.1%である。デジタル衛星放送による地上波再送信のサービスも始まっており,デジタル衛星サービスへの2300万の加入世帯の内の約70%の1600万世帯はデジタル衛星での地上波再送信を受けている。テレビ視聴世帯の内,ケーブルTV,あるいはデジタル衛星放送による再送信で地上波を受けている世帯は83%になる。これを逆に言えば,地上波放送局の電波をそのまま受信している世帯は1800万世帯しか無いことになる。

地上波放送の再送信義務があることから地上波局は成り立っている。もしこのMust Carryと呼ばれる規制が無ければ,視聴率の低い地上波局はケーブルTV,デジタル衛星事業者による再送信を失い,存在不可能になる。さらに,もしもケーブルTV,デジタル衛星事業者がローカル局の再送信をバイパスし,ネットワークからのフィードを再送信する事が可能になれば,地上波放送自体のビジネスモデルが成り立たなくなってしまう。その様な過激な規制の書き換えは起きないであろうが,この地上波に頼る世帯の減少がこのまま進めば,地上波局の存在価値が問われていく。

もし,地上波放送の巻き返しが起きるとすれば,それはデジタル化により可能になる。デジタル放送には19.4 Mbpsの容量が割り当てられている。これはHD放送に必要な容量であったが,エンコーダ技術の進歩により,すでに14 Mbps程度でHD放送が可能になっている。残りの容量を使い,通常画質の放送(マルチキャスト),それにデータキャストが可能になる。もしも,この余りの容量で魅力のあるサービスを提供する事が出来れば,視聴者を地上波放送に呼び戻すことが出来る。個々の局が魅力のあるマルチキャストのサービスを提供することは容易ではないが,地域の局が協力しすれば有料のマルチチャンネル放送サービスも可能になる。

すでにU.S. Digital Television(USDTV)はソルトレークシティー(ユタ州)とラスベガス(ネバダ州)で地域の放送局の余りの容量を合わせることで,十数のケーブルネットワークのチャンネルを放送するサービスを月額20ドルで開始している。受信には約100ドルで販売されているSTBが必要になる。ケーブルTV,デジタル衛星事業者のサービスを比べ,チャンネル数は少ないが,USDTVはすでに1万以上の加入世帯の確保に成功している。今年の末までにエンコーダをMPEG-4にアップグレードすることでチャンネル数を増やし,ケーブルTV,デジタル衛星放送に競合するサービスにすることを狙っている。また,USDTV以外にも地上波放送局のオーナー会社の1つであるEmmis Communicationsも他の地上波局との協力で有料放送を行う考えがあることを明らかにしている。

また,地上波放送のデータキャストによる疑似的なVODのサービスもすでに立ち上がっている。Walt Disneyの子会社Buena Vista Datacasting LLC.は2003年10月に地上アナログTV波のデータキャストを使った蓄積型のVODサービス,MovieBeamをフロリダ州のジャクソンビル,ソルトレークシティー,それにワシントン州のスポケーンで提供を始めている。MovieBeamのレシーバ(STB)月額$9のレンタル料で,最初から100の映画が録画されている。1週間に最大で10本の新しい映画がデータキャストにより送られ,HDに記録されていき,古い映画が消却されていく。映画の視聴料金は新作が$3.99,その他は$1.99である。MovieBeamのサービスは映画の更新にアナログ放送によるデータキャスト技術を使っているが,デジタル放送の余りの容量を使う事でより高度なサービスが可能になる。

この様なデータキャストによるVOD,マルチキャストによる有料放送等のデジタル地上波放送を使った新しいビジネスモデルが登場し,成功をすれば衰退を辿ってきた地上波放送の巻き返しが起きる可能性もある。


地上波放送の視聴方法

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